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そして、迎えた高校の入学式の朝・・・。
中学の制服に着替え、仕事に行くお母さんを見送った。
少ししてから、中学の鞄を持ち私も家の扉を開けた・・・。
部屋の扉に鍵を掛けていると、私の後ろを人が通った。
見てみると、隣の部屋の男の人だった。
その人が、郵便受けから取った郵便物を手に持ちながら、扉の鍵を開けている。
でも、鍵を開けるのに時間が掛かる・・・。
うちの部屋の扉も、そんな感じ。
それを何気なく眺めながら・・・
なんとなく、声を掛けた・・・。
「おはようございます。」
「おはようございます・・・。」
男の人は私の方を向くことなく、そう言ってくる。
鍵がなかなか開かないよう・・・。
男の人に近付き、男の人が持つ鍵に手を伸ばす・・・
「私がやってみます。」
「・・・お願いします。」
鍵から手を離した男の人の代わりに、私が鍵を回してみる・・・
そしたら、意外にもすんなりと開いた・・・。
「ありがとう・・・。」
男の人に鍵を渡すと、お礼を言われた。
鍵を渡す時に見えた、郵便物に書いてあった名前を思い出しながら、この人に笑い掛ける。
「防犯上のこととか、お母さんに注意をしてくれたお礼です。
ありがとうございました、“イチ”さん。」
“イチ”さんは、まばらに少し伸びている髭に囲まれた口を少し動かし・・・すぐに閉じた。
それを不思議に思いなら、イチさんを見る。
白いシャツはシワシワで、所々汚れている。
デニムはサイズが合っていないくてダボッとしている。
そして、4月なのにもうサンダルを履いている。
なんだか、面白くて笑ってしまった・・・。
そして、自分の格好を見下ろす。
制服姿・・・。
私は、高校の入学式に中学の制服で出る・・・。
「“イチ”さんって、何歳ですか?」
「あと2ヶ月と3日で23歳になる。」
そんな詳しい数字まで出て来て、また笑ってしまった。
「社会人ですか?今日仕事は?」
「僕は働いていない。」
「そうですか・・・。
私、今日高校の入学式なんです。
イチさんの高校の入学式、どんな感じでしたか?」
「二度と思い出したくもないくらい、最悪な1日だった。」
「それは気になります。」
「僕はあの1日の誤りで、常に邪魔される高校時代を過ごすことになった。」
何を誤ったのかは分からないけど、入学式の誤りで・・・高校生活がそんなことになることもあるのかと、心配になってきた。
「私が通う高校は、制服がないんです。
でも・・・中学の制服で入学式に出て、本当に大丈夫なのか少し不安です。」
こんな、誰にも言ったことがない不安な気持ちを、何故かイチさんに言った。
そしたら・・・
「キミは、僕に挨拶をして鍵まで開けてくれた。」
そんなことを言われる。
「僕がこんな格好で、こんな・・・よく変わっていると言われる性格なのをこの前見せたのに、キミは挨拶をして鍵まで開けてくれた。」
「それは・・・イチさんが良い人だと思ったから。」
「そういうものらしい。
どんな格好をしていても、どんな性格をしていても、それでも離れず近付いてくれる人がいるらしい。」
イチさんはどんな表情をしているのか分からないけど、口だけは笑っている。
「キミがどんな格好をしていても、どんな性格をしていても、それでも離れず近付いてくれる人と“友人”になればいい。」
そう、言って・・・
そう言って・・・
それだけ言って、イチさんは私の返事も待たず、部屋に入って行った。
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