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一人暮らしをしている部屋に、逃げるように帰って来た。




泣きながら、帰って来た・・・。




泣きながら帰って来て、ベッドに寝ているクマのぬいぐるみを勢いよく持ち上げ・・・




勢いよく、持ち上げ・・・




持ち上げて・・・




抱き締めた・・・。




優しく、抱き締めた・・・。




優しく、優しく、抱き締めた・・・。




“はじめ”さんが・・・“イチ”が、落としてくれたクマのぬいぐるみ・・・。




1回で、たった1回で落としてくれた、クマのぬいぐるみ・・・。




なんだか、赤ちゃんくらいの大きさに思えて・・・




このクマのぬいぐるみを、あの日から毎日優しく抱き締めていた・・。





優しく、優しく、抱き締めていた・・・。





私は、ずっと“イチ”と結婚したかった・・・。





でも、“イチ”は私を彼女として認めてくれなかった・・・。





認めてくれなかった・・・。





そして、“はじめ”さんも・・・。





どう見ても“イチ”には見えなかった“はじめ”さんも・・・





私を彼女として、認めてくれなかった・・・。





この世に生まれた時から、1番認めて欲しかった男の人には認めて貰えず・・・





ずっと、ずっと、大好きだった男の人にも、認めて貰えなかった・・・。





クマのぬいぐるみを、少しだけ強く抱き締める。






私は、“イチ”と結婚して・・・






“イチ”との赤ちゃんが、欲しかった・・・。






お金なんてなくても、私と子どもを大切にしてくれなくても・・・






私は“イチ”と結婚して・・・






“イチ”との赤ちゃんが、欲しかった・・・。











泣き疲れるくらい、泣いて・・・。

まだ泣いていたけど、疲れたので・・・ずっと着たままだったスーツを脱ぎ裸になった。




そしてお風呂場に行き、シャワーを浴びた。

泣きすぎてドロドロになっている化粧を、メイク落としで落とす。

ドラッグストアで売っている安いシャンプーを泡にして頭を洗い、安いトリートメントを髪の毛に伸ばしていく。

手グシで伸ばした後、荒いクシを使い綺麗に伸ばしていく。





数分そのまま置き・・・シャワーで流した。

髪の毛をヘアゴムで結び、安いボディーソープで身体を優しく洗っていく。

最後に洗顔フォームで泡を作り顔を洗う。





シャワーで全身をサッと流した後、お風呂場を出た。

タオルで髪の毛や身体を拭き、それからパンツを履いて高校で着ていた体育着を着た。





広げたバスタオルを肩から掛け、ドラッグストアで買った安い保湿クリームを少しだけ顔に塗った。





「髪の毛は、自然乾燥でいいや・・・。」





そう呟きながら、またクマのぬいぐるみを抱き締めていた時・・・






インターフォンが、鳴った・・・。






インターフォンのカメラを見てみると、ふざけた格好をしている大嫌いな女だった。






こんな日に来たことをイライラしながら、その勢いで玄関の扉を開けた。




「いつも急に来るのやめなさいよ!!

スマホの意味!!!!

スマホ使いなさいよ、スマホを!!!!」




私の部屋に今日も急に来た、大嫌いな女に怒鳴る。

そして、うちの商品ではなく・・・ふざけた格好のまま来た女を見て、また叫ぶ。




「あなた、なんて格好してるの!?」




赤いチアリーディングの格好、ツインテールの女に、そう叫ぶと・・・

その女がいつものように、いつも以上に大笑いをしている。




「ブスこそ、今日はクマまで抱いてるじゃん。」




「うるさいわね、これは私の赤ちゃんよ!」




「早く入れてよ、この格好だし。」




「なんでその格好で来たのよ!?」




大嫌いな女、今日も突然来た女に怒鳴りながら・・・今日も部屋に入れる。




「夜ご飯は!?食べたの!?」




「家帰ってから食べる。」




「もう20時だから、少し食べていきなさいよ!」




「じゃあ、食べる。ブスのご飯美味しいし。

あれ食べたい、チーズとオカカのおにぎり。」




「本当に子ども舌ね!!」




今日も怒りながら・・・

キッチンにある電子レンジで冷凍白米を温め、チーズを手で細かく千切り、そこにオカカ・・・醤油を入れる。

ホカホカの白米をそこに入れ、スプーンで混ぜていく。




少し、大嫌いな女を確認すると・・・




持ってきていた新聞紙を床に広げ、そこに書道をする準備をしている。

この部屋で初めて・・・書道をするらしい。




不思議に思いながらも、小さめに握ったおにぎりに海苔を巻いていく。

あの大嫌いな女は、海苔を巻いたおにぎり・・・それもしなしなになった海苔を巻いたおにぎりが好きだから。

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