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そして、私は高校の入学式に出た。
男子は中学の制服を着ている人もいたけど、女子は自分で組み合わせて可愛い制服みたいにしていたり、中学の制服にカーディガンやリボンを変えて着ていたり、お洒落な服を着ていた。
みんな、お母さんやお父さんと一緒に来ていた。
写真を親と一緒に撮ったりしている中、私は1人で門を通り真っ直ぐと歩いた。
いつも、どこかで自信がなかった。
私にはお父さんがいないし・・・生まれた時からお父さんがいないし、お母さんしかいなくて。
お金がなくて、ボロッッッボロのアパートに住んでいて、ランドセルも中学の制服も教科書も、服も下着まで誰かのお古だった。
本当は新しい物が欲しかったけど、そんなことを言ったところでどうしようもないから。
泣いても叫んでも、何かが変わることはないから。
だから、いつも泣かなかったし叫ばなかった。
そんな感情も、涙も、声も、勿体ないと思っていたから。
でも、いつも泣きたいと思っていた。
叫びたいと思っていた。
私はいつも、叫びたいと思っていた。
私が思うことを、叫んでみたいと思っていた。
そう思いながら、歩いていた時・・・
「あの子、ダサくない?
あれ中学の制服じゃん、鞄まで。」
そんな声が聞こえて、そっちを見る。
女子2人が私の方を見てバカにしたような顔をして笑っていた。
この中学の制服は、お母さんが知り合いから頭を下げて貰ってきてくれた物。
鞄だって、この靴だって。
お母さんが足を引きずって、貰ってきてくれた物。
私の為に、お母さんはいつだって足を引きずりながら歩いている。
私の為に、お母さんはいつだって足を引きずりながら生きている。
私にはお父さんがいないけど、お母さんはいる。
足を引きずりながらも私を育ててくれているお母さんが、私にはいる。
入学式には来られなかったけど。
今日も足を引きずりながら、私の為に仕事に行ったから、来られなかったけど。
私には、お母さんがいる・・・。
私には、お母さんがいる・・・。
バカにしたような顔をしていた2人が、驚いた顔をしてから、怯えたような顔になった。
私が真っ直ぐと歩き、近付いて行っているから。
そんな2人の目の前に立ち、聞く。
「ダサイって、私のこと?」
私が聞くと、2人は目を泳がせながらモゴモゴと何かを言っていた。
その様子を少し見た後に、口を開いた。
口を、大きく開いた・・・。
そして、言った・・・。
叫ぶように、言った・・・
「面と向かって言えないことを陰で言うのは、やめなさいよ!!!」
そう、叫んだ。
ずっと思っていたことを、叫んだ。
いつもと違う口調だったけど、こっちの方がスッと口から出てきた。
叫んだ後、足を引きずるお母さんの後ろ姿が少し見えたような気がした。
それと・・・
猫背の、隣の部屋の男の人の後ろ姿も・・・
何故か、見えた気がした・・・。
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