第三十四話 衝撃の事実を知る

 美咲とオオカマキリの戦闘は実にあっけなく終わった。


 手に持った槍を頭部と胸部の隙間に突き刺したら、そのままオオカマキリは倒れた。


 美咲のギフトは【氷】系。多分槍伝いにカマキリを凍らせたんだろう。


 素晴らしい手並みだ。拍手。

 照れたように手を振る美咲。


 しかし試験はこれで終わりでは無い。

 次はオオカマキリ三体と同時に戦う。


 それも一体一体さっきと同じように倒していく。危なげない戦いだ。


 ただ、少し気になった。

 美咲は槍伝いに凍らせる形でしかギフトを使っていない。


【氷】系の人がよく使う、氷柱つらら状の弾丸を飛ばす遠距離攻撃とかは、一対一ならともかく多対一であるなら、牽制に使えると思うが。


 まあ、【氷】系ギフトと言っても色々ある。美咲のはそういう遠距離攻撃なんかは無いやつなのかな。


「お疲れ様です、氷川候補生。合格です」


 実に余裕たっぷりC級蟲を倒せていた。


 次は俺の番だ。余裕綽々どころか余裕サクサクじゃあ!




 ■■■




 俺の試験は割愛。いつもとやってる事変わんないからね。


 当然合格。もう今日の仕事は終わり!


 少し早いが食事にしようとのことで、中央基地内にある食事処へ行く。


 ここは時間制食べ放題の店で防蟲官に大人気だ。

 用意された様々な料理を自分で皿に盛り付けて食べる、所謂バイキング形式。


 実は俺はこういう食べ放題とかはあまり利用しない。沢山食べるのでなんか申し訳なくなるのだ。


 だがこの店は違う。

 ここは防蟲隊中央基地。東都一防蟲官がいる場所だ。

 料金設定が防蟲官を意識したものになっている。


 だから普通の人が使うにはぼったくり価格になってしまうが、防蟲官が使うにはちょうどいいくらいの値段だ。


 俺も遠慮せずに利用出来る。


 店内は広々としていた。沢山の料理が並び、沢山の座席が並んでいる。


 今はまだ客が少ない。ゆったり料理を選べるだろう。


 早速皿に料理をのせていく。

 防蟲官向けだけあって、皿もそれをのせるお盆もでかい。


 美咲とは一旦別行動。それぞれ盛り付け終わったら座席で合流。


 俺の方が先に盛り付け終わり、せめていただきますは一緒にしようと美咲を待っていると、様々な料理を綺麗に盛り付けた美咲が帰還。


 ──こういうの性格が出るよね……。


 自分の持ってきたお盆を見る。

 どんぶりに大盛り白米。それに適当な揚げ物を乗せ、大皿にはハンバーグ、エビチリ、ナポリタン、たらこスパゲティ、刺身、と無秩序極まれり。


「綺麗だな……」


 美咲の盛り付けは思わず感嘆が声に出るほどのものだった。


「えぇ!? な、何急に、こんなところで……。ああ、盛り付けのこと?」


 そりゃそうだろ。


 勝手に盛り上がって落ち着いた美咲。


 確かに昔から手先は器用だったが、このようなセンスもあるとは。


 大皿一枚に三種のスパゲティ。綺麗に巻かれ、山のような形になっている。余ったスペースに様々な惣菜が並び、別皿にサラダも用意してある。


 ……これは言い訳だが。

 適応深度が高いと栄養バランスなんか考えなくても、体に不調なんか出てこない。

 だからこういった場では好きな物を好きなだけのせるスタイルになるのだ。


 これはサラダを持ってくる美咲の方が異端だろう。


「いや、栄養バランスとかじゃなくて、普通に好きなのよ。サラダ」


 そんな人間が存在するのか……?


「山ほどいるわよ」


 俺も嫌いな訳ではないが、わざわざ選んで持ってくることは無い。


 世の中広いな……。




 ■■■



 俺に盛り付けを褒められて嬉しかったのか、俺の分も美咲が盛り付けて持ってきてくれるようになった。


 今のところ美咲の最高傑作は八種のスパゲティマウンテンだ。


「それにしても、こうやってケンくんと防蟲隊基地にいること……夢みたいだわ」


 また言ってる。


「何度でも言うわ。ケンくんの導きに感謝を……」


 美咲が努力を重ねたからこうやって会えたんだと思うが……。

 何度言っても聞きやしない。


「ああ、あと副司令にも感謝ね」


 思い出したというふうに感謝を告げる美咲。


 まあ入隊してすぐの頃は色々サポートして貰った。

 ちなみに今もなんやかんやでメールのやり取りは続いている。直接会うことはなかなか無いが。


 美咲も入隊直後は成宮副司令にメールで指示とか貰ってたんだろうか。

 成宮副司令大変じゃない?


