第二十七話 みんなのギフト

 翌日。


 初見のC級蟲五体には勝てなかったよ……。


 C級蟲であるオオカマキリに余裕を持って勝てたのはとの戦闘経験があったから。実際あの後オオカマキリ五体と同時に戦ったが余裕で勝てた。


 調子に乗った結果負けてしまうという無様を晒したが、俺は正直嬉しかった。

 これまで蟲に対抗するため、キツい自主トレーニングを積んできたが、自主トレっていうのは強くなった実感が湧きにくい。


 それに比べてシミュレータでの訓練はどうだ。

 昨日は初見のC級蟲五体には勝てなかった。が、今日は? 明日は?


 そのうちB級蟲だろうがA級蟲だろうが倒せるようになるだろう。


 それが心底嬉しい。



 ■■■



 さてやっと今日の訓練の話。


 本日は第一訓練棟集合だった。


「色々と予定が狂ったので、大きく変更したのじゃ。今日は連携訓練じゃ」


 防蟲官の戦闘は基本チーム戦。蟲害の時なんかは弱い蟲が散らばっているので、防蟲官も散らばることが多いが。


「連携の基礎。それはそれぞれのギフトについて把握することじゃ」


 だから第一訓練棟集合だったんだろう。


 ちなみに第一訓練棟と第二訓練棟はそこまで大きな違いは無い。ちょっとだけ第一訓練棟の方が広かったり、細長い部屋があったりとする程度だ。


「……そういえば賢太郎は昨日、あの後第二訓練棟に行ったのかの?」


 急に話が変わった。行ったけども。


「そうか。ツバメシミュレータに行く途中チラチラ見とったからのう。絶対行くと思ってたんじゃ」


 そんなに分かりやすかっただろうか。


「それでハラビロカマキリと戦ったか?」

「……戦いました」

「どうじゃった」

「余裕でした」


 俺がそう言うと姫隊長は大きく笑った。


「そうじゃろうとも! 装備無しで倒しておるんじゃからの」

「ええ!? 素手でですか!?」


 そんなわけないだろ。


「蟲具は持ってました」

「じゃがF級蟲の素材を使ったやつじゃ」


 姫隊長は俺を訓練するにあたって、色々と情報を貰っているようだ。まあ当然。


「ならわかりやすいように……」


 姫隊長はそう言いながらコンソールを操作し、ハラビロカマキリを出した。


「こやつを的にして、妾たちのギフトを説明していこうかの」


 なるほど。俺が実際に戦ったことがある蟲を使うことで、姫隊長たちが使うギフトの威力なんかを分かりやすくすると。


 ちなみにハラビロカマキリは今、的モードなので一切動くことがない。


「じゃあ妾から……」


 姫隊長は腕を前に伸ばし、ゆっくりと手を開く。

 するとそこから流体状のエネルギーの塊が放出された。

 目には見えず、【気配探知】などの感覚でしか捉えられないものだ。


 それをそのままハラビロカマキリの頭部にぶつけ、飲み込むように包むと……


「これが妾のギフト……【念動力】じゃ」


 頭部をへし折った。


 拍手する。


「ふふん」


 得意げな表情の姫隊長。実際すごい。


「まあ、この方法で倒せるのはD級蟲までじゃ。それより強いのにはこれを使う」


 そう言って、背負っていた太い筒のような物を下ろす。


 するとそれに姫隊長の【念動力】が纏わりつき、計二十個の杭に分離した。

 太古の面白文房具であるロケットペンシルみたいになっていたようだ。


 姫隊長は十体のハラビロカマキリを召喚し、頭部の上下から杭を打ち込みかち割る、というパフォーマンスを見せてくれた。えぐい。


 これが姫隊長の専用武器。地方基地所属の防蟲官に与えられる装備。

 それぞれのギフトや適正に合わせた物を作って貰える。


 その後、二十の杭を自在に【念動力】で操る様を見せてくれた。


