第14話 踏み絵ってスゲーよな、推しのポスターなんて踏めねぇじゃん


 収穫祭当日の朝僕たちはゲルギオス教特有の黒いローブを羽織った神官たちの儀式を眺めていた。神官たちは持ち運びしやすい小さな祭壇のようなところに様々な供物を捧げ、その周りを踊りながら回っている。供物は主に魔石類が多く、祭壇に使われている素材は魔力が通しやすいもので、仕切りに魔力が流れていることがわかる。


「ねぇ、あの人達ってなに?」

「ああ、あれはゲルギオス教っていって、ゲルギオス教は祭りと儀式を重視する宗教なんだ。神様に祭りで生まれる幸福な力と踊りを使った儀式で神へ感謝を伝えることを掲げていてなにかの祭りの運営をしているんだ」

「じゃあ、あの儀式は?」

「師匠が言っていたんだけど生物すべてには魔力があるらしくて、魔力の多さによって種族としての優劣が決まるみたい。食べ物の場合、魔力が多ければ多いほどおいしくなる。だから、美味しくするためにこの儀式を通して植物に魔力を与えているみたい」

「それって、今やるの遅くない?」

「僕は何回かみたけど別の季節にもやってるみたい」


 実際、師匠と森で訓練しているときも、冒険者となって村の依頼をこなしていた時もよく見かけた。彼らは町で大きな祭りがないときは村々を回り儀式をしていく、そのため農民から大変人気だそうだ。


 しばらくすると踊りを止めた彼らは祭壇に集まって祈りを捧げ始める。すると、祭壇が光りだし、上空に光の玉が出来上がる。上空にできた光の玉は規則正しく並びだし、それらが小麦畑に降り注ぐ。やがて祭壇は元の状態に戻り儀式は終了する。


 村人をはじめ冒険者たちも拍手してゲルギオス教の信徒たちを称える。その中でヒンメルだけが妙に暗い顔をしているのが妙に目に入った。


 収穫祭当日、祭りといってもやることは収穫だ、見習い冒険者と日雇い冒険者たちの収穫作業に駆り出される。僕たちE級D級の冒険者も例外ではなく見回り警備の少数を残して収穫作業を手伝う。ただ、僕たちは武器を持ちながらみんなより手を抜きながら行っている。それもそうだ、冒険者は無限に人の力がいる村から追い出された無法者が多い。そいつらは農業なんてやりたくないから見回り警備に回されているらしいが果たしてこいつらが信用できるだろうか、ということだ。


 お昼過ぎ僕たちはお昼休憩をしていた。日雇い労働者はまだ働いており、僕たちと交代で休憩を取るらしい。


「ふぁ~、疲れた!脱サラしてスローライフとか絶対に無理だわ~」


 ミサトは僕の隣で変なことを言いながらパンを頬張っている。収穫祭は一昨年の小麦などもう食べられなくなりそうな非常用の小麦を振舞ってくれる。僕もめっちゃ食べた、魔法を使う人は魔力を回復させるためにたくさん食べる人が多いのだ。


「ん~?リードくん冴えない顔してるね、どうしたの?」

「ヒンメルがちょっとね、なにか怖い顔してたから何かあるんじゃないかと思って…」

「もしかしたら本当に何かあるかもね」


 何やら向こう側が騒がしくなった。何かの緊急事態が発生したようで騒がしくなってきた。僕たちも魔物関係のトラブルだった場合、対応しないといけないためそちらのほうへ向かっていく。


