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高校に入学する直前 春休み
高校入学の前に、このアパートに引っ越してきた。
ボロッッッボロのアパートから、ボロッボロくらいにランクが上がった。
部屋にはユニットバスがある。
銭湯じゃなくて毎日家でシャワーを浴びられて、トイレだって家の中にいるのに行ける。
それに、洋式のトイレ。
それに嬉しく思いながら、中学の体育着姿で段ボールを開け、段ボールに詰めてきた物を次々に部屋の中に片付けていく。
「サチ、お母さんも帰ってきたらやるからね。」
「今日中に終わらせたいから、全部やっておく。」
「・・・分かった。お願いね。」
お母さんが心配そうな顔をしながらも、私が何を言っても聞かないと分かっているので頷いた。
お母さんが部屋の扉を開け、足を引きずりながら仕事に行くのを玄関から見送った。
夕方までお昼ご飯も休憩も取らず、全て片付けきった。
空になった段ボールを折り畳み、紐で縛る。
それをダイニングの空いているスペースに置いていた時・・・
開けていたキッチンの窓から、男の人が通ったのが見えた・・・。
前髪が長くて眼鏡を掛けた、猫背の男の人だった。
それを何気なく見ていると・・・
通り過ぎたと思っていた男の人が、また戻ってきて・・・
そして、その窓から見てきたかと思ったら・・・
「1階は、犯罪に巻き込まれる確率が高い。
お母さんに伝えて欲しい。
母子家庭で、高校生になる娘との2人暮らしだと、初対面の相手に教えるものではない。
この窓も部屋の窓も開けると危険だからすぐに閉めるように。
それでは、失礼。」
と、小さな声でボソボソ話し・・・
でも、不思議とちゃんと聞こえるギリギリの喋り方で・・・
私の返事も待たず、去って行った。
去って行ったかと思ったら、すぐに隣の部屋の扉の鍵をガチャガチャとする音が聞こえ・・・
扉が開き、閉まる音がした。
*
「サチ、窓少し開けない?」
仕事から帰り、私が作った夜ご飯を食べるお母さんに言われる。
「1階は犯罪に巻き込まれる確率が高いんだって。
あと、初対面の人に、母子家庭で私がいること言わないでよ。」
「そんなこと言ってな・・・あ、お隣さんに言った。」
「何で言ったの?
夕方、その人から私が注意されたよ。」
「引っ越しの挨拶に行った時、他の部屋に回るのを止められたの。
そんなことをするのは危険だって。
どこの部屋に自分が住んでいるのか、自ら見せに行く必要はないって。」
「あの人なら言いそうだね。」
「その時に、“高校生の娘と2人暮らしだから、確かにその通り”って答えちゃった。」
危険と言われた直後にそんなことを言ったお母さん・・・。
でも・・・
「お隣さん、変わってるみたいだけど良い人そうでよかったね。」
「そうなの、だからつい言っちゃって。」
「気を付けてよ、本当に。」
そんな会話をしていたら、お母さんが思い出したようにお財布から5千円札を渡してきた。
「これで入学式に着ていく服とか、学校に着ていく服買ってきて?」
「そんなの勿体ない。
制服のない高校だし、入学式は中学の制服で出る人もいるって聞いたから、それで行く。
私服も今あるので足りてるから、お金が勿体ない。」
「・・・分かった。
あと、お母さん・・・入学式行けなくてごめんね?」
「何回も聞いたよ、仕事でしょ?
入学式くらい1人で出られるから。」
そう答えた・・・。
だって、こう答えるしかないから。
こう答える以外に、どんな答えがあるのか・・・
小さな頃から、私は知らないから・・・。
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