第十一話 仲良しの条件

「じゃあ次は居住区内のコンビニに行こ〜」


 箪笥の中に入っていた制服に着替えた。昨日着ていたインナーはその場で返してしまっているので、今は普通のシャツとトランクス上に着ている。


「着いたよぉ」


 然程営舎から歩かずに到着した。


 基地内には幾つかコンビニがあり、場所によって品揃えが違う。

 居住区内のコンビニには食材なんかが多いらしい。


「ほら、見て。冷凍食品がいっぱいあるでしょ。買っておくといいよぉ」


 冷凍食品は長期保存も効いて、お腹が空いた時に気軽に食べられることから、言わば食べることも仕事である防蟲官はみんな買い溜めしているらしい。


 部屋にも冷蔵庫の冷凍室(冷蔵モードにもできる)だけでは足りないだろうと、冷蔵庫と大きさの変わらない冷凍庫があった。


「賢太郎は料理する?」

「まあ、たまに」

「そっかぁ。ここに食材があるよ」


 食材コーナーも結構充実しているな。


「あ、あとこれも便利」


 渡されたのは紙皿やらの使い捨て食器。確かに今は部屋に食器はないし、あると便利だな。


 最終的に買ったのは、冷凍食品、使い捨て食器、お菓子、飲み物、アイス、パンにコンビニスイーツと大荷物になってしまった。


「持つよぉ」

「ありがとう」


 俺の部屋に戻り、片付ける。流華の手伝いもあって、直ぐに終わった。


「お昼どうする?」


 ──昼か。悩みどころだな。


 基地内には多くの食事処があり、それぞれ様々な特色をもって営業している。

 営舎まで持ってきてくれる店もあるらしい。


「特に行きたいところが無いんなら、ボクのおすすめに行こう!」


 それがいいかもな。先人の知恵。


 と、流華に案内されるまま行くと……


「着いた! ほらここだよぉ」

「ここは……ケーキショップか」


 なるほどね……。

 とりあえず、中に入る。


「ケーキばっかりだな」

「そりゃあケーキショップだからね。あ、シュークリームもあるよ」


 圧を感じる程にケーキが並んでいた。それもホールケーキのみ。

 色んな種類のホールケーキが並ぶ中、隠れるようなシュークリームが少し浮いている。


「ここはねぇ、一つ一つ職人さんが手作りしてるんだよぉ」


 それはすごい。今の飲食店の多くは自動調理機や料理生成機なんかを使っているというのに。


「店内に食べるスペースもあるけど、持ち帰って賢太郎の部屋で食べよう! いい?」


 それはいいけど……お昼ご飯は?

 まさかケーキが昼か?


