7月10日『ぽたぽた』

雨足が強くなり、雨樋あまどいからぽたぽたと垂れていた雫が、勢いを増した。

キッチンで、水色のガラスの花瓶に水を注ぐ。ミケ猫からもらった花を飾ろうと、学校帰りに百均で買ってきたものだ。

七月の初めから庭にやってくるようになったミケ猫に、花をみつがれるようになってしまって、既に九本となっていた。

白いマーガレットにピンクのガーベラ、スノードロップ、ペールカラーのカンパニュラと、種類は様々だ。今は一先ずガラスのコップに生けてあるが、さすがに窮屈になってきていたのだった。

「愛衣くん、お客さん」

どうやって生けようか考えていると、キッチンの戸口から雪彦が顔を出した。

「私にですか?」

「早く出てあげな」

こんな雨の中に誰だろう。水を止めて向かうと、開きっぱなしになっていた玄関から、くるんと白いしっぽが見えた。

「あら、また君?」

いつも花をくれるミケ猫だった。ずぶ濡れになって、ちょこんと前足を揃えてお行儀よく座っていたのだ。そして今日も、口には花をくわえている。

「こんな天気の日でも来たの? もう、こんなに濡れて……」

びしゃびしゃに濡れた身体を撫でて、スカートの裾で顔を拭ってやる。こんなことをしたら、桃子に怒られるかな。

そんなことを考えていると、ミケ猫は愛衣の目の前に花を差し出した。

「はいはい、今日もありがとうね」

今日の花はまたガーベラだった。同じ花を持ってくることもあるけれど、ガーベラはこれで三本目だ。くるりと茎を回すと、やわらかな花弁が揺れる。

「ねーぇ、君はどうして私にこんなにお花をくれるの?」

尋ねてみても、猫はにゃーおとしか鳴かず、前足を舐めている。仕事をし終えた、と満足そうな顔をしている。

「おうちはどこ? それとも野良?」

ミケ猫はくるんと尻尾を揺らして、にゃん、と可愛らしく鳴いてみせる。

「ねぇ、なんて言ったの? もう、猫の言葉がわかればいいのに」

いくつか気になったことを聞いてみても、猫だから答えないし、答えたとしても愛衣にはわからない。そうしているうちに、何か気を引くものでも見つけたのか、ミケ猫はまた雨の中を飛び出していった。

「こら、もう……気をつけていきなさいよ」

こうも立て続けに花を、それも自分に持ってくるなんて。

なにか因果でもあるのだろうか。それとも何かの祟りだったりするのだろうか。

はて、と首を傾げながら、十本目になったガーベラをくるくると回しながら、再びキッチンへ戻った。

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