第13話 冷たい手の人は心が温かいとよく言うが暖かい手は?


 あれから一か月たち、ミサトは僕の時よりもいろいろな仕事をこなしている。例えば、受付嬢をしたり子供たちに物書きを教えに行ったりしている。正直、受付嬢は限られた人しかなれないものだし、冒険者ギルドに入ったばかりの人間がやれるものじゃないと思っていたけど何やら人気者らしい。その縁から物書きを教える仕事を斡旋してもらっているみたい。


 魔法のほうは初級魔法を早々に習得してしまうと、氷魔法をもうある程度はできるようになっているらしい。ただ、剣術のほうはからっきしで教官が「ありゃ木の棒を持たせた子供のほうが強いな」と言っていた、その割にはなぜか身軽で攻撃を躱すことができるらしく、どうやってアドバイスしていけばわからないらしい。ミサトがいうには「勇者の特権で身体強化をあげてもらっても当人が十全に扱えなかったら意味ないよね~」とあきらめていた。


 僕は魔法剣士D級、狩猟D級と上がった。狩猟というのは町の外で魔物を狩り、その素材を持って帰る人のことを言う。ダンジョンで活躍している人とはまた別の技能や経験が必要で分かれている。


 それからフロックロックを倒した日から妙に体が軽いし、魔力も上がったようなきがする。あと、血の補給に余裕ができた僕はもっと挑戦的なことができるようになった。今はメイドスに2つあるダンジョンのうち一つの初級ダンジョンを攻略するようになった。


 そのおかげで今までの赤字が黒字に代わり、1日平均の収入は銀貨1枚と銅貨3枚になった。お金の関係はミサトにやってもらっている。僕は計算とかよくわかんないし、お金を預けてもミサトはこのお金は何に使うのかを説明しながら貯めてくれているので身近な目標ができてやる気をあげてくれる。


 この前食べにいったレストランは凄く美味しかった。なんでも受付嬢はお金持ちの男性からデートの誘いが多いようで美味しいお店をそこから仕入れることができるらしい。そういう男性と一緒に行かないのかと聞いたら、ミサトは帰ったら推しが迎えてくれる生活があるのに何でどうでもいいやつと食べに行くのかわからない、と言っていた。多分僕のことなんだろうけど、推しって何なんだろうか?冒険者の男陣に聞いてみたけど答えが返ってこなかったところを見ると向こうの言葉なのかな、と思う。


「おお!!リード見てくれ!!俺C級に上がったぞ!!」


 そう言ってギルドカードを見せてくれるトーム。見ると、トーム狂戦士B級嵐C級と書いてあった。嵐というのはいわゆるパーティー名でパーティー行動をしたときどれだけ力になるかが書かれている。狂戦士というのは戦いバカという意味で、敵が来たらなりふり構わず戦闘を仕掛ける人のことをいう。そういう人達でも下位の人は普通に剣士と書いており、狂戦士は危なっかしいが強すぎて手が付けられないというギルドからの文句の意味あいも込められている。


「おお!!すごいね!?」

「だろ!!まぁ、これもどれもアミラのおかげなんだけどな。俺一人じゃ信頼度なんて稼げねぇのわかってたし」

「なるほどねぇ」

「お前はパーティーとか組まないのか?」

「うん、でもミサトと一緒に組む約束してるから」

「おお!!そっか、俺はあの獣人子…ミーニャ?と組むと思ってたわ」

「ミーナね、まぁあの子は情報屋とか孤児院の世話とかで忙しいらしいよ。なんでもこれまで面倒見ていた人が階段でこけて骨折っちゃって半年は安静にしないといけないらしくて」

「ふ~ん、なるほどなぁ。じゃあ、俺はアミラとダンジョン潜る時間だから行くわ」


 こうして颯爽と去っていくトーム。彼が普通じゃないことは承知の上でもその姿はどうしても憧れてしまう。


 最近冒険者ギルドが忙しい。冒険者は忙しくないのだがギルドの事務仕事をしている人達が忙しいのだ。


収穫祭


 それはどの町でもやっていることらしいが、一年に一回小麦を収穫した次の日に行われる祭りのことである。人々は豊穣を祝い神に祈りを捧げる日だ。


 ただ、問題なことが一つある、それが収穫だ。単純な人手不足はもちろん、収穫した後は一番小麦の量が多くなっているため、魔物や野生動物、果てには盗賊などの人間による被害が後を絶たない。そのため、冒険者ギルドでは各村を守るために冒険者を派遣するがここはダンジョン都市だ。ダンジョン都市という都合上名のある冒険者たちはそっちのけでダンジョンに潜るし、メイドスで冒険者になった人間はダンジョン外での戦闘をこなしたことが少ないというものも多い。