 村の広場中央ではヒンメルと一部の冒険者が話し合っている。冒険者たちは魔力量から察するに相当上のランクにいる人達だと思う。


「冒険者のみんな!!こっちに集まってくれ!!」


 ヒンメルが大きな声で冒険者を集めさせる。冒険者たちは素早く広場に集まってくる、農業に飽きたからかそのこれまでよりも行動が早い。


「北の森でスタンピードの予兆を確認した!!これより迎撃準備に入る!!これまで各班のリーダーやその他パーティーリーダーは集まってくれ!!」


 スタンピード、その言葉を聞いて冒険者たちはざわつき始める。それもそうだろう、スタンピードはひどいときは町一つの見込むほどの魔物による災害だ。


 魔物による大規模災害は主に三つに分けられると師匠に教わった。一つ目がそのスタンピードである。これは強い魔物ほど人間の手が付けられない山奥や谷の底にいるのだが、まれに人里に近いころまで下りてくる現象のことをいう。それが周りの魔物に広がって、強い魔物から逃げるために弱い魔物たちも人里に降りてくるのだ。そのため雑多な魔物と戦う必要がありとても厄介だ。

 二つ目はモンスターパーティーで、これはゴブリンキングのような種族の王様が眷属を引き連れて人里に侵攻していくことだ。魔物はある程度統一されているので対策はしやすいが軍隊のようにまとまって行動するところが厄介らしい。まぁ、師匠は単独討伐をしたようだけど……あの人化け物過ぎない?


 最後は魔王による魔物を操った戦争だ。魔王には魔物を操る魔法があるらしく、その魔法を使って全世界の魔物を操って戦争を仕掛けるらしい。そのせいで何度か人類史は暗黒時代に陥ったらしく、師匠がいうにはある時を境に一切歴史が残っていない空白の時代が3回もあったらしい。僕はチラッと勇者であるミサトのことを見る。


「おお~!これはさっそく転生主人公みたいなイベントキターーー!!」


 何か喜んでいるようなので頭を軽く叩いておいた。この緊張した空気のなか一人でも能天気な奴や無責任な奴がいると一瞬で士気が下がりできるものもできなくなってしまうからだ。ミサトも何となく周りの空気を察し、真面目な顔をするようになった。


「ねぇ、リードくん…」


 ミサトは真剣な声で聞いてきた。まだ、見習い冒険者でスタンピードとは何かがわからないのだろうか?


「……なに?」

「私たちの子供の名前、なんて名前にしようか?」

「しらね」


 割とどうでもいいことだった。というか結婚といいこちらに好意があるのはわかるが僕は人間との間に子をもうけられるのだろうか?いや、この思考は余計だな僕は呼ばれているしそちらに合流しようか。


「まって、冗談!冗談だって!ね?私を捨てないでよー!!」


 ウソ泣きしているのがバレバレだったので僕はミサトを見捨てて集まりの中に入っていく。集まりに入ると知り合いの冒険者が目配せで「あれでいいのか?」と視線を送ってきたので、このままでいいと返す。いや、よくないんだけど流石に構ってる余裕ないし…。


「じゃあ、私の考えた作戦を伝えていくぞ!!」


 ヒンメルの号令を聞いてみんなが集まっていく。


 集まりは冒険者だけでなく村長らしき人も参加していたので村全体で対処するようだ。そして作戦はこうだ。まず、この辺の土地勘がある優秀な冒険者パーティーが森の奥に偵察し、暴れている魔物がどんな奴かを確認する。その間にE級F級冒険者は浅いところにいる同じぐらいのレベルの魔物にあてがわせできるだけ数を減らしておく。その間主力となるD級C級冒険者は大物が出るまで待機。村人と日雇い冒険者は村の防衛施設の補強という流れになった。えらく大雑把だが所詮寄せ集め、細かく指示しすぎると細かすぎて作戦を理解できない。


 僕の役目はE級F級の冒険者たちをまとめ上げてレッサースライムなど弱い魔物たちを狩っていく役目だ。僕はD級冒険者ということになっているがまだまだ未熟だと判断されてここにいる。


「リードくん~、違うから~……グヘェ!!」


 僕たちは解散しさっそく行動する。泣きながら足にしがみつくミサトを足蹴にしながら。


「さぁ、お前ら仕事だぞ!!さっさと取り掛かりやがれ!!」

「い、いやぁだってスタンピードって……」

「あ?俺たちがやるのは本隊がくるまでのE級F級の討伐だ!!こんな簡単なこともできねぇのか?だったらてめぇらは一生そこから出られねぇよ!今から帰って寝てろザーコ!ザーコ!」