「ま、妾の戦闘はこんな感じじゃ。後は蟲の全身を押さえつけてサポートしたりとかかの」


 姫隊長曰く、ある程度強い蟲相手だと完全に動きを止めるのは難しいが、鈍らせることは容易だと。


 蟲は結構素早い。それを鈍らせてくれるんなら前衛としては大助かりだろうな。


「次は我の番だな」


 愛夢一曹はゆったりと右手を伸ばすと軽快に指を弾いた。


 するとそこから小さな黒い火の玉のような物が現れた。

 大体時速百キロくらいの速さで真っ直ぐに飛び、ハラビロカマキリの頭部と胸部の境目に当たると、大きく広がり……


 ハラビロカマキリは粒子状になって消えた。


「我のギフトは【悪辣なる黒炎イヴィル・フレイム】。琥珀素を燃やす黒炎だ」


 愛夢一曹が出す黒炎は琥珀素を燃やす。あるいは琥珀素を打ち消す、と言った方がわかりやすいだろうか。


 例えば黒炎を蟲の甲殻に当てると、黒炎の中の琥珀素が甲殻の中の琥珀素を一対一の比率で持っていく。

 すると蟲の甲殻から琥珀素が抜けて脆くなると。


 簡単に言えば防御力デバフが可能だということだ。


 今見たようにそれだけでも倒せるようだが。


「そしてこれが我の専用武器【ブラックハート】だ」


 内ポケットから取り出したのは刀身が真っ黒なダガー。十字の持ち手に赤い宝石が嵌め込んである。


 すると愛夢一曹は黒炎を三つ出し、体の周囲を回らせる。……別に指パッチンはしなくても出せるようだ。


 ダガーに黒炎を近づけると、赤い宝石が吸収する。


 三つの黒炎を全て吸収したダガーは刀身が少し赤くなっている。


「こうして【ブラックハート】に黒炎を吸わせると、琥珀素燃焼効果を一点集中させることが出来る」


 そう言ってダガーを宙に浮かせ自在に操る愛夢一曹。黒炎が入っているからかそういうこともできるようだ。


 ちなみにこのギフトの名前。愛夢一曹がつけた訳では無い。

 むしろこのギフトを持っていると知ってから中二っぽくなっていったらしい。罪深い。


 最後は茜。


「私のギフトは【ジェット】です! とはいえほとんどしっぽ取りの時に見せましたよね。あ、あと後半に使ったのは【オーギュメンター】っていう技です」


 いわゆるアフターバーナーのこと。

 アフターバーナーは商品名だからオーギュメンターって呼ぶらしい。


 これも簡単に言えば、ちょっと燃費が悪くなる代わりにさらなる加速を得るって技。


「なので私の専用武器の説明だけしますね!」


 茜は既に専用武器らしき物を装備している。


 明るい赤色の籠手。明るい赤色のグリーブ(脛当て)。

 籠手は手の甲までを覆い、指先は自由に動かせるようになっている。

 グリーブは脛から猫靴の足の甲、つま先まで伸びている。


「バーニング!」


 手足が炎に包まれ、渦巻く炎の隙間から赤熱した籠手とグリーブが見える。


 茜は的のハラビロカマキリのところまで跳ねていき、ハラビロカマキリの頭部と胸部の隙間を思いっきり殴った。

 するとハラビロカマキリの頭部は冗談みたいに吹っ飛んだ。ぽーんって感じに。


 どんな腕力してるんだ。


「あはは! 腕力じゃないですよ!」


 笑いながら茜が見せてきた籠手には手の甲に添う形で刃が飛び出ていた。大体二十センチくらいの刃渡り。


「私の炎を受けると伸びるんですこの刃! もっと長くもできますよ!」


 すると籠手に生えた刃は伸びて、普通の西洋剣みたいになった。


 殴ってもいだのではなく、剣で切っていたと。安心。


「最後に賢太郎。お主のギフトを見せて貰おうかの」


 まあそうなるよね。

 ……どうしようか。

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