第3話


「じゃあどこでやろっか」

「そうだなあ…」


 前に私の部屋に遊びに行きたいと言ってくれたし、私も自分の部屋に友達を迎え入れるというのに憧れてた。それなら「私の部屋で」と言おうとして、教室内がざわつき始めたのに気が付いた。

 清水さんも同じだったようで、2人してその騒ぎの中心であろう方に目をやると、


「だから、せっかく誘ってくれたんだから、もう少しまともな反応すれば?」

「せっかく佐野くんが声かけてくれたのに」


 どうやら席が近かった関谷くんに、佐野くんが勉強会に来ないかと声をかけたらしい。それに対して、たぶん素っ気ない反応だったんだろう。


「いや、あの、俺は…そういうつもりじゃなくて…」

「じゃあどういうつもりなのよ」

「だから…」

「ごめんごめん、関谷くんを困らせるつもりじゃなかったんだよ。ただみんなと一緒にやれば、また仲良くなれるかと思って声かけただけなんだ。本当にごめんね」

「うん…こっちこそごめん…」

「うん、それじゃあね」


 関谷くんは鞄を抱えて教室を出て行く。彼がいなくなった後、案の定


「何様なんだろうね」

「ホント。ぼっちで可愛そうだから声かけてあげただけだってのに」

「もう放っとけばいいんじゃない?」


 そりゃ気を使ってくれたっていうのはあるとしても、別に関谷くんは何も悪くないのに、どうしてそんなこと言われなきゃならないんだろう。それに、佐野くんは好き勝手言ってる人達にどうして何も言わず、ただ笑ってるだけなんだろう。


 怖い…


 怖い。よく分からないけど、とにかく今のこの光景が私には怖かった。


「行こっか」

「え?」

「とりあえずスタバでも行こ?」

「う、うん」


 清水さんと私は、まだ賑やかな教室を二人であとにした。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「感じ悪かったなー」

「うん…」


 清水さんはご機嫌斜めでホイップ増し増しのピーチフラペチーノを食べている。飲み物なのに食べ物でもあるんだと感じたのは、今は置いておこう。


「でも実際、クラスの中にはグループや派閥?みたいなのもあるから、仕方ないのは仕方ないんだけどね」


 そう。それは中学の頃から、昔からあるものだから仕方がない。


「私ね。中学に入ってすぐくらいは大人しくてね、今の関谷くんみたいな感じだったの」


 え、意外。そんなふうには見えなかった。


「みんなで一緒にランドセル背負ってた友達が、中学生になったからって急に大人ぶるというか、変わっちゃったのについていけなかったんだと思うの」


 分かる。そういうのあると思う。


「でも私の場合は、周りは結局小さい頃から一緒だった子ばかりだし、気が付いたら私も輪の中に入ってて、それで今に至るんだけど、新堂さんや関谷くんは違うじゃない」

「私と関谷くん?」

「そう。二人とも、周りは知らない子ばっかりなわけでしょ?」


 …そっか。それで清水さんは私にいつもよくしてくれてたんだ


「新堂さんは席も隣だし同じ女子だからこうして話すようになれたけど、関谷くんは男子だしね」

「うん、そうだね」

「たまに様子見てたけど、大人しそうだし、元々が一人でいるのが多かったみたいな話も聞いたから、まあいいかって思ってた」


 うん、私もそう話したし、それでいいんじゃないかと思ってた。


「でもね」

「うん」

「このゴールデンウィーク中にさ、たまたま駅前で会って少し話したんだけど」

「え?そうなの?」

「なんかね、凄い人見知りするんだってさ」

「え…」

「もう慣れたから今はどうでもいいらしいけど、一人が好きとか、そういうのではないらしいよ」

「そ、そうなんだ」

「うん。Lineも教えてもらったし」

「え!?」

「え?」

「あぁ…いや、うん、別に…」


 うん、別に何もないのに、なぜだかズルいと思ってしまった。


「あ、さては、ふふふ…」

「な、何よ…」

「ズルいとか思っちゃった?」

「お、思ってないですぅ!」

「あはは、分かりやすっ」

「ち、違うから…」

「だったらもっと普通に仲良くしとけば?せっかく同じ中学出身なんだから」


 まあ、その通りなんだけど…


「う…」

「まあ揶揄うのはこれくらいにして、別に嫌いじゃないんだったら、普通に話くらいすればいいと思うよ?」

「いや、別に嫌いとかじゃないよ…」

「それに、今日のこともあるし」

「今日のこと?」

「あの放課後のやり取り」


 ん~…確かに、あれで変に目を付けられたりしたら可愛そう。


「佐野くんってさ、ああいう人なんだよ」

「え?ああいう人?」

「そ、ああいう人」


 …言わんとすることは分かる。それでお昼の時もあの反応だったのかもしれない。


「うちのクラスはまず佐野くんがいて、その周りにさっきの人達がいて、あとはあのグループに入ってなくても、基本的にはみんな佐野くん主導で回ってる」

「まあ、クラス委員でもあるしね」

「そう。男女関係なく、仲のいいグループはいくつかあっても、それでもその中心には佐野くんがいるんだよね」


 こうして言われてみると、佐野くんって凄いなと実感する。そして、それをきちんと見れてる清水さんも凄い。


「その佐野くんが、さっきの、あのほとんど陰口みたいなセリフを何も責めないで、ただ笑ってたんだよね」

「あ…」


 そっか。だから怖いと思ったんだ…


「まあ、あからさまにいじめられるとか、そういうのはないと思うけど、どうせなら私は楽しく過ごしたいのよね」

「そうだね」

「なんとなく、新堂さんって私と考えが似てると思うし、だからこうして2人でいても楽なんだよね」

「ありがとう。私もそう」


 清水さん…優しいし、いい人だな。私の隣の席が清水さんで良かったと、本当に思う。


「あ、あの…」

「ん?」

「あの、名前で呼んでもいい…かな…」




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関谷くんは私の○○ 月那 @tsukina-fs

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