第二十六話 力比べ
さて本格的な訓練一日目は終了。まだ夕方だ。体力にも余裕がある。
いや、茜とのギフト有りしっぽ取りの直後は正直脚ガクガクだったけども。その後すぐにご飯を食べたので疲れは取れている。
あそこに行くには最高のタイミングかもしれない。
ほとんど跳ねるようにして目的地へ向かった。ウッキウキ。
■■■
ここは第二訓練棟。対蟲戦闘シミュレータのある部屋だ。
ずっとこれを使いたかった。こちらに命の危険なく蟲との戦闘経験を積めるこれは素晴らしい発明だ。
まずはコンソールの前に立ち、琥珀素認証。
使い方は壁に貼ってあるし、マニュアルも読了済み。
コンソールをいじり、腕輪を出した。両腕に一つずつ着ける。
次。コンソールを操作して棒を出す。
これは武器の柄になる。長さも自由で、槍などの長物を使いたければ長く作ればいいし、二本作って二刀流なんてこともできる。
刃なんかはホログラム。腕輪が武器の重さを再現してくれる。
俺が対蟲戦闘で使ったのは粗悪なナイフだけ。実際にどんな武器があっているかを探るため、色んなのを試すつもりだ。
まずはファンタジーなんかで見る普通の西洋剣。防蟲官はほとんどこういうのは使わないが、俺はちょっと憧れがある。
両握り拳を縦に重ねたのより少し長いくらいの柄を出し、ホログラム起動。
すると、俺はまるで異世界ファンタジーの住人みたいになっていた。
別に格好が変わった訳ではなくて西洋剣を持っただけだけど。
相応の重みも感じる。ちょっと素振りしてみるか。
問題なく振れる。
じゃあちょっとやっちゃいますか。
蟲、出しちゃいますか。
テンションの高鳴りを感じる。
ちなみに出てくる蟲は粒子状のシールドにテクスチャを貼り付けたものになる。
F級蟲は素手でも倒せるし、出す必要は無いな。
E級蟲から……
E級蟲 ナナホシテントウ
赤地に黒い斑点が七つ。大きさはカナブンの半分くらいか。
人を結構積極的に襲う獰猛な蟲だ。
こちらに向かって飛んでくる。
──行けるか……? やるだけやってみるか。
向かってくるテントウムシに真正面から剣を振り下ろす。
大きな手応えもなく、スルリとテントウムシを半分にした。一刀両断。
おお。これはいい。
土浦での蟲害で俺はいちいちカナブンの頭部と胸部の間を狙って攻撃していた。それはもちろん正面からじゃ切れないと思ったからだ。
この剣はD級蟲素材使ったものを再現している。防蟲官が使う最低限の武器だ。
これが本当のD級蟲素材を使った武器。あの詐欺ナイフとは大違いだ。
……まああのナイフにも愛着があるので、捨てたりはせずになにかに使えたらと思うが。
次はもっと出すか。十体のテントウムシを召喚!
完全に真っ二つにする必要は無い。頭部だけ切ればいい。剣先をかすらせるように当てる。
うん。狙い通りに最小限の動きで倒せた。
……もういいかな。西洋剣は思ってた数倍使いづらい。
次からは防蟲官がよく使う武器を試した。
槍やエストックは少し合わなかったな。
俺の力をいかせる重量系の武器を試そう。
重量系武器と言えば、まずはウォーハンマー。でかい金槌だ。
ちょっと使ってみたが俺には使いこなすのは難しそう。
そもそも防蟲官の使う武器は蟲の甲殻の隙間を狙うものが多い。
だけどウォーハンマーは甲殻を砕くもの。当然並の力では蟲の甲殻は砕けない。俺でも上級蟲の甲殻は砕けないだろう。
これを使いこなせるのはあの人ぐらいだ。
東都の防蟲官のうち身体能力最強の人。俺と同じ【身体能力強化】系でありながら段違いの強化倍率。あまりのかけ離れっぷりにやっていることは一般ギフトと同じでも、あの人のそれはレアギフトに分類される。
実はその人のことを俺は尊敬している。憧れだ。圧倒的な身体能力を使い、素手でもC級蟲を倒せるらしい。
埼玉基地に所属しているんだし、いつか会うことが出来ればいいな。
サイン貰おう。
閑話休題。
ウォーハンマーは駄目。次が本命。
バトルアックス。槍の様な長柄に斧が二つくっついている。
程よく重さがあり、斧で甲殻の隙間を攻撃出来る。
おそらくはこれが最適だと思う。
テントウムシを出して戦って見る。
……E級蟲じゃちょっとよくわかんないな。
じゃあ、やっちゃいますか。
D級蟲出しちゃいますか。
これより始まるはリベンジマッチ!
