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「“ミツ”も予想も予測も出来ないけど、“友達”も似たような子だ。」
「友達じゃないから!
向こうが勝手にそう思って、そう言ってるだけ!」
「僕もだ・・・。」
“イチ”が小さく呟き、部屋の床に置かれた“それでも、諦めない”という文字をまた見下ろした。
そして、小さな声で呟く。
「僕も、勝手にそう思って・・・勝手に、そう言っていた。」
「なにを?」
「“ミツ”とのことを・・・。
疑問にも思わなかった。
1年1ヶ月と3日、“ミツ”が会いに来なくても・・・。
それでも、僕は疑問にも思わなかった。」
“イチ”が、ダサイ眼鏡を外し・・・前髪も手で後ろに流した。
「一人暮らしを始めたとお母さんから聞いた時も、それを僕に言なかったことも。
“ミツ”の誕生日も、僕の誕生日も、“ミツ”が2回も・・・会いに来なくても。
疑問にも思わなかった。
“ミツ”は、予想も予測も出来ない子だから・・・。」
“イチ”が、泣きそうな顔で・・・私を見る。
猫背でもなく、“普通”に立って・・・ゆっくりと近付いて来た。
「“ミツ”が23歳で終わらせていたことを、僕は知らなかった。
知らないまま、僕は・・・ずっと“ミツ”と性行為をしていた。
コンドームをつけて、僕は“ミツ”と・・・“ミツ”ではなくなっていた女の子と、僕は性行為をしていた。」
「なにそれ?」
「僕は・・・身体だけの関係だった?
23歳の時、それに変えた?」
「・・・23歳の時じゃない。
最初から、身体だけの関係だったでしょ?」
そう答えると、“イチ”が凄い驚いた顔をして・・・
驚いた顔をして・・・
涙を、流した・・・。
“イチ”が泣いているところを、私は初めて見た・・・。
泣くのはいつも、私ばっかりだったから。
「最初から・・・?
最初からって、最初からって、どこから?」
「そんなの、最初から。
初めて性行為をした日から。」
「そこから・・・既に、僕達は身体だけの関係だった・・・?」
「私だって、知らなかった・・・。
何ショック受けた顔してるの?
予想も出来なかったし、ショックだったのは私なんだけど。」
今更こんな昔の話をされ、その時のことを思い出して涙が流れてきた。
抱き締めていたクマのぬいぐるみを、少し強く抱き締める。
「赤ちゃん、出来なかったから・・・。
あの時も、妊娠したら結婚するって・・・“イチ”は言ってた。
避妊具つけてたけど、私は“イチ”がそう言ってくれたのは嬉しかった。
でも、避妊具つけてたから、妊娠出来なかった。」
クマのぬいぐるみを、見下ろす・・・。
「“イチ”が言った・・・。
幼なじみの“二葉”さんに。
あの時も、私のことは“彼女じゃない”って。
私の19歳の誕生日から、避妊具してだけど性行為しまくってた私のことを、“彼女じゃない”って。」
泣きながら、“イチ”を見る。
「デートもしたことなかった。
連絡先も教えてくれなかった。
いつも、会いに行くのは私からだった。
性行為を誘うのも、毎回私からだった。
それでも、私は“彼女”なんだと思ってた。」
クマのぬいぐるみに、私の涙が次々に落ちていく。
「“彼女”に出来ないなら、あの時・・・性行為して欲しくなかった。
“慰めて”って言ったけど、“彼女”に出来ないなら、断って欲しかった。
でも、後から思い返すと・・・“イチ”は乗り気じゃなかった。
“イチ”はいつだって、乗り気じゃなかった・・・。」
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