3)忍び寄る流行り病の影
「レモン、その病気が聖女様でも治せないことを、どこで調べた?」
第二王子のラルフが、女性文官のレモンを疑っています。
「隣国から私の実家に来たお客様です。内緒の話ですが、隣国でも同じ病気が流行しており、聖女様でも治せなかったそうです」
「そうか、その人物と会わせてくれないか」
第二王子が興味を示しました。私も気になるので、その人物から話を聞きたいです。
「分かりました。そのお客様は、これから王宮を見学に来る予定ですけど、どうします?」
「貴賓室が空いているだろうから、そこで会おう」
第二王子に、考えがあるようです。
「貴賓室ですか? まぁ今日は空いていますが、平民服を着た、ただの旅行者ですよ」
彼女は、相手が貴賓室に案内するような人物ではないと、困っています。
「頼むよ」
第二王子の頼みです。
レモンは、急ぎ足で部屋を出ていきました。
「ラルフ、貴賓室とは良い場所を思いつきましたね」
貴賓室なら、ここから王族しか知らない隠し通路で行けます。
「だろ? たぶん、アイツだから」
私も、隣国からのお客様は、アイツだと思います。
◇
「平民服の僕を貴賓室に案内するなんて、レモン嬢は何者なんだい? ただの女性文官ではないのだろ?」
隣国からのお客様が、誰もいない貴賓室で話し始めました。
平民服ですが、仕立てが上級貴族用です。金髪碧眼のイケメン男性です。
「いるんだろ? 出て来いよ」
彼が、挑発してきましたので、第二王子と私が姿を見せます。
「驚いたな、ラルフ王子とピーチ姫じゃないか」
「久しぶりだな、カーク王子」
彼は、隣国の第三王子です。国の行事の際、何度か挨拶し、顔なじみです。
「二人並んで、結婚でもしたかと驚いたぜ」
いつものチャラ男に戻っています。
でも、国民の幸せを第一に考える彼ならば、信頼できます。
現状を話します。
「なるほど、災難だったな」
「で、僕に何を期待している?」
カークは、普段はチャラ男を演じていますが、実は切れ者です。
「聖女様でも治せない病気、どうなっている?」
第二王子が訊ねます。
「レモン嬢から聞いたところでは、この王国でも流行り出したようだな」
「色々と調べたが、残念ながら、治療法はない」
カークが天を仰ぎます。嘘ではないようです。
「と、いうことは?」
私は、残酷なことを聞きます。
「楽に、いかせてあげるだけさ」
彼は胸の前で両手を組みます。
彼は、国民のために、自分の危険を顧みず、治療法を求めてこの国に潜入して来たのです。
沈黙が貴賓室を包みます。
「ところで、僕の国が、この王国に戦争を宣言した話は、知っているかい?」
カークが、事も無げに言います。
「国境に兵を集結させていることは、知っているだろう」
ラルフも、事も無げに言います。
戦争が始まれば、何人もの兵が犠牲になるのに……
「止めたいのだろう、カーク?」
「止めてみせるよ、ラルフ」
熱い思いが、ぶつかり合います。
「隣国の王族も、流行り病に苦しんでいるのだろう?」
「戦争を始めるにも、先頭に立つ王族がいないって所か」
ラルフが語ります。
また、沈黙が貴賓室を包みます。
「じれったいわね、二人とも、何を望んでいるの!」
私は、キレてしまいました。これは、お父様の血ですね。
「ピーチ姫には負ける」
カークは大笑いします。
「僕に、この王国の令嬢を差し出せ。結婚して、戦争を止めて、国交を回復してみせる」
驚きの提案です。
「人質? いや、まさか!」
第二王子の考えが、何かにたどり着いたようです。
「そうだ、国王も、二人の兄も、流行り病で先が短い」
カーク! そんなこと言っていいの?
「じゃ、将来の国王の二人が、ここにそろったわけね」
沈んだ空気を、入れ替えます。
「さぁ、二人とも、手を出して、握手よ」
二人の腕を引っ張り、強制的に握手させます。
「決まりだな」
「決まりだ」
「ところで、カーク、気になる令嬢は、いるのか?」
第二王子が訊ねます。その令嬢が、今後、平和のカギとなります。
「僕が気になる令嬢は、、、できたよ」
彼は、私に微笑みます。
「ピーチはダメだぞ!」
ラルクがムキになります。ちょっと可愛いです。
「僕が欲しい令嬢は…」
「「え~!」」
カークの口から、意外な名前が出ました。
(次回予告)
隣国のカーク王子というカードを得たピーチ。
次回は、第一王子の様子を探って、秘密が判るかも。
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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