 人員の配置予定やそれをまとめる指揮官などの選定で大忙しなのである。ちなみに僕もミサトと収穫祭の警護に参加する予定だ。最近は近場で魔物を見かけやすくなっているし、特別報酬としてその期間に倒した魔物は高値を付けてくれるからだ。


 フロックロックの討伐で剣を燃やし尽くしたせいで、今は予備の武器しかない。それももう限界に近づいているし、ミサトが冒険者になったときの装備も欲しい。お金がないのだ…


 収穫予定日の2日前には冒険者に護衛の強制命令が下される。この強制命令とは名の通り強制命令で逆らうと罰金やランクが下げられるなどの罰則がある。ただ、全員が全員戦えるわけじゃないので例えば日雇いのために登録している11歳の少年なんかは対象外である。例外として熊さんは日雇いの統括として駆り出されていたけど、荷下ろしや収穫の手伝いをするらしく実際に戦うことはない、と言っていた。


 逆にいうと2日前までの護衛は任意である。ただ、僕は護衛のおかげでほかの人が安心できる人がいるため喜んでさせてもらっている。これまでの僕の経験だと襲ってくるのはゴブリンやオークなどのある程度知性があるものかレッサースライムなどのところ構わず食べようとしてくるやつの二つに分けられる。ゴブリンは10体が襲ってきても問題はないがオークが2体以上でかかってくると辛いため、ほかのパーティーと事前に話をして臨時パーティーを作ったり、助けを呼ぶ合図を決めていたりしている。


 収穫祭一か月前に護衛依頼を受けているところは伸び悩んでいるパーティーが多い。順調に行っていたらダンジョンのほうが稼ぎがいいからだ。


 それ以外だと、ギルドの心象を少しでも上げようとする伸び盛りのパーティーやこの地に根付いて活動しているベテランパーティーなどもいる。


 そのため、パーティー外の人を呼んで経験や戦い方を学ぶ場として用いられている。僕も色々学ぶことが多い日々を過ごさせてもらっている。救援の入り方だってその人その人で違った方法をとるし、魔法の使い方が速さ重視でパーティーの起点になる人がいれば大技重視で最後の一撃を入れるためのエース的存在の人もいたりする。中には剣術に優れている人もいて、休憩中に稽古をつけてもらったりした。


 僕が実地訓練の時にお世話になった冒険者パーティーも参加していて、参加理由が教官からほかのチームをまとめる練習をしておけと言われたらしい。冒険者を集めて行動するときの指揮官は冒険者上がりの騎士やまとめられると判断されてギルドから依頼が来た人、そのどちらもいなかった場合、強さランクと信頼度ランクが最上位の人間がなることになる。彼らは人の使い方の練習として参加しているらしい。実際、一人でもまとめ役を買って出てくれると仕事がやりやすいのは事実だ。あ、ちなみにお世話になったパーティーの名前はメイフォームというらしい。




「さぁ!!参加者の諸君!!こちらに集まり給え!!」


 そう言って号令をかけるのは長身痩躯で長い金髪を後ろにくくり、金髪の目をしているキザ男、ヒンメルだ。僕は収穫祭2日前の強制命令によって西の村に派遣されていた。もちろんミサトも一緒だ。なんでもミサトが僕と一緒になるように振り分け担当の人に土下座をしたらしい。振り分け担当の人はミサトを希望のところに行かせるつもりだったのだが、希望を聞く前に土下座されてしまったため、公衆の面前で女の子に土下座させる鬼畜野郎になってしまったと愚痴を言っていた。まぁ、結局ミサトが受付嬢たちにぼこぼこにされていたから誤解は解けたが……


「お!今年はヒンメルか~こりゃ大当たりだな」

「そうだな、あいつに任せりゃ何とかなるか」


 面白そうなことを聞いた。ヒンメルはC級の力がありながら剣で突撃するためD級になっているのではなかったのだろうか?