 俺は甘いのが大好きなので、ケーキを食べるのはいいんだが、出来れば食後に食べたい派だ。

 甘い物は別腹なせいか、あんまり食べた気にならないんだよなぁ……。


 まあいいか。流華に合わせよう。


 十数個のケーキと、シュークリームを買った。

 ホールケーキ達の中、異質なシュークリーム。つい目が行き、買ってしまった。これは戦略か……? やりおる。




 ■■■




 俺の部屋に入り、ケーキを座卓に置く。


「ああ、そういえばケーキナイフが無かったな」


 ケーキを分けるのに使う刃渡りの長いナイフ。ここは前に住んでいたところじゃなかった。失念。

 それぞれホール単位で食べるので、切り分ける必要が無いと言えばそうなんだが、ケーキは丸よりも三角の方が食べやすい。


「使う!? ボクの部屋にあるよ! 持ってくる!」

「おう。ありがとう。あ、あと座布団も持ってきてくれ」

「わかったぁ!」


 返事をする前に動き出した流華が、部屋を出る前に言う。


 先に食事の準備を進める。紙皿やフォークなどの、さっきコンビニで買ってきた使い捨て食器を並べる。


 ピンポーンとインターホンの音。


「はーい」


 玄関ドアを開ける。


「流華でーす。ただいまぁ」

「おかえり」


 部屋に入って貰う。抜き身のナイフを持っているの見られたら、何か誤解を招きそうだ。


「あっ、もう準備できてる。早く食べよぉ」

「おう。飲み物は?」

「うーん。紅茶ぁ」


 やはりデザートではなくメインとしてケーキを食すつもりのようだ。


 飲み物は午後に飲むことを推奨されている紅茶。幾つか種類がある。


「の、どれ?」

「あー、ミルクティー」


 俺もミルクティーにしよう。甘さの波状攻撃。


 長方形の座卓の長辺に、少し離れて並ぶ。


 流華が「お先にどうぞぉ」と渡してくれたケーキナイフで切り分ける。


 俺と流華がひとホールずつ切り終え、一切れ紙皿に乗せたところで、声を合わせた。


「「いただきます」」


 うーむ。これはなかなか……。


「美味しいよねぇ」

「うむ」


 俺がこれまで食べたケーキの中でも上位の美味しさだ。

 日比谷司令甘党って言ってたし、基地内の甘味処は信用できるかもな。


「あ、あーっ、ボクもそれちょっと食べてみたいなぁ。一口交換しない?」


 快諾する。

 一口と言わず一切れ持っていけ。ケーキナイフの腹に、まだ手をつけていない一切れを乗せ、流華の皿に置く。


「わぁい。ボクのも持っていってぇ」


 美味い。

 飽きた訳では無いけども、途中で別の味を食べると、より美味しく感じる。


「これも美味しいねぇ。賢太郎はどう?」

「美味」

「良かったぁ……あれ?」


 ここで何故か不思議そうな顔をする流華。

 急にどうしたと言うんだ。


「これってぇ、間接キスできてる?」

「できて無いと思うけど……」


 間接キスを狙っていたかのような発言。


「あっいや、そういうのじゃなくてぇ……いや間接キスをしようとしたんだけどね?」


 何故!?


「……ボクの話聞いてくれる? ケーキ食べながらでいいから」


 真面目な顔をしている。

 どうやら間接キスを狙う理由があるらしい。



 ■■■



「ボクはほら、こんな感じで鈍臭いからぁ……ずっと友達が出来なかったんだ。でも、中学二年生の時、クラス替えしたばっかりでまだグループとかが固まってなくて……チャンスだって何とか勇気を出して声を掛けたの。ボク含めて男の子五人のグループ。放課後一緒に帰ったり、休日に遊びに行ったりして、『ああ、これが友達かぁ』って初めての友達に喜んでいたんだぁ」


 己の過去を語り始めた流華。間接キスを狙う理由は過去にあると。


 ずっと友達が出来なかったのに、諦めるんじゃなく勇気を出したのはすごいな。


「でもさ。なんか『あれ?』ってなることが多くて……。ボクが知らない旅行の話をしてたりさ。本人たちが言うには『四人分のチケットしか手に入らなかった』って。そんなのが何回かあってぇ……鈍臭いボクでもさ『五人グループじゃなくて、四人と一人のグループだ』って気付いたんだぁ」


 グループの中に小グループが形成されるのは珍しいことでは無い。

 俺にも小学校からの仲で、親友と言ってもいいほどの友人達がいる。男女数人ずつのグループだが『あれ? 俺その集まり知らない……』ってことがままある。


 ただ俺の場合と流華の場合では違いがある。俺の場合は『忙しいだろうから』とかそんなんで、悪意がある訳では無いので今まで友達をやってこれている。

 流華の場合では、悪意というかあからさまに『ハブろう』という意思を感じる。


「そんな時にさ、みんなが食べかけのお菓子を交換してるのを見て『仲良いなぁ』って思って。ボクもこれをすれば仲良くなれるかなって『交換しよ?』って言ったんだ。でも『駄目』って言われちゃって……その時は空気を壊したくなくてなんてこと無いふうを装ったけど、家に帰ってからちょっと泣いちゃった」


 だから間接キスに特別な想いがあると。



 流華の話は続く。




 ■■■



『料理生成機』


 過去に存在したレアギフト【料理生成】を再現した機械。


 琥珀素を利用して、食材などが無くても登録された料理を生み出す。

 普通に料理をするより格段に早く提供される。


 レアギフトでは蟲の死骸を変換して料理を出していたが、料理生成機では琥珀石を加工した【琥珀素カートリッジ】を使用する。


 こういった琥珀素カートリッジを使用する機械を【琥珀機】という。


『琥珀機』


 琥珀素カートリッジを使用する機械の総称。

 有名なのは、料理生成機と食材生成機。

 狭い人の領域で食糧に苦慮しないのは食材生成機のおかげである。


『琥珀素カートリッジ』


 蟲の塔で採れる琥珀石を加工し形や内蔵する琥珀素の量を調整したもの。


 短冊状をしており、琥珀機に挿して使う。使い終わったら捨てる。可燃ごみ。

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