第4話 別れ話その1
二階の座敷席で仕切りの
広瀬明菜との交際は
入社三年目、春の人事異動で純は横浜から東京へ転勤になった。距離が離れて焦っていたのだろう。広瀬は会う度に結婚の話を持ち出すようになった。純はまだ二五歳手前だ。仕事もやっとばりばりこなせる様になってきた今、結婚して所帯を持つことなど考えられなかった。すれ違う思い。いつしか二人の間には深い溝が出来ていた。あの日はそれが決定的になった日だった。
「この後『もんじゃタウン』に行ってみようよ」
かわし続けて来たのに広瀬は
「あんな所、おもしろくも何ともないよ」
「私は本場でもんじゃ食べてみたいな」
純は別の提案をしてみる。
「こんな暑い日にもんじゃでもないだろ、第一、おいしいお寿司を食べておなか一杯じゃないか、それより銀座へでも出てみよう」
この日の広瀬は引き下がる気が無いらしい。
「じゅんちゃんが育った町なんでしょ。ここからすぐ近くなんだから行ってみようよ」
「いやだ!」純は不快さを隠さなかった。広瀬の甘え顏は消えた。
「なんでよ。じゅんちゃんの生まれ育った町を、何故私に見せてくれないの」
一年先輩のつもりの広瀬は何かとリードしたがり、少し前までの純はそれを
「もんじゃタウンに行きたいなら一人で行けば。女友達と行ったっていい訳だし」
広瀬は顔色を変えた。
「私を連れて行きたくない理由でもあるわけ」
「ない」
長い沈黙があった。
「じゃあいい…… もう私達終わりだよね」
目に涙を貯めていた。それを見ても、これから佃島へ連れて行くとも、次回は必ずとも言えなかった。
「終わりって何だよ。築地に来たいと言ったのも、始めから佃に行くつもりだったからなのか」
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