第15話 武将(元現代人)「え!?ワイのボーナス茶器だけっすか!?」
翌朝、僕たちは万全な状態でスタンピードに挑むことになった。偵察班がスタンピードを引き起こした魔物の主を発見した。
【B級デスマンティス】
カマキリを大きくした魔物で、その圧倒的体格から振り下ろされる両手の鎌はあらゆる生物に対して死を振りまく災害。風魔法も達人級で見ただけで死ぬ、と言われている。B級は吸血鬼と同じランクで個体によっては1階位が上がったぐらいでは太刀打ちできず、3回階位が上がった冒険者や騎士がやっと1対1ができるというほどの規格外。
3回階位が上がるというのは冒険者ランクでいうとA級。町1つを相手にできる強さを1人で持っている。B級の魔物というのはそれだけ脅威ということだ。それに加え、周りの魔物を巻き込んでこちらに来ているのだから相当厄介だろう。
「ねぇ、ミサト。鑑定っていう能力は階位を見れるんだよね?1回でも上がった人がどれだけいるかわかる?」
「ちょっと待ってね…うーん、リードくん合わせて30人ぐらいかな?お!2回上がっている人達もいる!そっちは5人ぐらい」
「え!?ちょっと待って!!僕って階位上がってるんだ…」
「あれ?知らなかったの?てっきり知ってるかと思ってたんだけど…」
階位が上がるということは自分の持つ魔力が上がっていたり、普通の人間の身体能力を超えた力を発揮できるようになる。最近の成長は階位が上がったからだと知った。確かに最近よく動けるようになったと思っていたので納得できた。
それよりも僕たちの戦力だ。B級の魔物1体だけなら多少の犠牲は出てしまうだろうが、何とかすることができる。問題はデスマンティスだけじゃないところだ。後ろには村があるため、周りの魔物も討伐する必要がある。そうなると完全に人数不足になりそうだ。
ヒンメルはベテラン冒険者を集めて昨日からずっと作戦を練っているようで常に忙しくしている。昨日のうちに簡単な柵を作っていたのでデスマンティスが近づいてくるまではそこを利用して戦うことになると思う。
「そういえばほかの地域はどうなってるのかしら?一匹の魔物が暴れていたらそこから全方位に魔物が現れるよね?」
「ほかのところも大変らしいよ、森のどこからデスマンティスが出てくるかわからないからこっちに人集中して送れなくて大変みたい。スタンピードの被害にあわないだろうところから冒険者とか騎士を呼んでるみたいなんだけど、時間かかるって」
そう、ほかの村に派遣された冒険者も状況は厳しい。本来ならば僕たちのところから人を送る形で戦力を集中させていたため、周囲の村々が手薄になっている。そのため、応援に駆け付けた冒険者や騎士たちはみんなそちらに行く。一応、騎士二人がこちらに来たが、伝達兵だった、戦力としては使えない、と思う。
それに収穫祭はどの村でもあるのだ。僕たちと反対側から冒険者の応援がくるわけで、急いで向かってきているらしいが真反対のところが駆け付けているころにはもう
日が暮れてる頃だろうと話があった。
時間がたつごとにだんだん魔物が強くなっていく。僕たちはヒンメルの号令の下、柵の後ろ側から弓矢を放つ。冒険者のほとんどは弓矢を使ったことがないので命中率は悪いけど、その分魔力を温存できる。魔法は階位を超えた威力を出すことができる。なので、できるだけ魔力を温存して後半の強い魔物に持っていきたい。
仕留めきれなかった敵は槍を柵超しに突き刺してとどめを刺していく。ゴブリンなどのE級までは有効のようで倒した魔物の数は200を軽く超えているだろう。
ちなみにミサトは後方で氷水を作っている。弓矢の練習をしてみたのだが、放った矢がなぜかつま先にあたり、同じくつま先に当たっていたヒンメルと一緒に悶絶していた。ボウガンも試していた見たいだけど、それもヒンメルと一緒に地面に転がっていたのでつま先に当たっていたんだろう。ある意味で才能あるよ……
昼前になるとD級の魔物がちらほら出始めてきた。D級以上の魔物は急ごしらえで作った柵と弓矢では対処できないので魔法を使ってD級のパーティーが対処している。
『火魔法 ファイアーエンチャント』
僕は剣に火を纏わせる。フロックロックの戦いのときに使った『火魔法 薪』を改良したものだ。武器に魔法を纏わせて威力を上げる、という発想をミサトが言語化してくれた魔法だ。前と違って繊細な魔力操作がいるものの普通に剣を振るより威力が上がるし、自分の体を傷つけることなく使えるのでとても便利に使っている。
僕はD級魔物のオークを見つけると駆け寄り、目潰し替わりにファイアーボールを放つ。オークが目をつぶって、顔を覆った瞬間にオークの喉に剣を突き刺し、火力を上げる。D級魔物は大の大人10人でも倒せないほど強い。そんな魔物もさすがに喉をやられると呼吸が出来なくなり、バランスを崩しやがて倒れる。僕は目に剣を突き刺しとどめをさす。
「リード少年!!こっちに手を貸してほしい!!」
そう叫ぶのはヒンメルだ。彼は周りを見ながら押されているところに人を割り振っている。ヒンメル自身も戦っているが剣を振る姿は近所の少年のほうがもっとうまく振れるだろう。
僕は駆け寄って状況を見る。戦力は前衛4とヒンメル1で相手は20を超えるゴブリンとD級のゴブリンリーダー3体C級のゴブリン親分1体という構成だ。ゴブリンは巣を作ることで強い個体が出てくる種族で、集団で狩りをする。どうやらスタンピードの影響で巣ごと逃げてきたみたいだ。
