無表情だけど言葉が素直すぎる系Sっ気×ツンデレ気味な姉御肌の同級生ラブ

夕日ゆうや

第1話 素直な気持ち

 俺はどうして無愛想と言われるのだろう。

 よく無表情な男と言われる。

 クールで良いという人もいるが、それはまれだ。

 大抵の人間は表情を求める。

 俺には笑う資格はないのかもしれない。

「ほら行くよ」

 姉御肌な珠洲すずが俺を引っ張って学校へ向かう。

「どうしたんだい? 今日は様子が変だね」

「ああ」

「ま、あんまり語らないキミが……」

「どうした?」

 抑揚のない言葉で気になる続きをうながす。

「ま、あーしも思うところがあるわけさ」

「そうか」

 小麦色の肌。キラキラと輝く暗褐色な瞳。形の良い唇。

 背丈は高く167センチある。俺が172センチ。

 スタイルも良く、まるでモデルだ。

 多くの人が『可愛い』という部類に入るだろう。

「なんだよ。マジマジとみて」

 珠洲は可愛い。

「俺も」

「……なんだい?」

「俺も珠洲は可愛いと思う」

「はっ? 何言ってんの? バカじゃないの!?」

「酔狂で言うものか」

 淡々とした様子で言う俺。

 俺にオブラートに包むという言葉はない。変化球を投げるつもりはない。

 でも珠洲は満更でもない表情を浮かべているような……?

「まあ、珠洲は可愛いから」

「あーしは、別にあんたを好きじゃないんだからね!」

「知っている」

「~~~~っ!?」

 言葉を失うように震わせる珠洲。

「よ。朝からどうした? 相川あいかわ星夜せいや

「いや、珠洲は可愛いな、と改めて思って……」

 俺は無表情のままに語る。

「いやいや、今更かよ。星夜にはあきれ返るぜ」

「そういうあんたはどう思っているのさ?」

 珠洲が林原はやしばらいつきに訊ねる。

「あー。おれは彼女が一番可愛いかな」

「理恵ちゃんね。可愛いっしょ」

「それを言うなら珠洲の方が可愛いよな」

 慌てふためく珠洲の表情が見たくて、つい口を挟む。

「なっ!? 何言うんだよ。バカ!」

 顔をまっ赤にし、怒るように声を荒げる。

「ははは。いいコンビな。お前ら」

 樹がヘラヘラと笑いながら言う。

「人ごとだと思って」

「実際、人ごとだしな」

「くームカつく!」

 樹の態度に珠洲が噛みついている。

 呆れたのか、それとも疲れたのか、ため息を吐く珠洲。

「もういい。星夜は頭を冷やすべきっしょ」

 珠洲はそう言い、自分の席に座る。その周りには女子がたくさん集まってくる。

 自分の素直な思いをぶつける。

 それしか方法がない。

 そうでなければ、俺は珠洲と付き合うことはできない。

 彼女を手に入れる。

 しかし、鉄仮面とも言われる俺の表情では効果ないか。

 珠洲を見ていて、顔をまっ赤にさせるのは非常に面白いことが分かった。

 俺はあの顔をもう一度見たい。

 何度でもみたい。

 もっとからかってやる。

 昼休みになりいつものメンバーで昼飯を囲む。

 珠洲、俺、樹、芽紅めぐの四人だ。

「珠洲は毎日、弁当で偉いな」

「な、何を言っているのさ。バカ」

 珠洲は唇を尖らせて弁当箱を開ける。

 そこには唐揚げ、卵焼き、ほうれん草のおひたし、白米といったバランスの良い食生活が見てとれる。

 樹はコンビニで買ってきた弁当。芽紅は母の作る弁当。

 俺は売店で売っていた菓子パン。

 甘いものが好きなので、あんパンやメロンパンが多い。

「しかし、星夜は見た目によらず、甘いもの好きだよな」

「ほっとけ」

「そうそう。でも、わたしも初めはびっくりしたよ~」

 のんびりとした口調でしゃべるのは芽紅。

 母の作った弁当をつつきながらニコニコとしている。

 いつもニコニコしているので、どんな気持ちでいるのかはわかりにくい。

「ま、星夜の言うように珠洲は自炊できているものな」

「ふふ。そうだね~」

「う、うっさい」

 褒めるとすぐにツンデレ風味になる珠洲。

 そんな姿も可愛いが、俺だけに見せて欲しい顔でもある。

「そう言えば、進路調査表ってどうした?」

 二年のこのくらいになると絶対にある進路の話。

 樹の言うように進路調査表が配られたのだ。

「俺は進学にした」

 野菜ジュースをツーッと飲み干す。

「わ、私も進学だよ~♪」

「おれ、決めていないんだよな……」

「あーしも」

「あれ。珠洲は花嫁だろ?」

 俺はにやりと口の端をつり上げて言う。

「は、花嫁!? そんなわけないし!」

 珠洲は顔をリンゴのようにまっ赤にして慌てふためく。

 そんな姿も可愛い。

「もう、星夜のことは知らないし!」

「でも本当のことだろ? 前に卒業アルバムでみたぞ?」

 樹がそんなサポートをしてくれる。

「うっさい! 黙れ」

 珠洲は姉御らしからぬ顔でぷんすかと怒ってしまう。

「ま、進路はゆっくり考えていこーぜ?」

 フォローするように言ったのは樹。

 まあ、こいつが傷口に塩をぬったのだけど。

「……うっさい」

 珠洲は完全にご立腹モードらしい。

 俺はそんな珠洲の頭を撫でる。

「……はっ? え……!?」

 珠洲は顔を赤くして縮こまる。

「ほら。可愛い」

 かぁあっと顔を赤くする珠洲。

「なんだかいじめているみたい~」

 芽紅が眉根を下げてつまらなさそうに呟く。

「いや。そんなつもりじゃ」

「あー。あの鉄仮面が困っている~」

 芽紅は嬉しそうにからからと笑う。

 ばつの悪い俺はメロンパンにかじりつく。

「そういえば、午後は体育じゃん? 思いっきり動きたいんだよね、あーし」

「ん。私は苦手」

「芽紅は頭脳派だものな、おれの活躍見ててくれよ?」

 樹が自信満々に言うが、彼はサッカー部のエースだ。

 スポーツ万能、成績優秀。

 珠洲と樹はそんな言葉がよく似合う同級生だ。

 まあ、俺もできる方ではあるが。

 身体を動かすの、面倒なんだよな。


 しばらくして、午後の授業が始まる。

 女子と男子に別れて、グランドを半々で使う。

 休憩中の男子・女子は異性の活躍を見ることもできる。

 女子男子共にサッカーをやっている。

 芽紅がドジっ子を発揮し、ボールと一緒に転がる。

 その隣で珠洲が格好良くボールを蹴り、味方にパスを回す。

 俺と樹がパスを回し、他のサッカー部員にシュートを決めてもらう。

 俺の役割は味方にパスを回すこと。

 敵を攪乱させればそれでいい。

 それさえできていれば目立つ必要もない。

 樹を見た女子がキャーキャーさわいでいるが、俺には関係ない。

 俺は好きな人一人に好かれていればいい。

 珠洲に好かれてさえいれば、それでいい。


 ☆


 体育が終わると、俺は珠洲に壁ドンをしかける。

「な、何よ。星夜のくせに……」

 頬を赤らめ、もじもじとする珠洲。

「サッカー、良かったよ」

 そう言って顎を持ち上げる。

「う、うっさい!」

 その雰囲気に耐えられなかったのか、珠洲はすぐに俺を押しのけ、更衣室に行く。

 まあ、まだ焦る時間じゃない。

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