第十四話 顔合わせ開始
月曜日
本日は将来俺の隊の隊員となる予定の者たちと顔合わせだ。緊張する。
指定された時間の指定された部屋の前。中にはもう誰か一人居るようだ。
ノックをして、入室許可を得る。
「失礼します。埼玉大隊所属 浦和 賢太郎候補生です。よろしくお願いします」
敬礼しながら挨拶をした。
「私は埼玉大隊所属
微笑みながら敬礼をして、落ち着いた声で挨拶を返してくれたのは、見た目は大体俺と同年代くらいの女性だ。防蟲官は確かな年齢が分からない。
スノーホワイトの髪を後ろで纏めている。身長はおおよそ百六十二センチほどだろうか。
第一印象は、めちゃくちゃ仕事出来そうな人。
頼りになるだろう。良好な関係を築きたい。
「私はあなたの隊で副隊長を務める予定の者です」
……だとすると少し不味いか?
ここで新人防蟲官の配属について解説。
まずは入隊すぐのとき。
地方基地には教育隊といったものは存在せず、通常の小隊に仮配属し装備の扱いなどを学ぶ。実際に、任務についていくこともある。
次に候補生期間が終わって、正式配属されるとき。
これは基地司令がどれくらい新人を迎え入れる気かにもよるが、大きく二つに分けられる。
一つは相性の良さそうな既存の隊に混ぜる。こっちは少し選ばれにくい。完成している連携に割り込むことになるからだ。
しかし一時的な措置としては多い。その場合は名目上は正式配属でも半分仮配属みたいな扱いになる。
もう一つ。防蟲隊でよく選ばれる方。
それは上から下まで新人の見習い小隊を作り、小隊ごと成長させること。
こちらはある程度纏めて新人を採用する必要があるが、まっさらな状態から連携を教え込むことで高い結束力を期待できる。
この場合隊長になるのは、適正があり既存の小隊から抜けた人か、一時的な措置として半分仮配属になっているような人。
当然基地司令はある程度計画を立てて採用しているので、最初から小隊長になれるであろう人を半分仮配属状態にし、経験を積ませる。
しかし全くの未経験である俺が、見習い小隊の隊長を任されようとしている。
その隊の副隊長になると言う大井一曹。もう階級がついているということは候補生期間三ヶ月を終わらせてて、どっかの小隊に配属されているということ。
諸々考えるに、大井一曹は俺がいなければ小隊長になる予定だったんじゃなかろうか。
──これは隊内に不和を生むぞ。
「実は私、隊長になるはずだったんですよ」
俺が内心口を引き攣らせていると、まるでアイスブレイクのような軽い口調で予想を肯定してくれた。
「そうでしたか」
正直反応に困ったが、純粋に少し驚いているという表情で相槌を打つ。
「でもまだ防衛大を卒業するには時間がかかりそうで……もし浦和候補生が成宮副司令の言っていた通りに一年で卒業できるというのなら、私が隊長になれないのは私の実力不足です」
おさらいだが、小隊長になるには防衛大を卒業する必要がある。天才たる俺は学科をスキップできるので、成宮副司令の見立てでは長くても一年で卒業できるとのこと。大井一曹はそれよりもかかりそうだと。
言わば早い者勝ちだから俺が悪いんじゃ無いんだよと言ってくれてるんだろうか。
「それに、実は私前に立って引っ張るよりも、サポートをする方が性に合っているんです。なので浦和候補生には少し期待しちゃってます」
だから隊長の座を奪うような形になってしまったことは気にするなと、内緒話をするようなトーンで囁く大井一曹。
うーむ。優しくて気遣いのできる人だ。男子生徒に勘違いさせてそう。
正直防蟲官になるのはともかく、小隊長になるのは何となく流されているような気もしていたんだが、期待してくれてるなら頑張ろうと思えた。
最強の小隊長になってやるぞ!
内心で気炎を吐く。
……これ傍から見ると可愛い子に唆されて隊長を目指すチョロい男子って感じじゃないか?
そういうのじゃなくてね、ただ期待に応えようと思っただけで……。
おっと、そんなことよりも……
「そういえば他の子はいないんですか?」
かれこれ七分ほど経っているが、大井一曹以外の隊員が来ない。
「他の子は別室です。集合時刻も十分ずらしてあります」
……なんで?