「あの、ヒンメルさんって当たりなんですか?」

「ん?おお!お前さん収穫祭は初めてか。確かにあいつは剣術はからっきしの癖に剣で突撃かますし、魔法も膨大な魔力を持っているわりには初級魔法以外使えないしでさっぱりだが、人を使うのがうまくてな、たいだいあいつの指示を聞いてたら特に揉めることなく終わるんだわ。」

「ああ、そうだな。んで、盗賊とかの突然の危機がきても死者0人で終わらせることが多いんだ。ほかのリーダーで同じことが起こっても必ず死者は出てくるもんでも犠牲なしに終わらせるから俺たちのなかでヒンメルっていうリーダーは大当たりなんだよ」

「そうそう、伯爵様も人の使い方うまいしその血なのかねぇ」

「違いないねぇ」


 戦闘に関しての信頼はないが指揮能力がある人のようだ。それにしても冒険者にとってこの町を治めている伯爵様は人気があるみたい。


 僕たちはヒンメルの指揮のもと3つのグループに分かれた。一つ目のグループは広域偵察班でこれには町の外で活動している実績がある人とC級やD級上位の強い冒険者が割り振られている。二つ目の班は畑を巡回する班で普段はダンジョンで活動しているD級下位をはじめとする人達が多い。最後の班は魔物駆除班で見習いや見習いが終わって2年目までの人達がいる班で主にレッサースライムなどの弱いが数が多い魔物を駆除するための班だ。


 僕は一応D級上位で町の外で活動しているが見習いから出たてなことを考慮して三つ目の班に配属された。この中では僕が最上位ランクのため僕がリーダーだ。まだ魔物を狩ったことのない子もいるのでその子達とE級冒険者を組ませレッサースライムを狩っていく。本当はE級のゴブリンまで任されることになっているがさすがにそこまで手が届かないので、二つ目の班に任せ、初心者でも狩れるG級やF級の魔物を狩ることを目的として行動している。


「いやぁ、リードくんがリーダーとはねぇ。私、普段と違った雰囲気になったときびっくりしたよ~」


 僕はミサトと組んでレッサースライムを狩ることにした。僕自身教えることが初めてだし、それならいつも話しているミサトが一番やりやすいと思ったからだ。ちなみに雰囲気が変わったと言っていたのは文句を言うE級たちに魔力を開放して脅したからだ。どれだけ魔力に疎くても、吸血鬼特有の魔力量で威圧すれば自分との実力差をわからせることができる。一度わからされたら恐怖心でしばらく反抗的な態度を取れない。僕も師匠にわからされた側だからわかる。


「それじゃ行くわよ!!」


『氷魔法  アイスタイム』(イケボ頑張った)


 なぜか低い声で詠唱したミサトはレッサースライムを氷魔法で氷漬けにする。氷魔法は固有魔法だからわかないけど基本的な魔法の初歩は魔力を放出する系の魔法がいいといわれている。だけど、これはどっちかというと纏わせる魔法だ。氷魔法というのは纏わせることが主体になってくる魔法なのか?


「ぎゃあああああああ!!痛ったい!!」


 3秒もしないうちに氷はひび割れ、脱出したレッサースライムに勢いのまま鋭い突撃が顔面に入った。僕はすかさずレッサースライムを切り捨て後ろに倒れそうになっているミサトの肩を抱く。


「大丈夫?結構いいの入ったと思うけど……」

「あ、はい……大丈夫じゃないです…」


 あまりの急な出来事で混乱しているのか真っ赤な顔で僕のことを見つめてくる。顔が赤くなってるってことは顔をけがしているのかと思い、顔を触診してみたけど外傷はない感じだ。


「あわわわ、だいじょうーーぶ!!さあ!!リードくんさっきはありがとう!!次へ行くわよ!!」


 いきなり立ち上がったミサトに応じて僕も立ち上がる。どうやら怪我は大丈夫らしい。


「リードくん私の魔法全然効かないんだけどどうすればいいかな?」

「う~ん、最初は相手を凍らすんじゃなくて氷の塊を相手に出せばいいんじゃないかな?凍らすのは相手に自分の魔力を均等に厚くする必要があるから相当技術がいるよ」


『火魔法  ファイアーボール』


「こんな感じ」

「おお~!じゃぁしばらく青鳥ごっこは無理かー氷輪〇路線で攻めるしかないのかな~?」


 ミサトはなにやらうんうん唸っている。どうやらミサトは氷魔法に対して明確な系統別のイメージがあるらしくそれを再現しようとしているらしい?


『氷魔法  アイスボール』


 適当なレッサースライムに目をつけてはなった氷の玉は見事に命中しその命を刈り取る。


「やった!やった!ありがとうリードくんのアドバイス通りにやったらうまくいったわ!!」

「よかった、それじゃ魔石を回収して次に行こうか」

「わかったわ」


 ミサトは倒したレッサースライムから魔石を取り出す。その動作に動揺は見られず、冒険者としての適性はあるように見えた。


 それから、収穫祭当日まで僕たちはレッサースライムを狩りながら時折E級の魔物を回してもらい経験を積んでいった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る