第三十話 生き別れてたっけ?
痴態パーティからおよそ一週間強。
これまでいろいろと学びながら過ごしたが、今日から五日間姫隊長たちは任務で基地の外に出る。
候補生である俺はお留守番だ。そのうち連れて行ってくれるらしいが。
姫隊長たち。つまりは姫隊長率いる埼玉基地
ということは……
「おはよう。理亜」
「おはよう。賢太郎」
俺と同じく
緩くウェーブした薄ピンク色の髪をしており、身長は姫隊長よりも少し低いくらい。百四十弱。
言葉数が少なく、表情も薄い。というか無。ただ、案外ノリがいい。
俺が彼女について知っているのはこんなところだ。
「さて、いこうか」
頷く理亜。
お留守番とは言ったが、任務について行かないってだけで、基地に籠る訳では無い。
この時間を利用して、防衛大に行く。
忘れている人も多いだろうが、俺は防衛大を飛び級で卒業しないと小隊長になれない。
飛び級審査の為の試験を今日から数日掛けて受けるのだ。学科のみ。
十五歳で防衛大に入った理亜も飛び級に足るだけの学力はあるようで、俺と一緒に試験を受ける。
多分、俺と理亜が同じ小隊に指導を受けているのも、こういうことを想定してだと思う。同じ学校で、同じくらいの学力。纏めて受験させた方がいいと。
本日は俺にとってもいい機会だ。
未来の小隊員である理亜との仲を深め、小隊運営を円滑に行えるように頑張ろう。
防衛大までは埼玉基地が所有する車に乗って向かう。自動運転車だ。
現代では基本的に公道を手動操作の車で走ることは出来ない。
■■■
移動中の車内。
後部座席にゆったりと二人並んで座っている。
理亜は多分自分から話題を提供してくれるタイプじゃ無さそうだし、俺から行くか。
まずは無難に……
「今日の試験はどうだ? 自信は」
飛び級審査ということで、出題範囲が大きい。
「余裕」
まあそうだろうな。
「賢太郎は?」
「俺も……余裕かな」
理亜は『まあそうだろうな』という風に一つ頷き、口を閉じる。
……これは俺のミスだ。
試験に行くんだしそれを話題にしようなんて浅はかな考え。
俺も理亜も同じくらいの学力。正確に比べた訳では無いが、少なくともどちらも大学で学ぶ範囲は余裕だというのは想像できたはず。
俺のくだらない質問にも『聞き返し』で繋げようとしてくれた理亜はとても優しい。思っていたよりコミュ強なのかもしれん。
──次だ。共通の話題かつ繋げやすい話題。
「そういえば、理亜も俺と同じ訓練を受けてるんだよな。猫靴とか」
「楽しい」
…………
訓練のことは話題としてなかなか使えた。
そこから少し発展させて……
「理亜は姫隊長たちとも面識があるんだよな」
「ある」
俺が埼玉基地に来るまで指導を受けていたはず。
俺が来てから、
…………
「姫隊長は私を可愛がってくれた」
これは特別仲がいい隊員とかいるのかを聞いた質問の答えだ。
なんでだろう。小柄同士のシンパシー?
「恐らく。愛夢一曹曰く『自分より小さい人間を初めて見たから』」
初めてってことは無いだろうが……。
でも自分より小さい後輩は初めてなのかもしれない。
姫隊長は自身の身長にコンプレックスを持っていたが、理亜はそんなことないように感じる。
「小さくて得することも多い。省スペース」
「確かに」
「高いところのものを取るのも、今は猫靴がある」
なるほど。そう聞くと確かに不便はあまり無さそうだ。
■■■
防衛大に到着した。
移動中は結構和やかに会話出来た。
理亜も積極的に打ち解けようとしてくれてたと思う。
…………
試験に関して特筆すべきところは無い。ただ強いて言うのなら、俺も理亜もすぐに問題を解き終わってしまうので、前倒しで次の試験にいって貰った。
そのため、予定では四日は掛かるはずだったが、明日の午前中で終わりそうだ。
今はお昼ご飯の時間。
「何食べたい?」
理亜に昼食の希望を聞く。
すると俺をじっと見つめる理亜。おそらく『賢太郎は?』という意味の視線だと思う。
「俺はなんでもいいかな」
特に何が食べたいとかもない。理亜に合わせたい。
「……ラーメンは?」
いいね!
理亜曰く防衛大内に人気のあるラーメン屋があり、気になっていたらしい。
「どういうラーメン屋?」
何となく聞いてみる。
あっさりとかこってりとか。
「あっさり」
いいね!
防衛大内は体育会系というか、訓練で沢山汗をかく人向けにこってりしたものが多いと思っていた。
個人的にはあっさりしたラーメンの方が好きなのでこれは嬉しい。
理亜が言うにはこってりラーメンの店もあるみたいだが、あっさりを食べたい気分だったらしい。
「こっち」
話しているとお腹が空いたのか、俺の袖を摘み、引っ張って先導してくれる。
…………
大盛りチャーシュー麺を十二杯も食べてしまった。おなかいっぱい。
■■■
次の日。今日の午前中で試験は終わり。というかもう終わった。
後は実技でなんかいい感じの成績を出せれば飛び級で卒業出来るだろう。
具体的にどうやって実技の成績を示せばいいのかはわからんが。
「今日は何にする?」
昼食の相談。
「寿司」
前時代においてまあまあ高級、というかちょっとした贅沢に分類されていた寿司だが、現代では自動調理機の発展により、安価で提供されるようになった。あと、食材生成機も。旬の食材とか珍しい食材だとかいう分類が変わったからね。
「美味」
「美味しいねぇ」
パクパクと寿司を口に放り込む理亜。
昨日今日、理亜と一緒に行動して思ったことは『俺と理亜は好みが合う』ということ。
わかりやすいのが食事の好み。あっさりラーメン好きとか、今も注文する寿司のネタは大分被っている。
あとは動きなんかもそう。
これもわかりやすいのは食事だろうか。同じくらいに食べ始めたら、同じくらい咀嚼し、同じくらい食べて、同じくらいに食べ終わる。
歩幅が違うので、歩く速さなんかは俺が合わせているが、それ以外はシンクロすることが多い。
生き別れの兄妹だったのかもしれない。
「……兄さん」
チラリとこちらを見ると恥ずかしそうに理亜が呟いた。
当然、兄妹云々は口にだしていない。キモいって思われちゃう。
つまりは理亜も同じ結論に行きつき、俺も同じことを考えていると判断したんだろう。
「妹よ……!」
まあ、実は血が繋がってました、なんてことは無いんだが。それだけ気が合うということだ。
帰りの車内。
ここまで来るとどこまで一緒なのか、色んな好みを言い合う。
俺は結構ゲームもするし、深夜アニメも見るんだが、理亜も同じだった。好きなシリーズ、好きなジャンル、好きなキャラ。
──これはすごいな。
理亜も心做しか興奮してきているように思う。一体人生でこんなに趣味が合う人に出会える確率は幾つだろうか。
そんなこんなで埼玉基地に帰還。この後は自由時間だ。自主トレをしてもいいし、休んでもいい。
「……時間、いい?」
……何やら話したいことがあるようだ。
いつの間にやら、理亜が取っていた会議室へ向かう。
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