7月4日『触れる』

星空図書館の館内に、午後十二時を知らせるオルゴールが鳴る。

書籍整理をしていた来夢は、もうそんな時間かと手を止めた。もうそろそろ夏休みに入るため、課題図書や読書感想文によさそうな本を厳選していた。もしかしたら、彼女が借りるかもしれないと密かに集めたものだった。

その彼女は今日までテストのはずだ。テスト勉強のため、昨日も一昨日も来ていない。メッセージアプリで簡単なやり取りはしているけれど、やっぱり直接会いたい気持ちだってある。

――――これは重症かな。

そう苦笑いした時だった。


「こんにちはー!!」


勢いよく図書館の扉が開かれ、澄んだ明るい声が響く。突然のことに心臓が飛び出でるかと思った。振り返ると、制服姿の愛衣が、膝に手をついて息を整えているところだった。

「愛衣ちゃん?!」

「来夢くんこんにちは!」

「テストはどうしたんです? たしか明日まででしたよね」

額の汗を拭い、へへ、と無邪気に笑ってみせた。

「数学をやっつけてきたので、あとは現国げんこくと音楽と美術だけなので、大丈夫です!」

それより、とスクールバッグを漁って一冊の分厚い書籍を出して、来夢に差し出した。

「これ読んでみてください」

「これは?」

「私の地域の歴史をまとめた書籍です。もしかしたら、あの日記の人物のこと、分かるかもしれません」

「そうなんですか?」

はいっ、と元気よく答えた。聞くところによると、愛衣の地域に『花葉かよう』という地名があり、『花鳥風月』という言い伝えがあるらしい。

「ところで、この本はどうしたんです?」

「学校の図書室から持ってきたんですよ」

「そうですか……ん? 持ってきた?」

「その……貸出禁止の本棚から持ってきたので……」

「え?!」

思わず愛衣を二度見してしまった。本人は気まずそうに視線を逸らして、えへへ、と苦笑いしていた。

「もう……こらっ」

愛衣の額を人差し指で額を突っつく。

「いけませんよ、そんなことしては。貸出禁止になっているのは、それなりの理由があるんです」

いつも愛衣がするように言い聞かせると、しゅんと肩をすくめて「ごめんなさい……」と、消えるくらいに小さな声が零れた。

「わかったならいいですよ。それを読めばいいんですよね?」

書籍を受け取り、彼女の頭にそっと触れると、汗かいてるのでダメです! と逃げられてしまった。

「アイスティーで一息つきましょうか。暑かったでしょう?」

本当に彼女はころころと表情が変わる。アイスティーという単語ひとつで、ぱっと花が咲いたみたいに笑みが広がった。

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