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一人暮らしをしている部屋に、逃げるように帰って来た。
泣きながら、帰って来た・・・。
泣きながら帰って来て、ベッドに寝ているクマのぬいぐるみを勢いよく持ち上げ・・・
勢いよく、持ち上げ・・・
持ち上げて・・・
抱き締めた・・・。
優しく、抱き締めた・・・。
優しく、優しく、抱き締めた・・・。
“はじめ”さんが・・・“イチ”が、落としてくれたクマのぬいぐるみ・・・。
1回で、たった1回で落としてくれた、クマのぬいぐるみ・・・。
なんだか、赤ちゃんくらいの大きさに思えて・・・
このクマのぬいぐるみを、あの日から毎日優しく抱き締めていた・・。
優しく、優しく、抱き締めていた・・・。
私は、ずっと“イチ”と結婚したかった・・・。
でも、“イチ”は私を彼女として認めてくれなかった・・・。
認めてくれなかった・・・。
そして、“はじめ”さんも・・・。
どう見ても“イチ”には見えなかった“はじめ”さんも・・・
私を彼女として、認めてくれなかった・・・。
この世に生まれた時から、1番認めて欲しかった男の人には認めて貰えず・・・
ずっと、ずっと、大好きだった男の人にも、認めて貰えなかった・・・。
クマのぬいぐるみを、少しだけ強く抱き締める。
私は、“イチ”と結婚して・・・
“イチ”との赤ちゃんが、欲しかった・・・。
お金なんてなくても、私と子どもを大切にしてくれなくても・・・
私は“イチ”と結婚して・・・
“イチ”との赤ちゃんが、欲しかった・・・。
*
泣き疲れるくらい、泣いて・・・。
まだ泣いていたけど、疲れたので・・・ずっと着たままだったスーツを脱ぎ裸になった。
そしてお風呂場に行き、シャワーを浴びた。
泣きすぎてドロドロになっている化粧を、メイク落としで落とす。
ドラッグストアで売っている安いシャンプーを泡にして頭を洗い、安いトリートメントを髪の毛に伸ばしていく。
手グシで伸ばした後、荒いクシを使い綺麗に伸ばしていく。
数分そのまま置き・・・シャワーで流した。
髪の毛をヘアゴムで結び、安いボディーソープで身体を優しく洗っていく。
最後に洗顔フォームで泡を作り顔を洗う。
シャワーで全身をサッと流した後、お風呂場を出た。
タオルで髪の毛や身体を拭き、それからパンツを履いて高校で着ていた体育着を着た。
広げたバスタオルを肩から掛け、ドラッグストアで買った安い保湿クリームを少しだけ顔に塗った。
「髪の毛は、自然乾燥でいいや・・・。」
そう呟きながら、またクマのぬいぐるみを抱き締めていた時・・・
インターフォンが、鳴った・・・。
インターフォンのカメラを見てみると、ふざけた格好をしている大嫌いな女だった。
こんな日に来たことをイライラしながら、その勢いで玄関の扉を開けた。
「いつも急に来るのやめなさいよ!!
スマホの意味!!!!
スマホ使いなさいよ、スマホを!!!!」
私の部屋に今日も急に来た、大嫌いな女に怒鳴る。
そして、うちの商品ではなく・・・ふざけた格好のまま来た女を見て、また叫ぶ。
「あなた、なんて格好してるの!?」
赤いチアリーディングの格好、ツインテールの女に、そう叫ぶと・・・
その女がいつものように、いつも以上に大笑いをしている。
「ブスこそ、今日はクマまで抱いてるじゃん。」
「うるさいわね、これは私の赤ちゃんよ!」
「早く入れてよ、この格好だし。」
「なんでその格好で来たのよ!?」
大嫌いな女、今日も突然来た女に怒鳴りながら・・・今日も部屋に入れる。
「夜ご飯は!?食べたの!?」
「家帰ってから食べる。」
「もう20時だから、少し食べていきなさいよ!」
「じゃあ、食べる。ブスのご飯美味しいし。
あれ食べたい、チーズとオカカのおにぎり。」
「本当に子ども舌ね!!」
今日も怒りながら・・・
キッチンにある電子レンジで冷凍白米を温め、チーズを手で細かく千切り、そこにオカカ・・・醤油を入れる。
ホカホカの白米をそこに入れ、スプーンで混ぜていく。
少し、大嫌いな女を確認すると・・・
持ってきていた新聞紙を床に広げ、そこに書道をする準備をしている。
この部屋で初めて・・・書道をするらしい。
不思議に思いながらも、小さめに握ったおにぎりに海苔を巻いていく。
あの大嫌いな女は、海苔を巻いたおにぎり・・・それもしなしなになった海苔を巻いたおにぎりが好きだから。
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