「え? 私は違う人だったわね」


 じゃあ接点無くね?


「あれ、ケンくん。もしかして覚えていないの?」


 お? 俺の記憶力を疑ったか? やんのか。


「でも仕方ないかもしれないわね。ケンくん、意識が朦朧としていたみたいだから」


 ここで少し溜める美咲。

 俺が入隊以前に成宮副司令と会ったことがあるような言い方だが……。


「土浦での蟲害。私たちを助けてくれたのは成宮副司令よ」


 ……命の恩人じゃん!!


「恩人よ」



 ■■■




 成宮副司令は恩人だった。


 土浦での蟲害の際、俺たちを救助してくれたらしい。


 ただ土浦は茨城県だ。埼玉基地所属の成宮副司令が何故?


「すごい大きな蟲害だったでしょ、あれ。だから近くの埼玉基地にも要請が来たんだって」


 茨城基地だけでは対処しきれなかったと。


 あの蟲害。


 俺は土浦のブラックマーケットに治癒薬を買いに行った。

 電車で俺を見つけた美咲は、俺を追いかけて土浦で降りた。


 そして美咲は俺を見失い、うろちょろしている内に蟲害が発生。ギフトを用いて蟲を沢山倒すも、蚊に隙を突かれ気絶。


 たまたま俺が通り掛かったから助けられた。

 美咲は適応深度も高いので死ににくく、あんなに血を吸われても息があったが、あのまま放っておけば十数分で死んでしまっていたと思う。


 知らない誰かが死ぬのならともかく、幼なじみだ。

 あの時は知らなかったが、もし美咲が土浦の蟲害で亡くなれば、そう連絡が来る。


 その連絡で俺は銀髪少女がだったんじゃないかと気づき、俺に着いてきたせいで……俺のせいで死んでしまったと知る。


 そうなったら俺は今のようにはいられなかっただろう。

 助けられて良かった。


 俺も死にかけた。


 何とかハラビロカマキリを倒し、美咲の協力でハリガネムシを倒したが、俺はカマキリによって左腕をもがれていた。


 多少抑えたが出血は止まらず、あのままだと流石に死んでいた。


 その時成宮副司令が俺たちの元へ降り立ち、俺はそれを見て安心し気絶した。


 つまり成宮副司令は俺の命の恩人だ。


 それなのに俺はお礼も言わずに……。


「意識が朦朧としていたならしょうがないわよ」


 まあ、成宮副司令は器の大きな人だが……。


「あ、あと、私たちを司令に推薦してくれたのも成宮副司令よ。あれが無ければいきなり埼玉基地に所属は出来なかったわね」


 俺の場合はそもそも防蟲官にすらなれてなかった可能性が高い。


 ──やばいぞ。成宮副司令の恩人度が高すぎる……!


 これは到底菓子折りでは済まない。


「そんなに気にすることは無いわよ。ケンくんがいつも通り輝きを放つ。それが成宮副司令への恩返しになるわ」


 なるほど。


 俺たちが成果を出すことで、俺たちを推薦した成宮副司令の慧眼を証明出来る、と。


「そういう事だな美咲!」

「え、ええ、まあそんな感じ……?」


 それはそれとして今度しっかりお礼を言おう。


「ケンくんを自衛隊の人に預けた後、成宮副司令が蟲を凄い速さで殲滅して、私も病院に連れて行って貰ったんだけど」


 病院での検査結果は異常なしだったらしい。


「移動中にスカウトしてもらったのよ。ケンくんもスカウトするって言うからその場で返事して、後はずっとケンくんについて話したわね。成宮副司令ってすごい聞き上手よね」


 初対面の人に布教するのはやめなさい。迷惑でしょ。


 ──って、ああ!


 日比谷司令が俺の事やけに色々知っていたのは美咲が話していたからなのか!


 成宮副司令から伝わったのか、日比谷司令にも直接布教したのかは分からないが。


 無駄に怖がって、申し訳ないことをした。


 今度から日比谷司令と話す時に警戒しなくて済むな。

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