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驚き、返事が出来ずにいると・・・
“博士”は私の返事を待つことなく、ヨレヨレでダブダブのスーツのズボンのポケットから、小銭をジャラジャラと手に取り・・・
クレーンゲームに小銭を入れた。
それから少しだけ立つ位置を変え、何かを確認するような仕草をして・・・
クレーンゲームの正面に戻ると・・・
アッサリと・・・
1回で・・・
たった、1回で・・・
1番大きなクマのぬいぐるみを、落とした・・・。
それをゆっくりと取り出し、私に差し出して・・・
「どうぞ。」
と・・・。
それを両手で受け取り、クマのぬいぐるみを見下ろすと・・・
バカにしていたように見えていた顔が、可愛い顔をしていた。
そして、お礼を言おうとして“博士”を見ると・・・
大変なことが起きた・・・。
格好良く、見えてしまった・・・。
イライラするくらい、格好良く見えてしまった・・・。
「それでは、失礼します。」
そう言って、“博士”は私の返事を待つことなく・・・猫背の背中を向け歩いていく。
それに慌てて、“博士”を追いかける。
「待って・・・っ」
“博士”に並ぶと、立ち止まってくれ・・私を見下ろしている。
そして、無精髭に囲まれた口をゆっくりと開き・・・
「名前、なんでしたっけ?」
と、聞いてきた・・・。
「幸子・・・。岡田幸子。
さっきも合コンで自己紹介したわよ。」
「そうですね、先程はどうも。
では、失礼します。」
それだけ言って、また歩き出してしまって・・・また後を追う。
「あのゲームセンター、よく来るの?」
「1回目のゲームセンターでした。」
「それで会えたなら、凄い確率じゃない。」
「そうですね・・・。」
そう呟いたかと思うと、急に立ち止まり・・・
安っぽい鞄からグシャグシャの紙を取り出し、鉛筆で何かを書き始めた。
「何書いてるの?」
「確率を計算しています。」
「この先も計算しなさいよ。」
「この先ですか?」
「私が“博士”と一緒に、“博士”の家まで行ける確率。」
前髪や眼鏡でよく見えないけど、顔を上げた“博士”はきっと驚いている。
そんな“博士”に笑い掛ける。
優良物件ではないけど、狙った獲物は・・・確実に落としたい。
確実に、落としたい・・・。
*
“博士”は挙動不審になっていたけど、意外にもすんなりと一緒に電車に乗り、博士の家の最寄り駅で降りた。
「“博士”は、何の仕事してるの?」
「仕事はしていません。」
そんな驚きの回答、予想も出来なかったような回答が返ってきた。
「キミは合コン女王と聞きましたが。
今日は何回目の合コンですか?」
「合コン女王?なによそれ。」
「お店に到着する前に友人が言っていました。
1人変更になって、その女性は合コン女王だと。
秘書の仕事をしていると言っていたので、キミのことだと推測した次第です。」
「合コン女王なんて初めて言われたけど、ほぼ毎週金曜日は参加しているし、土曜日もたまに入れてるわね。」
「それは、いつからですか?」
「社会人1年目の時からね、なんでこんなこと聞くのよ?」
「計算したかったので。」
“博士”がそう言ってから、少し早歩きになった。
そして・・・ボロボロのアパートへ。
ボロボロなんてものじゃない。
ボロッボロのアパートの敷地に入っていき・・・
「それでは、失礼します。」
と・・・。
1階の部屋の前でそう言って、私に背を向けた。
ヨレヨレでダブダブのスーツのズボンのポケットから小銭の音を響かせる。
そこから鍵を取り出し、鍵穴にガチャガチャと音を鳴らしながら・・・少し長めに掛かった鍵を開けた。
扉を開けたかと思うと・・・
そのまま1人で入り、扉を閉めようとするので・・・
「待って・・・っ」
慌てて扉を押さえ、“博士”の顔を見る。
「さっき、コンビニでお酒買ったじゃない。」
「そうですね、キミが。」
「飲み直しましょうよ。
“博士”全然飲んでなかったじゃない。」
「お酒は飲みませんので。
一緒に僕の家まで来たので、これで終わりです。」
「・・・部屋に入れてくれてもいいじゃない。」
こんなに必死になったことはなかった・・・。
今まで、数えきれないくらい合コンにも参加してデートもした。
でも、私がこんなに必死になったのは初めてだった。
こんなに、相手にされないのは初めてだった。
「彼女、いるの?」
「キミはいるんですか?」
「いないわよ。」
「そうですか。僕もいません。」
「それだったら、部屋に入れてよ。」
挙動不審になっている“博士”を見る。
「部屋に、入りたい・・・。」
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