前衛の二人がC級のゴブリンと対峙しているが状況が押され気味だ。ほかの三人もゴブリンの多さにてこずっているようだ。
「私の本気を見せてやろう!!『初級魔法 火種』」
ヒンメルが魔法を放つと周りのゴブリン5体を瞬く間に灰に変えた。いや、できるなら初めからやれよ。
ゴブリンや周りの人はあまりの出来事で硬直している。その隙に僕はD級のゴブリンリーダーの喉を切る。別のゴブリンリーダーの顔面にファイアーボールをぶつけ行動不能にさせる。僕以外にも一人動けていたようで、その人がリーダーにとどめをさしていた。
さすがにゴブリンリーダー1体だけでのこり15体のゴブリン達を統率できるわけもなく、ゴブリンたちの勢いは完全になくなった。
「さあ!今のうちだ、私に続け!!ぐああああああああ!」
調子にのったヒンメルが剣をもって突撃していくがゴブリンにあっけなく躱され反撃を受けていた。ずっと魔法使ってて……。その後、ゴブリン達は僕とほかの二人で倒してゴブリン親分に当たる。さすが、C級の魔物を二人で持ちこたえていただけあって僕たちがサポートに入ると形成逆転。シールドバッシュと同時に足の腱を切って体勢を崩す。その隙を逃す冒険者はここにはいない。すぐさま攻撃をたたみ掛けて反撃させることなく倒した。
「う~ん、巣から出てくる奴らも出てきたか……そろそろ来るかもしれんな」
ヒンメルが周りを見ながらそう呟いていた。すぐさま指示を出し、魔物の大群が来ている今でも休憩時間を作れる余裕を作るその手腕は有能指揮官として圧倒的な信頼を勝ち取っていた。
「お疲れ~はい、リードくんこれ私が作った氷水だよ~」
「ありがとう」
僕はミサトから氷水とタオルを受け取る。戦いで高まった僕の体温をいい感じに冷やしてくれるのはとてもありがたい。僕みたいな火魔法の使い手は常に火の近くにいるからどうしても体温が上がりすぎてしまうのだ。一方で、風魔法や水魔法、ミサトが使う氷魔法は体温が下がってしまう。魔法は確かに強力なんだけどどうしても生物の限界にぶち当たる。それを何とかできるのが階位で、そういうところから階位が上がると生物としての殻を破る、生物としての昇華しているのではないか、という噂もある。
D級C級の魔物が多くなってきたが周りの冒険者の表情はいい。ヒンメルの指揮がうまくいっている証拠だ。
「ぎゃああああああああ!」
突如、戦場に冒険者の悲鳴が聞こえる。戦いの場なんだから当たり前であるが、これまで重傷者なく回していたので何かあったかは明確だ。僕は剣を取り、悲鳴があった場所に急行する。
そこには、胴と頭が綺麗に泣き別れた死体が三体転がっていた。三人のベテラン冒険者を刈り取った相手はカマキリに似ていて、僕より3周りは大きく、両手には鋭い鎌、強靭な顎を持っており、強烈な死の気配を感じされる。目に見える死、それは僕ら冒険者に恐怖を与えるには十分な存在感あった。
【B級デスマンティス】
このスタンピードを作った犯人であり、僕ら今いる冒険者だけで討伐しなければならない最重要目的。デスマンティスは足がすくんで動けない冒険者を嘲笑うかのように口からギギッと音を出している。
一歩、一歩とゆっくりと確実に近づいてくる。その動きに合わせて僕たちは一歩ずつ下がっていく。場に静寂が生まれる。一つでも距離を詰められたら最後、あの死の鎌に魂を取られてしまう。
ほかの冒険者たちがあまりの異常さに気づき、駆け寄って来るも事態を察すると戦闘意欲がなくなったように距離を離して様子を伺うようになる。
次第に村が近くなってくる。もう、後ろには即席の柵が迫ってきており、自分たちに後がないことがわかってしまう。このまま柵の後ろにやすやす通すことはできない。ここを通せば、村の人たちは何も抵抗できないまま、壊滅させられる。村には家族がいる冒険者もいるだろう、その後ろにある町には恋人が帰りを待っているかもしれない。守るためにはここを通すわけにはいかないのだ。
気づいたことがある。僕たちは追い詰められているがそれは相手が攻めあぐねている、ということだからだ。ミサトがいうには階位が2回も上がった人達もいるらしいし、無傷でここを突破できない。冒険者が自分達を犠牲にすれば自分が死んでしまう可能性がある、ということを予測して相手の出方を伺っているのだ。
それでも一匹の強大な個と即席の集団、どちらに分があるかといえば個のほうだろう。僕たち冒険者は一人一人考えることが違う個性派ぞろいで、一瞬でも息が合わなければその先は死。頼れる仲間内ならまだしも即席で集まったメンツに命を賭けられるだろうか?
一番後ろの冒険者の背中に柵が当たる。それを察してか全員に時が来たのだと察する。
両者睨みあう。
一瞬の静寂。
『初級魔法 そよ風!!』
『氷魔法 ブリザード!!』
突然僕たちの後ろから強い風圧に乗せられた吹雪がデスマンティスに向かって降りかかる。
一瞬の出来事デスマンティスは反応できずに魔法が正面にあたってひるむ。
「よし!!今正面にいる冒険者と前衛は正面で攻撃を耐えろ!!それ以外は横に張り付いて圧をかけ続けろ!!回復系魔法を使える奴らは後ろで温存!火魔法は使うなよ!!土魔法は足止め!!」
ヒンメルの号令とともに冒険者たちがデスマンティスに襲い掛かる。
「野郎ども!!声上げろ!!」
「「「「オオオオッーーー!!」」」」
デスマンティス討伐戦開始。
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