「あ?生意気言ってくれんじゃねーか!!やってやるよ!!」

「あ、ドSなリードくんもいい……いけない扉が開けちゃいそう……」


 あまり強い言葉を使いたくはないがあまり舐められすぎるということを聞いてくれないと師匠から教わったのでそうしている。べ、別に煽るのが楽しいというわけでは....ない。



 こうして僕たちは魔物を狩り始めた。見習い冒険者を希望制にして参加したい奴だけ参加するようにさせた。どうせどこかで実地訓練をするんだろうし早めにやっても変わらないと結論を出したからだ。


 多数の経験者がいる中で自分の限界を見つけ引き際を覚えるのもまた一つの経験だ。結局、見習い冒険者たちはミサトを含め5人しかまともに戦える奴がいなかったのでそいつら以外は村へ帰した。半端な戦力を持っても混乱するだけだし、僕も大人数を見切れない。


『氷魔法  アイスエッジ』


 ミサトは氷魔法という実体がある魔法を使うため、球状から姿を変え石のような鋭さがある魔法を使うようになった。F級の魔物もE級のゴブリンでさえも一撃で倒す姿はみんなの度肝を抜いているようだ。


「ミサトその魔法すごいねみんな注目してこっち見てるよ」

「ありがとう!!でも、こっちを見てるのはリードくんのせいよ」


 そういわれて再び周囲を見渡す。戦闘している子達はこちらを向いていないが、休憩している子達は僕のほうを見ている。なんでだろうか?


「なんでって、顔に出てるわよ。E級のゴブリン30体、D級のオークが17体、その他もろもろの魔物…C級パーティーだってこんなに成果出ないわよ!!」

「え?師匠がこれぐらい普通だって……」

「いい!!リードくんは知らないかもしれないけど、受付嬢をやっていてわかったことだけどD級のパーティーでD級の魔物と戦うときは1体か2体に限定して戦っているのよ?それを一人でD級の魔物、それも複数体をほいほいと倒せる人なんてそうそういないわよ」

「え、ええ…」


 ミサトとあってからやけに調子がいい。魔力操作はキレを増して前よりも魔法が命中するようになったし、体も前より軽やかになり剣を振り回しやすくなった、と感じる。


 冒険者というのは死を常に感じる職業だ。できるだけ長く続けるのなら危険を減らしたほうがいい。だから、集団に一人で突っ込む形をとるより、一体一体確実に倒す方法を選ぶのは普通のことだ。でもそれだけじゃ、その先にあるのは停滞で一生成長することはないと思う。それをミサトに伝えた。


「そうねぇ、私もそうだと思うけど頑張った分はしっかり休みなさいよ。そうやって無理して表面は大丈夫だけど、詳しく見ると心も体もボロボロっていう人いっぱい見てきたから」

「うん、そうするよ」


 思えば冒険者登録してから休む日を作ってなかったな、と思う。理由のない不安に追われるように力をつけていたが、これを機に少し休んで周りを見たほうがいいのかもしれない。


 そんなことを考えていると後ろからベテランたちがくる。こちらに現れてくる魔物はまだ強くなってきていないがどういうことなんだろうか?


「偵察してきた班が言うには明日の昼らへんにスタンピードの原因とやらが来るらしい。だから俺たちでできるだけ雑魚を減らせって言われててな。お前たちは休んでいいぞ!!」


 ベテラン冒険者の号令で僕たちは解散する。村に戻るときに僕とミサトは見習い冒険者や新人低ランク冒険者に集まられて大変だった。パーティーの誘いや魔法を教えて欲しいなど、強くなりたいという願望は冒険者になりたてなほど熱い。僕は応援もかねて少しみんなに助言をした。


 みんなに頼られて僕は嬉しかったけど、ミサトはなんだか不満顔だ。そりゃそうだろう、ミサトの教えたことはあにめがーまんがでー、とかわけのわからないことを話していたのだから。


「僕のだぞ!!」


 不意に目があったミサトのわけのわからない叫び声が村中に轟いた。

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