第三十三話 対蟲戦闘等級証章
世間は夏休み真っ最中。俺は変わらずトレーニング三昧。
平日の訓練が終われば毎日対蟲戦闘シミュレータの元へ行き、土曜日は流華たちと遊んで、日曜日は一日シミュレータ。
最近では初見のC級蟲でも纏めて五体以上と戦い、勝利することができている。
もちろんB級蟲とも何度も戦った。負けることは無いが、どうしても倒すのに時間が掛かってしまう。
今はそれを縮めるのが目標だ。
今日は日曜日。朝四時から食事休憩を挟みつつ今は深夜一時。だからもう今は月曜日か。
心地良い疲労感と、ギフトを使いまくったことによる強烈な空腹を感じながら食堂へ向かう。
食堂は二十四時間やっている。完全自動だからね。
──ん? 中に誰か居るな。
食堂内に人の気配を感じた。一人。
毎週同じ時間にここを利用しているが、人がいるのは初めてだ。
まあ、俺専用食堂って訳じゃない。こういうことも当然あるだろう。
これまでで埼玉基地内に沢山知り合いはできたが、話したことの無い人だって大勢居る。
知らん人だったら挨拶だけして、離れて食べよう。
方針を固め中に入ると……
「おお、久しぶりだな。浦和くん」
防蟲隊埼玉基地司令 日比谷 穂乃香防将補が居た。
慌てて敬礼をする。
「ああ、そんなに畏まらなくても。他には誰も居ないよ」
少し寂しそうな顔をするので、多少は崩そうと思う。立場故に親しくしてくれる人が少ないのかもしれない。
「お腹空いているだろう? 一緒に食べよう」
快諾。
それにしても、本当に久しぶりだ。最後に会ったのは入隊直後の服務の宣誓をした時じゃなかろうか。
「精が出るね、毎日」
俺の自主トレ頻度を把握している……?
まあ知れる立場ではあるか。
「そういえば氷川ちゃんと知り合いだったんだってね」
「ええ、はい。幼なじみです」
氷川とは美咲の苗字である。
食事が届くまでとりとめのない話をしていたが、届くやいなや……
「ああ、そうだ。そろそろ──」
これは大事な話だ。
■■■
防蟲官幹部になるには、法律知識や作戦立案能力などが必要。つまりある程度頭が良い必要がある。
そして防蟲官幹部たるものそれなり以上の戦闘能力も必要とされる。
つまりは、防蟲官幹部になった時点で一定の戦闘能力は保証される。
では平防蟲官は?
勉強が苦手で戦闘は得意という防蟲官は当然いる。
そういった人員とただの新人を見分けるのに便利な物が防蟲隊にはある。
対蟲戦闘等級証章。
長ったらしい名前なので戦闘級章とか略されるものだ。
これは制服の右胸に着ける義務がある。
一等から五等まで有り、一等が強い。基準を並べる。
一等級──A級蟲を余裕を持って倒せる。
二等級──B級蟲を……
三等級──C級蟲を……
四等級──D級蟲を……
五等級──E級蟲を……
六等級──それ以下。
といった感じ。
俺はまだ候補生なので戦闘級章を着けなくても良かったが、一月後には候補生で無くなる。
それまでに獲得して来いとのお達しがあった。
それには防蟲隊中央基地に行く必要がある。
そう、蟲の塔を囲むように築かれた東都最大の基地に。
■■■
「おはよう。ケンくん」
「おはよう。美咲」
待ち合わせにやってきたのは美咲。
身長百七十センチほどの、長く綺麗な銀髪をツーサイドアップにした少女。
俺の幼なじみで、しばらく離れていたがここで再会した。
「今日もケンくんのおかげで日が昇ったわ。ありがとう」
「地球の自転にも感謝しておくといい」
「ケンくんに感謝すると言うことはこの世の自然現象全てに感謝すると言うことなのよ」
どういうこと……?
よく分からない持論を展開しているのを見てわかる通り彼女は狂信的だ。
今日はそんな美咲と一緒に中央基地に行く。
俺も美咲も初めて行く。どんなところだろうか。
■■■
黒光りする巨大な塔。首が痛くなるほど見上げてもてっぺんが見えない。いつかは中に入ってみたいな。
中央基地は埼玉基地に比べてとても広い。ちょっとした街くらいはありそうだ。
指定された場所まで移動する。
今日は戦闘級章を取りに来たわけだが、やることは普段とあまり変わらなさそうだ。
シミュレータを使って蟲と戦う。それだけだ。
「お二人とも三等級で申請されています。間違いありませんね?」
この人は今日対応してくれる職員さん。
三等級……C級蟲を余裕で倒せるくらいの強さを示す。
B級蟲を倒すのには時間がまだ掛かる。余裕で、とは言えないのでこの等級。
「ではまず氷川候補生から」
美咲が返事をしてシミュレータ室へ入る。
俺は部屋の端で見学。当然蟲の攻撃対象からは外してある。俺の隣に職員さんが並んだ。
まずはC級蟲一体と戦い、時間を測る。あんまり長く戦う必要があるなら失格。
──楽しみだ。
ホログラムで刃先が形成された槍を構える美咲を見て思う。
実は訓練小隊が違う候補生同士の連携訓練は禁止されている。
変な癖がつかない様にとか色々理由はあるみたいだが。
そう、俺は俺の小隊に入る予定の子達の戦闘を理亜以外見たことが無いのだ。
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