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「はい!出来たわよ!!

さっさと食べてさっさと帰って、旦那とイチャイチャ・・・あ、旦那出張中なのね。」




おにぎりをのせたお皿を、床に置く。




「人の旦那のスケジュールまで把握してるなんて、流石ブス。」




そう言って大嫌いな女が笑いながら、準備出来ていた書道で、文字を書いていく。

何回か、その場で見たことがある。

この大嫌いな女が文字を書くと、よく人が泣く。




それを、いつも不思議に思いながら見ていた。

私はこの文字を見ても、何も思ったことがなかったから。





「今日は、私に書きに来てくれたの?」




「うん、お母さんが明日手術だって聞いたから。

ブス明日会社休むんでしょ?

これお母さんにあげてよ。」




「そう、ありがとう。」




「ブスの友達だしね。」




「自称でしょ?

私は認めたことないわよ!」




大嫌いな女が、イライラするくらい可愛い顔で笑いながら、私が作ったおにぎりを食べる。




それを見ながら、クマのぬいぐるみを抱き締める。




クマのぬいぐるみを抱き締め・・・




大嫌いな女が書いてくれた文字・・・





“それでも、諦めない”





を、眺める。

眺めながら、やっぱり泣かなかったことに首を傾げる。






「私、これを見ても泣かないのよね。」





「今まで、それでも何かを諦めないと思ったことないからでしょ?」





そんなことを言われ、考える・・・。




「それなりに、頑張って生きてきたわよ。」




「そうだろうね、ブスの実家もあんな感じで大変だっただろうし。」




「そうね・・・。

でも、あの前のアパートはもっとボロッッッボロだったわよ?

ユニットバスどころかシャワーもなかったし、トイレはアパートの共同部分にしかなかったから。」





そう答えながら、私もおにぎりを食べる。

そんな私を、大嫌いな女が首を傾げながら見てくる。





「ブスって、何でブスなんだろ?」




「ブスなんて、あなた以外に言われたことないわよ。」




「こんなにブレないブス、見たことないから。

秘書課みんなブスだけど、秘書課で1番ブスだよ?」




「うるさいわね、もう何回も聞いたわよ!!」





私が怒ると、大嫌いな女が嬉しそうに笑う。

それを見ながら・・・私も少し笑ってしまった。





大嫌いな女の旦那も主張中だし、それから麦茶を飲みながら2人で話していると・・・






インターフォンが、鳴った・・・。







誰かと思い、座りながらチラッと見てみると・・・








見てみると・・・









“イチ”だった・・・。




何で家を知っているのか・・・と、思ったけど・・・お母さんに聞いたと予想出来た。




「出なくていいの?」




「いいのよ、一人暮らしの部屋にあんな不審な見た目の男が来たら、出たらいけないものなのよ。」




麦茶を飲みながらそう答えると、大嫌いな女が・・・珍しく真剣な顔になり、ゆっくりと立ち上がった。




たまに、こんな顔をする。

書道以外でも、誰かを見る時にこんな顔になる。

いつもは一瞬だけど、今回は真剣な顔のままインターフォンのカメラに映る“イチ”を見ている。




そして・・・




「カメラ越しだと分かりにくいけど・・・結構可愛い感じだよ?」




と・・・。

実家に何度か・・・というか、何度も遊びに来たことがある大嫌いな女。

でも、“イチ”に会ったことはなかった。




そんな大嫌いな女が、“イチ”を見て・・・。

しかも“普通”の“イチ”ではなく、ボロボロでヨレヨレな方の“イチ”を見て、そう言っている。




それに少し驚いていると・・・




大嫌い女が、玄関に・・・




玄関に、向かって・・・





「・・・っ待って!開けないで!!!」





そう、叫んだけど・・・





叫び終わった時には、大嫌いな女が玄関を開けた後だった。

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