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「電気とガス、払うお金ないの?」
ベッドの上に2人で汗だくで寝転がり、“はじめ”さんに聞く。
「払えるのに、止まった。」
「現金で支払いするのを忘れていたパターンね。
口座引落しかカード払いにしましょう。
今手続き進めるわよ。
水道は・・・止まるのが1番遅いのよね。
そっちもやりましょう。」
「キミはそんなことまで出来るのに、排卵日がいつか分からないのか・・・。」
「“はじめ”さんより、私の方が“普通”よ。」
そう言って、ベッドから立ち上がる。
部屋の中をウロウロとし、財布を探す・・・。
でも、これは見付かりそうもなくて・・・。
裸のまま、その身体を隠すことなくベッドに寝転がっている“はじめ”さんが私を見ている。
私も裸だから・・・。
見られても減るわけではないので、そこは見せてあげることにする。
裸のまま、鞄の中を探したり、部屋の中を探していくけど・・・一向に財布は見付からない。
少し・・・考える・・・。
“はじめ”さんを見ながら、少し考え・・・予想する・・・。
そして、ベッドから落ちている布団を身体に巻き、ゆっくりと玄関に向かった。
「そんな格好で・・・」
と、後ろから声を掛けられたけど、気にせず玄関の扉を開けた。
「そんな格好で外に出るのは、危険だから。」
“はじめ”さんが、玄関の外に出た私を追い掛けてきたけど・・・自分の方が裸のままだった。
それに笑いながら、扉の横にある洗濯機の蓋を開ける。
「何をしてる?」
「財布を探してるのよ。」
「財布は8日間見掛けていない。」
大真面目にそんなことを言ってくる。
それに笑いながら、洗濯機に入っている大量の洗濯物を1つずつ見ていく。
見ていくと、あった。
スーツのズボンが、あった。
それを手に取ると、重みを感じたので笑った。
そして、スーツのズボンの後ろのポケットから、すぐに財布が見付かった。
ポケットから財布を引き抜くと、高級ブランドの財布が出てきた・・・。
派手目な高級ブランドではなく、落ち着きのある・・・大人の男性が持つようなブランド。
その高級ブランドの財布を、裸の“はじめ”さんに渡す。
「キミはこんなことも出来るのに、排卵日は分からないのか。
僕にはキミのことが全く予測出来ない。」
*
「これから僕は出掛ける。」
“はじめ”さんがそう言って、昨日着ていたヨレヨレのワイシャツとズボンをまた履いた。
「今日は帰ってくるの?」
「今日は帰らない。」
「明日は?」
「明日は日曜日だから、朝から予定がある。
ここには帰らないでそのままそっちに行く。」
「・・・いつ帰ってくるのよ。」
「帰る時が分かったら連絡する。
キミの連絡先を教えて欲しい。」
“はじめ”さんがそう言いながら、安っぽい鞄からスマホを取り出した。
「どうやってやるのかは知らないから、キミがやって。」
「現代をどうやって生きてるのよ・・・。」
ロックが外されたスマホに、私の連絡先を入れていく。
名前と電話番号、そしてメッセージが送れるアプリの方にも・・・と、思ったけど・・・。
“はじめ”さんはアプリ自体がなかったので、それには笑った。
「彼女とどうやって連絡取り合ってたのよ?
電話だけ?」
聞きながらスマホを返すと、“はじめ”さんは前髪を下ろしてダサイ眼鏡を掛けた。
「帰る時は、連絡する。
キミは排卵日を調べておいて。」
そう言って、ゴミ箱から高級な指輪の紙袋を取って、私に渡してきた。
「新しい物が欲しいなら、妊娠したら買う。」
「そんな勿体ないこと、しなくていいわよ。」
そんなやり取りをして、一緒に玄関の扉を出た。
「じゃあ、僕はここで。」
私の返事を待たないで、“はじめ”さんは猫背の背中を向けて歩きだした。
その背中を見詰めながら、高級な指輪が入っている紙袋を胸に抱き締めた・・・。
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