ヤツを呼び出すぞ。
D級蟲 ハラビロカマキリ
まあハラビロカマキリには勝ったんだけどね。ハリガネムシに負けたってだけで。
カマキリは早速両鎌を振り下ろす。
それを避け、隙だらけなカマキリの頭部に正面からバトルアックスで切りつける。頭部は真っ二つ。戦闘終了。
──呆気なさすぎる……。
あんなに倒すのに苦労し、俺の左腕までもいだハラビロカマキリを秒殺。無常。
今回の最も大きな勝因はバトルアックスでは無い。猫靴だ。
空中で動けて、空中で踏ん張れることがどれだけ戦闘を有利にするか。頭を叩き割るのに程よい高さでバトルアックス振ることができた。
バトルアックスも扱い易かったのは間違いない。強化した力がしっかり乗っていい感じ。
次は一気に五体出すか。
一斉に現れたハラビロカマキリ。五体同時に俺を見つけ、五体同時に鎌を振り下ろす。
ジャンプして躱す。
蟲にして見れば俺は小さな的だ。五体皆が同じところを狙ったため、鎌同士がぶつかりあってしまっている。
この隙に一体一体倒していく。
残った二体は鎌が引っかかったことにより喧嘩してる。
このシミュレータはすごいな。仲間割れも再現している。
隙だらけ。ハラビロカマキリ五体の討伐完了!
あまりにも簡単過ぎた。
あの時俺を追い詰めた気概を見せて欲しいもんだ。
じゃあもっと強いのを……。
C級蟲 オオカマキリ
出てきたのはカマキリ。見慣れた姿だ。ただ少しだけ違う点がある。
「でっか……」
思わず声が漏れた。五メートルはある。
ハラビロカマキリですら見上げるほどの大きさだったというのに、オオカマキリはそれよりも一回りか二回りはでかい。
原初のパワーバランス。大きさの違いに気圧される。
ただそれもオオカマキリが攻撃してくるまでだ。すぐに意識を切り替える。
攻撃方法はハラビロカマキリと一緒。けど速さが段違い。
倒し方も一緒でいいだろうか。
鎌を振り終わった隙を狙う。正面から真っ二つは多分無理。頭部と胸部の隙間にバトルアックスの刃を叩きつける。
オオカマキリが大きく仰け反った。
一旦離れよう。
頭部を一撃で落とすことは叶わなかったが、あと何回か同じ場所に攻撃すれば倒せるだろう。
そう思うと大分余裕が出てきた。倒すのはそう難しくない。
ここでちょっと思い出す。
今日の午前中。茜とやったしっぽ取りは本当に楽しかった。
俺と同等かそれ以上の相手と競うのは楽しい。
茜とは移動速度の速さで競った。
俺の目の前には力がありそうな蟲くん。
実戦では絶対にできないこと。蟲との力比べだ。
オオカマキリは再び鎌を振り下ろす。
オオカマキリと比べて俺の体の横幅は──当然だが──狭く、俺に当たる頃には両鎌の先が重なるほど近くになっている。
俺は左に一歩避け、両鎌を纏めてバトルアックスで受け止めた。
「ぐ……ッ」
当たり前だが、重い。それでもバトルアックスは地面に付かず、鎌を受け止めきれている。
オオカマキリは別に力比べに付き合ってくれる訳ではないので、さっさと勝負を決めよう。
両腕をメインに全身に【追加強化】!
「よいしょ!」
掛け声とともにバトルアックスで鎌を跳ね上げた。
オオカマキリは体が持ち上がるくらい仰け反ったが、翅をバタつかせ元の体勢に戻る。
──勝ったぞ! C級蟲に力比べで!
これは凄いことだろう。こんなことが出来るなんて。テンションが上がっている。やばい。アゲアゲ。
勢いのままオオカマキリ倒してしまう。
ありがとう!
これはもっと沢山の蟲と戦っても勝てるのでは?
……カマキリはもういいかな。
他のC級蟲を五体出して……。
こんなの余裕だろ! 全部まとめて倒してやるぜ! ガハハ! ガハハハ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます