第十二話 友達の定義

「それからさ、よくよく思い返してみたらボクって遊びに誘われたこと無かったんだよね。いつもボクの方から『遊ぼう』『混ぜて』って。ここでやっと気付いたんだ。四人と一人で五人のグループなんじゃなくて、四人のグループに付きまとってるのが一人いたってことなんだって」


 静かに流華の話を聞く。

 何故間接キスに執着するかは教えてくれたが、それを俺にしたいと思った理由がまだだ。


「それに気付いた時は悲しいとかそんな気持ちもあったけど、一番大きいのは恥ずかしいって気持ちだったんだ。ボク一人だけ勘違いして……一回『付きまとってごめんなさい』って言ってから付きまとうのやめたけど、一緒の高校に行くのは気まずいからみんなが行かない高校に行こうと思って、第四高校に防蟲官コースで入学したの」


 防蟲官コースは結構難易度高いと聞いたけど……失礼ながら鈍臭いを自称する人が入れたのは少し不思議だった。


「運動は苦手だったけどぉ、小さい頃からギフトの練習はしてて……それにボクのギフトってレアギフトの中でも珍しい方みたいで、成長性を加味してとかそんな理由で入学できたんだぁ」


 内心の疑問を読み取ったのかそう教えてくれた。


「でもそんな理由だからぁ、高校でも落ちこぼれちゃって。周りからも馬鹿にされて、そこでも友達は出来なかったの。それでも何とかみんなに追いつこうと頑張っていたら、今年の四月に大隊長がボクの通ってた高校に来て……みんなスカウトされようと頑張ってたけど、ボクはみんなに『離れてろ』って言われたから少し遠くで見てたの。そうしたら何故かボクがスカウトされて……嬉しかったから受けて、すぐに埼玉基地に配属したんだ」


 日比谷司令(大隊長)が東都各地の第四高校でスカウトを行っているのは有名な話だ。

 特徴的なのは、各校で最も成績がいい人を選ばないことだ。

 しかしその多くが埼玉基地にて最強の大隊に相応しい防蟲官になる。


「賢太郎もやったと思うけど、入隊するとすぐに検査があるの。その時に担当研究員さんが『絶対似合うから』って女性用制服を進めてきたんだ。そこまで乗り気じゃなかったんだけど『可愛いから! 人気出るから!』って言うから、まあいいかなって」


 その人大丈夫か?

 通報した方がいいかもしれん。


「でも部屋で自分の姿を見てみると、すっごい可愛くて、女の子にしか見えなくて……ボク自分の見た目好きじゃなかったんだけど、これなら自信が持てるなって思ったんだ」


 女装をしていた理由だ。

 どんなかたちであれ、自信を持つようになるのはいいことだと思う。


「そんな時に同い年の男の子が入隊したから、営舎を案内するように言われて……もしかしたら友達になれるかなって嬉しかったんだけど、将来小隊長になる人って聞いて、ボクの上官になるんだってがっかりしたの。だって隊長と隊員って仲間ではあっても友達って感じじゃないよね?」


 問いかけられたので、「まあ、そうだな」と同意を返す。


「だよねぇ……。それでも仲良くなろうと『実は男でした〜』ってやってみたんだけど滑っちゃったし……」


 そう言って少し恨めしげに俺を見る流華。リアクション薄くてごめんね。

 でもそれを持ちネタにするのはやめた方がいいと思う。コンプラ的に。


「でも、賢太郎が敬語は要らないって、名前で呼んでもいいって言うからぁ、もしかしたらいけるかなって……」


 合コンでお持ち帰りを狙う人かな?


