第10話 十三人目
プリンス・プロジェクトには、タイトル通り『(主人公にとっての)王子様になる予定の男性攻略キャラ』が出てくる。
ヒロインには様々な悩みがある。
パッと思い当たるだけでも……。
・育ての親の死。(親の死)
・テンペスト学園内での身分差(生まれながらの差)
・人とうまく付き合えないパーソナル問題。(社会の疲れ)
・ルートによっては千賀刹那による精神的圧力。(所属する場所の嫌な相手、会社ガチャ)
・自己肯定感の低さによる厭世観、拮抗する正義感などなど。(逃避したい気持ち、それでも正しい人間でいたい気持ちなどなど)
現代社会に疲れたプレイヤーを投影するかのようなキャラクター性である。
そこに現れる王子様候補――『あなたを救う想いは、王子様が届けてくれる』。
プレイヤーは、『無自覚にPPを攻略していく』ことで、『今の自分が何を求めているのか』という根源にたどり着く。
『PPストレス診断』なんて言われるくらいであり、初プレイ時に攻略したキャラにより、自分の内面がわかるとかなんとか。
熱心なファンからは、初回プレイは絶対に攻略サイトを見るな! と口酸っぱく指示されるらしい。
さて。
そんな王子様の数――サブキャラまで入れると、総勢『12名』。
乙女ゲーとしてはかなり多いほうだろう。男性向けのシナリオゲームでも、12名はほぼ最大数だ。
ただ、厳密にいえば、PP攻略キャラは13名なのだ。
それも――13人目は『王子様系・モデル体型長身女子』である。
くりかえす。
女子、である。
隠しプリンスは百合要素、というのは、これまた意外性があって話題になった。
本来、このキャラ――『門白翠(もんしろ・すい)』は、『葵四季の幼馴染2名(男と女一名ずつ)のうちの一人』であり、『葵家と門白家の当主同士が口約束をしている婚約者同士』でもある。
よって、リアル世界のプレイヤーから見ると、四季ルートにおける『主人公の恋敵』になるわけだが、それがまさかの攻略キャラというルートがあるという事実が、憎さから愛へと転換され、女性キャラながら一部の男性キャラより人気を生んでいた。
『王子様に見える、女性隠れキャラ』
これには驚いたし、女性主人公とはいえ、どうしたって男性人格を投影してしまう俺からしてみれば、なかなかドキドキする展開でもあった。
門白翠は、日本庭園があるような旧家に住んでいる。歴史ある門白・本家の一人娘であり、私生活でも着物や紬を切るような、日本美人でもある。
翠、は『みどり』とも読む。
それは古来より『黒く、艶やかな女性の髪』を表す。
その名の通り、彼女は170センチ近い細見長身であり、しっとりと濡れたように艶やかな長く真っすぐな黒髪を特徴としている。
静かに下向き、控えめに笑うその姿はまるで日本人形。
いつだって葵四季を立てるさまは、理想の婚約者――しかし、その実態は、金髪、ショートカット、ピアスホール沢山、昔からプライベート時間ゼロ分の習い事過密スケジュールんま家柄に反発しているロック思考女子高生なのであったガッテーーーム!
という感じなのだ。
隠しヒロインというだけあって、このプリンスだけは、性格診断には使われない。
むしろ、12人のプリンスから元気をもらったヒロインが、メタ的に、この抑圧人生のロック男装女子高生を癒していく、という恩返しストーリーである。
人にされてうれしかったことは他人にもしてあげようね! という感じか。
で。
突然ですが。
俺の今の状況を説明します。
(ドラムロール)
ババン!
千賀刹那のパンを買いに来たら……なぜか門白翠に絡まれてます。
く り か え す。
も ん し ろ す い に か ら ま れ ま し た!
……なぜ?
話は自動販売機の前から始まる。
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