あやかしの四つ子 短編集

市野花音

【100pv記念ss】華の飲み物

 第5話屋上の午後入りと第6話自動販売機の間のお話です。

 いつも読んでくださりありがとうございます。

 何か記念に残したくて書きました。


         *

 「あ、お茶切れた」

 喉を通る渋いお茶が途切れたことに気がつき、つぶやく。

 「あ、お姉様!私の飲んでくださいまし!」

 すかさずらんが水筒を差し出してきた。どこの運動部のマネージャーですか?

 「いや、いいよ。自動販売機で買ってくる」

 私は空色のレジャーシートを立ち、上履きに足を突っ込もうとする。

 「あ、もう買っておきました」

 曲げわっぱ風のお弁箱を眺めていた小牧こまきが、素早く黄緑のキャップに深緑のビニールのペットボトルを掲げた。

 午後に入ったばかりの日差しに照らされて、中の緑茶が反射していた。

 「わー、ありがとうこまちゃーん」

 「だからこまちゃん言うな」

 思わず素に戻った小牧に突っ込まれてしまった。

 「小牧は本当に気が利きますわね。私も見なわらねば」

 「いえ、これは私の仕事ですから」

 キリッとした顔に戻った小牧が従者魂を見せている間に、私は正座に戻った。

 ペットボトルを潰さないように手加減しながらキャップを開け、水筒に入っていたお茶より随分と渋くないお茶を極々飲む。あやかし退治の後は霊力消費量は多くないはずなのに、若干だるい。

 ……あの山犬、家族とかいたのかな。

 レジャーシートの上に座り、談笑する弟妹と従者たちを見つめる。

 何やら話し込んでいるれんふじ

 水筒を見ながら盛り上がっている蘭と小牧。

 話している内容は、半妖の私のよく聞こえる耳にも届いた。

 その言葉たちにふと微笑みをこぼしながら、胸中で再確認する。

 私には、家族を守ることのできる権利がある。だから、全力で守るんだ。ありとあらゆる外敵から、この光景を守るために戦うんだ。

 「ん、どうしたんだ。明後日の方向向いて」

 蓮の怪訝そうな声が届いた。

 「なんでもないよー。緑茶、美味しい」

 「それは良かったです!」

 小牧の弾んだ言葉が飛んで来た。

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あやかしの四つ子 短編集 市野花音 @yuuzirou

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