「事前に見ておいて欲しい資料があるからです」
これは隊員の情報か。
記されているのは、名前、年齢、通っている学校、階級、といった本当に簡単な情報だった。
しかしこの程度の情報でもあると嬉しい。助かる。
ちなみに大井一曹は防衛大生で俺の一個上、十七歳。
「把握しましたか?」
「はい」
「ではそろそろ時間も丁度いいですし、他の子がいる部屋へ案内します」
そう言って部屋の扉を開けてくれた。
案内に従い歩く。
本当に情報を渡すためだけに時間を作ってくれたようだ。あとは俺の『隊長の座を奪ってしまった』とかいう懸念を無くすのも目的だったのかもしれない。わざわざありがとう。
「こちらです。心の準備はよろしいですか?」
心做しか、からかうように尋ねてきた大井一曹に笑顔で「大丈夫です」と頷く。
緊張はしているが、俺の笑顔を見せれば第一印象は最高だろう。世界を照らす。
「入ります」
ノックをし、すぐにドアを開けた大井一曹に続いて部屋の中に入る。
内装はシンプルな会議室と言った感じだ。大きな机が一つ。椅子がいくつか。
「おはようございます皆さん。こちらが私たちの隊長になる浦和候補生です」
ご紹介にあずかりました。
「浦和 賢太郎候補生です。よろしくお願いします」
敬礼をしながら名乗る。答礼と「よろしくお願いします」の合唱を受け、将来の小隊員たちの顔を一人一人見る。
……ちょっと気になることもあるが一旦置いておこう。
「私は
事前に順番を決めていたのか、相手側の名乗りもスムーズに始まった。
平塚候補生は緩くウェーブした薄ピンクの髪を腰辺りまで伸ばした少女だ。身長は百四十センチもないくらい。なんだか眠たげな目をしている。
大分小柄で、街で会っても小学生にしか思えないだろうが、事前資料によると十五歳。さらには防衛大生だと。
高校入学して即卒業、即防衛大入学したということだ。すごい。
「
お次はクールな印象の平塚候補生との高低差がすごい福原候補生。
瑠璃色の髪をハーフアップにしている。身長は百五十五センチほど。
深窓の令嬢みたいな髪型をしているが、この短い発言でもわかるほど活発な印象を受ける少女で、頭が少し混乱する。
普通に地元の第四高校に在学中のようだ。一年、十五歳。
「ボクはぁ、
『知ってるでしょ?』と言いたげにイタズラっぽく笑うのは顔も格好も少女にしか見えない少年。
昨日、正式に友達となった流華だ。
髪型は表現しづらいが、女性基準のショートヘアとショートボブの間くらいの長さ。くせ毛か寝癖か外にハネている部分がある。色はくすんだ銀。
身長は百五十三センチくらい。福原候補生よりも少し低い。
同じく地元の第四高校に在学中。二年生で十六歳。俺と同い年だ。
「
長く、綺麗な銀髪をツーサイドアップにしている少女。
……そう。彼女はあの土浦での蟲害にて出会った、銀髪少女その人である。
顔を見たときにとんでもなく驚いた。
なぜこんなところにいるのかは謎だが、他の子と同じように情報を整理する。
身長は大体百七十センチくらい。少し大きいといえる。
地元の第四高校の二年生で、俺と同い年。
今も俺をじっと見つめている。電車の時のトラウマが蘇るからやめてね。
一つ確かなのは、ブラックマーケットの実態を探ろうとした警察官などでは無かったということ。
何故あの時、電車でロックオンされたかの答えは無くなった。また怖い。
席に着き、暫し歓談する流れ。
隊員と仲良くなっておきたいし、銀髪少女の謎も解けたらいいな。
■■■
『防蟲官の階級』
低い順に
二士、一士、士長、三曹、二曹、一曹、曹長、准尉、三尉、二尉、一尉、三佐、二佐、一佐、将補、将
地方基地に所属できるのは曹以上。
第四高校在学中は三曹、高校卒業後は二曹、防衛大在学中は一曹の階級が与えられる(学生兼防蟲官の場合のみ)。
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