「部屋とかを案内して、その間にたくさん話して、その中で堂々としててかっこいいなって、賢太郎と友達になりたいなって強く思ったの」


 そんなにたくさんは話して無かったと思うけど……。


「だから仲良くなろうと間接キスを狙ったんだぁ」


 仲良い人とならそういうの気にならないっていう話であって、間接キスをすれば仲が深まる訳じゃ無いと思うが……。流華にとっては一緒なのかもしれない。


「……ごめんねぇ、変なことして」


 これで流華の話は終わったみたいだ。

 間接キスのことを聞いたら流華の半生が帰ってきた。


 この話を聞いて俺がどう思ったのかを伝えるべきだろう。


「まず、俺と流華は友達じゃない」

「……うん」


 傷ついたような表情をする流華。ごめんね。前置きだからね。


 友達の定義。どこからが友達かなんてのは人それぞれで、俺の思うラインを流華は越えていない。


「でも流華の話を聞いて、友達になりたいって思った」


 正直気恥しいが、はっきりと伝える。


 話を聞いていて思ったのは、俺とは真逆だということだ。

 小学生の頃友達がいなかった流華に対して、俺は小学校の頃が一番友達がいた。

 以降俺は人付き合いに疲れ、中、高と友達は減っていった。それでも数人は残ってくれているが。

 その間も流華は友達を作ろうとしていた。


「え!? 今友達になりたいって言った!? ボクも賢太郎と友達になりたい!」


 友達を作ろうと努力を重ねた流華。自分は友達だと思ってたけど、相手からはそう思われていなかったっていうのは結構辛いことだと思う。

 それでも腐らず、チャンスを狙い続けたのは尊敬できるところだ


「これって両思いだよねぇ! じゃあもう友達だよね!」

「いや、まだだ」

「なんでよ!?」


 さっきからすごい声を張っているな。


「今日この後は何かあるか?」

「……何も無いけど?」

「明日は?」

「無いよ」


 ならばやることは一つ。


「遊びまくるぞ!」

「えー!? ほんとに!? 嬉しいなぁ!」

「……たくさん遊んで、たくさん話して友達になろう」

「……うん!」


 流華が俺にとっての友達の基準に達していないと言うのなら、届かせるまでだ。


「……さあ、それじゃあケーキを食べようか。冷めちゃうぞ」

「……もう、ケーキは最初から冷めてるよぉ」


 食べながら話を聞くように言われたが、当然そんなことできる訳もなく、ケーキはガッツリ残っている。


「ご趣味は?」

「趣味? なんだろう……漫画読んだり、アニメ見たり……あっ! 最近はボクの可愛い写真を撮ったりもしてるよぉ。見る?」

「見せて貰おうか」


 自撮りが趣味って臆面も無く言えるのはすごいな。


「制服姿だけか?」

「女の子の服はまだ制服しか無いの。見たい?」

「仕入れたら着てくれ」

「うん! なんか着て欲しい服とかある?」

「メイド服」


 そうして話していたら……


「うう゛ん! あーっ、それちょっと食べたいなぁ。一口交換しない?」

「いいよ」


 一口と言わず一切れ持っていけ。

 箱の中から切り分けられたケーキの一切れを流華の皿に乗せる。


「……違うでしょ!?」


 さっきから声がデカイな。遠慮が無くなったようで何より。


「そっちの、食べかけのをちょうだいって!」

「……まだ間接キス狙ってるの?」


 そんな事しなくても友達になるって……。


「あ、憧れなの……。賢太郎はそこまで抵抗無いみたいだし、やってみたいなって……」


 憧れって言われると弱いな。叶えてやりたくなる。


「……いいよ」

「ほんと!? じゃあ交換!」


 手早く俺の皿から食べかけのケーキを持っていき、流華の食べかけケーキを乗せた。鈍臭さの欠けらも無い動きだ。


「いただきます! あー……」


 流華が夢を叶える瞬間を見届けよう。


「うう……」


 フォークを下ろしてしまった。


「どうした?」

「恥ずかしいよ! そんなに見ないで!」

「……見届けさせてくれ。夢を叶える瞬間を」

「うう……わかったよぉ。見てて……」


 顔を真っ赤にしながらフォークを口に突っ込んだ。


「おめでとう!」

「ありがとう……」


 拍手で祝福する。良かったね。


「……賢太郎も食べて」

「え?」

「ボクの食べかけ! 賢太郎も食べて達成だから」

「いいけど……」


 俺は抵抗無いので普通に食べる。


「満足か?」

「うう……ボクはすっごく恥ずかしかったのに……」


 そりゃあ俺にとっては別に憧れでもなんでもないし……。


「でも……ありがとう。ボクの夢が叶ったよ」


 それは良かった。でも……


「あんまりあからさまに間接キスを狙うのはやめた方が……」

「わかってるよぉ。もう他の人にはこんなことしないって」


 俺にはするのか?


「いいでしょ? 友達になるんだしぃ、抵抗無いみたいだし」


 よっぽどヨダレでベチャベチャとか、全くの初対面で通りすがりにとかじゃなければ気になんない。


「っていうかぁ、あんなに間接キスをしようとしたのは賢太郎が初めてだよぉ。これまでは全然チャンスが無かったけど、賢太郎はいけそうだったからぁ」


 俺をちょろい人みたいな言い方しないで?


「あっ、ボクの趣味は話したけど、賢太郎の趣味は聞いてないよねぇ。教えて?」

「趣味……そうだな、俺も漫画を読むしアニメを見るよ」

「ほんと? あっ、夕方のやつ?」

「いや深夜のも」

「えっ!? じゃあ今期何見てる!? ボクはねぇ〇〇っていうやつがおすすめで……」

「俺も見てるよ」


 ちなみに流華があげたアニメは百合アニメでしかも二期のやつ。


 ……流華は百合アニメで友情を学んでいる可能性があるな。



 日が沈んでも話が尽きることはなかった。

 夕飯は何にしようか。

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