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それからは・・・
「今日しても・・・意味あるの・・・っ?」
“はじめ”さんのボロッボロのアパートの部屋のベッドの上の、ボロボロでヨレヨレの姿に戻った“はじめ”さんとそういうことをしている。
あれから1週間後に連絡があり、会った時には無精髭も伸びていた。
前髪は少し長めくらいの長さだったらしく、やっぱり目には隠れているし、ダサイ眼鏡をしている。
スーツも鞄も革靴も、全てがボロボロでヨレヨレに戻っていた。
四宮一は、有名私立大学の教授だった。
秘書課の雌豹達が調べた情報によると、数理科学という物の教授だった。
本も出しているし、有名な論文もあったりと、結構凄い人らしい。
“働いていない”
そう言っていたのに、四宮一は働いていた。
お金持ちであるようなので、雌豹達は“優良物件”と言っていたけど・・・
私は、“お金持ち”で“私と子どもを大切にしてくれる”人が優良物件だと思っている。
こんなに、嘘や何かを隠しているような男が・・・
私と子どもを大切にしてくれるのか・・・。
私にはやっぱり優良物件とは思えなくて。
それでも・・・
「あ・・・っっ!!」
排卵日でもないのに数日おきに連絡があり、生殖行動ではない・・・性行為をしている。
これがもう、物凄く上手い。
これだけでも、やっぱり落とされてしまう。
デートも何もない、このボロッボロのアパートの1室、そのベッドの上だけの関係だけど。
こんなの、落ちてしまう・・・。
*
温かいお湯でシャワーを浴び、汗で気持ち悪くなった化粧も落とす。
ボディソープも洗顔フォームもメイク落としも、ユニットバスに置かせてもらった。
ユニットバスを出てから、この前私が洗濯をしたタオルで身体を拭く。
持ってきていたTシャツとハーフパンツの部屋着を着て、部屋に戻ると・・・
“はじめ”さんは今回もいなかった。
紙と本まみれの床の上を、なるべく踏まないように歩きベッドまで戻る。
そしたら、近くの窓から“はじめ”さんの後ろ姿が今回も見えた。
空を見上げながら・・・スマホを耳に当てていた。
震える手で窓を少しだけ開けてみると・・・
“はじめ”さんの小さな声がしっかりと聞こえてしまった・・・。
「うん・・・・・・・うん・・・・・彼女はいない。
・・・・・分かった、今度そっちの家に行く。
・・・配偶者と上手くいってる?
・・・・・・・分かった、何かあったら連絡して。
・・・・・・・・いいよ、二葉(ふたば)は幼なじみだから。うん、じゃあ・・・また。」
そんな会話の後も、しばらくスマホを耳に当てていた。
私の時は、返事も待たずにすぐに電話を切ってしまうのに・・・。
幼なじみの二葉さん、配偶者がいる二葉さんとの電話は、しばらく耳に当てているらしい。
Tシャツの上、胸の谷間にのる指輪を見る。
中心の大きなダイヤ、リングの部分にも全部ダイヤがついている。
あのブランドのこのデザインだと、400万円は超える。
この婚約指輪を、“はじめ”さんは誰に渡そうとしていたのか・・・。
溜め息を吐いて、窓を開け私もベランダに座った。
“はじめ”さんは私を見ることもなく、空を見上げながらお酒を一口飲んだ。
それを見て、少し私の方に寄っていたお酒を取り、私もお酒を飲みながら空を見上げる。
「“はじめ”さん、私の名前覚えた?」
空を見上げたまま、聞く。
「名前、なんだっけ?」
その返事に、泣きそうになった。
泣きそうになった・・・。
「妊娠したら、本当に結婚するのよね?」
「キミがそれでいいなら。」
そんな返事で、そんな・・・返事で・・・。
そこに“はじめ”さんの気持ちや意思はないのだと分かる。
私の名前は、まだ覚えていない。
彼女でもないらしいから・・・。
妊娠して、私が望めば結婚はしてくれるらしい。
でも、妊娠していない今、私は彼女でもない。
“はじめ”さんといると、私には名前がないし、彼女でもない。
私は、なんなんだろう・・・。
今の私は、なんなんだろう・・・。
そして、思い出した。
自分で入力したから、思い出した。
私は、“3”だった。
“はじめ”さんのスマホに登録した。
“さちこ”の“さ”で、なんとなく“3”と入力しておいた。
他の人に“3”の番号を振っていなかったし、それは確認して“3”と入力した。
それからは、連絡が来るようになった。
だから、私は“3”。
妊娠出来るまで、私は“3”。
9月の排卵日は、終わっている。
“はじめ”さんに排卵日を言ったところ、排卵日前後の3日間、当日も含め、生殖行動をした。
だから、その時期は1週間毎日会えていた。
その時感じた幸せを思い出しながら、“はじめ”さんと同じく空を見上げる。
見上げ続ける空は今日も曇っていて、少しだけ涼しい夜だった。
9月も終わり、10月になった・・・。
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