5

ユニットバスの中で、シャワーを浴びる。

お湯が出なくて、冷たいシャワーだった。

それでも6月、窓を締め切りそういうことをしたので汗だくだった。

暑かったので、冷たいシャワーでも問題はない。




ボディーソープのポンプを押すと、そこからは何も出なくて・・・空っぽだった。

シャンプーのボトルを少し持ち上げると、そっちは入っていたので、シャンプーで身体を少しだけ洗った。




ユニットバスから出て、洗濯されたタオルを探すけど見当たらず・・・そこら辺に落ちていたタオルで身体を拭く。

少し湿っていて、カビ臭いような気もした。




脱がされた服をもう1度着て部屋に戻ると、“はじめ”さんはいなかった。




ベッドの方に近付くと、ベッドのすぐ横にある窓から、ベランダに座る“はじめ”さんの後ろ姿が・・・。




窓を開け、私も横に座る。




“はじめ”さんは私を見ることなく、空を見上げ・・・お酒を飲んでいた。




少し私の方に寄っているもう1本のお酒を私も手に取り、開けた。

一口飲んでみると、すっかり温くなっている。




私も無言で空を見上げる。

曇っていて、ジメジメしているような夜だった。








ジメジメしていて冷房をつけたかったけど、電気が止まっているとのことで・・・。

窓を開けながら寝たけど、暑いのは変わらず。




上半身裸でトランクス姿の“はじめ”さんが眠る隣で起きた時には、すっかり日は昇っていて・・・私は汗だくになっていた。




胸まで伸びたダークブランに染めた髪の毛。

巻いていた毛先はすっかり取れてしまった。




汗だくで気持ち悪いので、今回は勝手にシャワーを借りる。

石鹸の類いがシャンプーしかないので、それで顔も洗いメイクも落とした。

落としきれているか微妙だったので、2回洗う。




冷たいシャワーでも、暑いと何の問題もないし気持ちが良いくらいだった。

シャンプーで頭も洗い、冷たい水で流していく。




ユニットバスから出て、また昨晩のタオルで身体を拭く。

それから・・・ユニットバスの洗面台に置いてある、ピンク色のドライヤーを見る。

昨日の合コンで連絡先を交換した男の人が勤めている家電会社の商品。




一時期話題になりドライヤーの中でも高額な物。

その電源コードを手に持ちコンセントにさし、スイッチを入れる・・・。

電気が止まっているので、ドライヤーから風が吹くことはなかった・・・。




服で寝たので、その服は汗で濡れている。

仕方ないのでパンツだけを履き、広げたバスタオルを肩から掛けて部屋に戻る。




部屋を見てみると、“はじめ”さんが起きていて・・・

ベッドの上であぐらをかき、紙に鉛筆で何かを書いている。




「何書いてるの?」




「計算してる・・・。」




「何の?」




「キミと僕とのことを。」




その答えには笑いながら、ベッドに腰を掛ける。




「計算で分かるの?」




「予測は出来る。

次、起こること。少し先で起こること。

今後、起こること。予測は出来る。」




そう言って、“はじめ”さんが顔を上げた。




「世の中の現象は、数理モデルで予測出来る。

社会現象や課題、自然現象なども数学的に扱える。

人間の心理までも、数理モデルで分析する試みを・・・」




そこで、言葉を切った。

長めの前髪は上やサイドに流しているし、ダサイ眼鏡も外している。

無精髭はあるけど、正直なところ・・・物凄く格好良い顔をしている。




そんな“はじめ”さんが、私を見て驚いたような顔をして・・・




「試みを、してるけど・・・」




と、また言って・・・




大きな声で、笑った。





そして・・・






「キミの起こす現象は、数理科学科では太刀打ち出来そうにないな・・・っ」





そんなことを言われ、しばらく大笑いされていて・・・。




「仕方ないじゃない、服も汗で濡れてるのよ。」




少し怒りながら言うと、“はじめ”さんが紙と鉛筆を床に置き・・・私の腕を引っ張る。




「生殖行動、しよう・・・。」




「元気ね・・・36歳でしょ?」




「36歳と4日。」




そんな細かい日にちまで言いながら、私の腕を引く。

そのまま仰向けになった“はじめ”さんの上に、私は笑いながら跨がる。




「排卵日いつ?」




「そんなこと確認してないわよ。」




「こういうことがあると、予測しないと。」




「私に出来るのは、予測ではなく“予想”が限か・・・っ」




言いきらない内に、跨がる私の下半身を指で刺激し始める・・・。





「僕の種だと分かるように、生殖行動中は他の雄とは交尾しないように。」




「そんなことしないわよ・・・っ」





そう答えながら、ゴミ箱に捨てられた高級な指輪の紙袋を眺める・・・





「アレ、私にちょうだい・・・。

捨てるには勿体ないわよ・・・っ」




「妊娠したら、新しい物を買うから・・・。

あんなの、捨てる。」





そう言って、指を中に入れてくる・・・。

何がどうなっているのか分からないくらい、物凄く上手い・・・。

気持ち良すぎる・・・。





「勿体無いことは、大嫌いなの・・・っ!

お古でも何でもいいわよ・・・。

ちょうだい、欲しいの・・・っ」





自分で言っていて、泣きそうになる・・・。






そんな私を、“はじめ”さんは少し困ったような顔で笑っていて・・・

まだ数秒しかしていないのに、あっという間に下半身を落とされた・・・。






「キミの好きにすればいい・・・」






そう、言われ・・・“はじめ”さんの上に倒れた私の身体、その中に今回はゆっくりと入ってきた・・・。






もう、気持ち良すぎて・・・

こんなの、落ちる・・・。

なんなの、これは・・・何でこんなに気持ち良いの・・・。






ボロボロでヨレヨレで、電気もガスも止められている男が、何故かあんな高級な指輪を買っている。






狙った獲物は、必ず落とす・・・。

でも、優良物件ではない・・・。

絶対、優良物件ではない・・・。






でも・・・






でも・・・







「妊娠したら、絶対結婚しなさいよ・・・っ」







私は、結婚がしたい。

私は、結婚がしたい・・・。

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