7月22日『賑わい』

読書感想文の本を探したいと悠馬が言うので、待ち合わせをして連れてくると、午前中でも人がたくさんいて賑わいを見せていた。

「うわ、ほんとに人たくさんいる……」

「夏休みはこうなんだって」

「で、ここの主は?」

「あそこ」

いつも来夢がいる場所を見ると、来夢は仕事用のデスクで突っ伏していた。声をかけると、疲れたような笑みを浮かべて顔を上げた。

「いらっしゃい、愛衣ちゃん」

「お疲れですね」

「騒がしいです……部屋に戻りたい……」

「こら、お仕事なんだからダメですよ」

ふわふわな来夢の頭を撫でると、横から悠馬が「猫みてぇだな」と呆れ顔をしていた。

悠馬は図書館の螺旋書架に惹きつけられて、三歩ごとに止まっては本棚から何冊か引き抜いて、パラパラめくって腕に抱え始めた。

あんなにたくさん、今日中に全部読めるのだろうか。来夢ほどではないけれど悠馬も読むのが速い。今持っているので七冊だけれど、悠馬だったら読めるか。

愛衣は昨日返却された本を片付けていく。途中、子供たちに本を読んでとせがまれてしまった。

「あー、そういやぁ」

聞いてきた悠馬は八冊目の本に目を落としていた。

「あの花葉かようの人が書いた日記ってやつ、なんかわかったの?」

「あぁ……うん」

曖昧に返事をする。

そういえば千燈の日記を見つけた時、悠馬たちに話したことがあったんだった。

「ねぇ悠馬、『星が降り、蛍舞う里』って聞いたことある?」

「なんでまた」

「日記に書いてあって。そこに千燈さん……花葉の人がそこに療養に行ったときのことが書いてあったの」

「知らん。てか、蛍の生息地なら大抵山奥だろ。そら星も綺麗だわ」

「……そっか」

「他になんか情報ないの?」

「んー……あ、花祭りってのがあるらしいよ。細かいことは書いてなかったけど」

「いや、範囲広いわ」

やっぱり呆れ顔でため息も吐いた。怪しいものでも見るみたいに目を細めてこっちを見て、また本選びに戻って行く。だったら聞かなきゃいいのに。


「愛衣ちゃん愛衣ちゃん」

本を全て返し終わったときだった。小声で名前を呼ばれ、声のする方を向くと実友ちゃんがちょいちょいと手招きしていた。

「あ、実友ちゃん。かあなちゃんに彩愛ちゃんも」

ひまわり依頼所でよく顔を合わせる面々が、ノートやプリントを広げていた。

「手伝いご苦労様。大変じゃないか?」

「ありがとうございます。特に問題ありませんよ」

「ところで愛衣ちゃん、ちょーっといいかな?」

実友に肩を掴まれて、そのまま座らされる。

「一緒に入ってきた男の子は誰?」

「え? あぁ、悠馬のこと? ただの幼馴染ですよ」

愛衣の答えを聞いて、かあながテーブルに身を乗り出して小声で耳打ちする。

「ほらぁ、だから言ったじゃないですか。愛衣ちゃんが来夢くん以外には見向きだってしませんって」

「えー、だってどう見たって距離感が近いやんか。こう、信頼しあってるっていうか?」

「みなさん……一体何の話をしてたんですか……っていうか、私と悠馬が? ないないないない。絶対ないです。悠馬が塩対応なのはいつものことだし、それに悠馬がおねつ上げてるのって大樹兄さんだから」

思わぬ単語を聞いて「んえ?」と実友は変な声をあげた。

「同じ合気道の道場に通っててね、まぁ、憧れってところかな。悠馬を兄さんの前に突き出してみたらいいですよ。態度ころっと変わりますから」

「ほぇ〜……いろんな人がいるんですねぇ」

「なんか、愛衣ちゃんを目の前にした来夢様みたい」

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