第二章 関西人の知らんけどは90%の確信と10%の保険が見え隠れする。

第12話 10代のころはスポーティーな服を着とけば何とかなったが、年齢を重ねると何着ればいいかわからん。


「結婚してくだい」


 いきなりの言葉で混乱する。結婚ってなんだ?家族になることだっけ?夫婦になることだっけ?いや、結婚じゃないかもしれない。血痕!?まさか僕が吸血鬼だというこがばれてる!?いや、そんなことないはずだ、だって僕と女の人は初対面なはず。服からここら辺に住んでいる人はいないはず。いや、万が一もあるか、よし黙らせよう。


「ちょちょ、ちょい待って!!剣をしまってよ!!敵じゃない、敵じゃないから!!ああ…女神様申し訳ございません、せっかく用意させてもらった機会をこんなに早く自分のミスで失ってしまうんですね…でも最期が美少年の膝枕の上でよかった…この前はコンクリートの上だったからなぁ」


 女の人は祈るように膝立ちをし、手を組んでいる。両方ともおかしくなるとどちらかは冷静になるようで僕は正気に戻り剣を下す。


「あの~、本当に大丈夫ですか」


 女の人はしばらく目パチクリさせた後、満遍の笑みを浮かべ返事をする。


「よかった!私、まだ生きていける!!」

「あの~」

「あ、ごめんね。さっきはありがとう!!私は東条美里!こっちでは逆なのか、美里東条!!ミサトってよんで!!」

「ミサトさん…わかった。僕の名前はリード、ここは危険だから安全なところに移動したい。だけど、この魔物の素材も持っていきたいからちょっと待ってくれる?」


 僕は周囲を見渡しながら状況を確認する。どうやらみんな悲鳴に反応していたようで冒険者がここら辺によっていて警戒品がら戦っていたので自分たちの周りに魔物はいない。これなら十分時間をかけても撤退できそうだ。


「フフフッ、それならこのミサトさんにまっかせなさ~い。いけ!!アイテムボックス」


 ミサトがそういうとフロックロックの死体丸ごとどこかに消えていった。師匠が空間魔法の性質を持つ袋、マジックバックなるものがあるらしい。知識では知っていても目の前から巨大な魔物が消えていくと少し不安になる。


「すぐに元に戻せちゃいま~す!!」

「おお!!すげぇ、これがマジックバックってやつか!?」


 無くなったフロックロックの死体が瞬きする間は出てくる。ミサトさんはマジックバックみたいなのを持っていないがどこから出しているのだろうか?


「ちょ!近い、近いって!!ご尊顔が……あわわわあわ」

「あ、ごめん」


 マジックバックの出所を確認したいがために顔を近づけすぎたみたいだ。いや、でも本当に何も持っていないみたいだし、服もここら辺じゃみない格好だからどこかから流れ着いたのだろうか?




 僕たちは東の平原から抜け出し、近くの村にある食堂に腰を落ち着けた。メイドスは周囲の町や国からいっぱい人が集まってくる町なので、近くの村も宿屋や食堂などがあって栄えている場所が多い。


「ねぇ、リードくんは女神様って知ってる?」

「うん、知ってるけど?転生神さまのことだよね、世界に魔王が合わられたとき違う時空の人を勇者としてこちらの世界に送ってくれるっていう…あと、有名どころだと地母神さまもそうか」

「そうそう、それで導き手っていうのは?」

「導き手?なんのこと?」

「ムムム…」


 一体何が言いたいのだろうか?ミサトさんは巡礼者かなにかでこっちに布教活動しに来た人?でも、メイドスにはちゃんと教会が立っているしわざわざ巡礼としてこなくてもいいような気がする。


「じゃ、じゃあ夢の中でアドバイスをくれる女の人は?」

「!?いいやぁ聞いたことないかなぁ、そんな人いるの?」

「もう!!じゃあ思い切って行っちゃいます!!リードくんてその…半分吸血鬼だよね…?」

「!?」


 思わず椅子から立ち上がる。夢でアドバイスする女の人って言ってびっくりしたけど、吸血鬼じゃなくて半吸血鬼という質問は確実に僕のことをすべて知っている人間の質問だ。


「まって!!まって!!敵じゃないから落ち着いて話をしよ!!」

「なんでそれを知っているの?」


 僕は立ち上がったまま答える。食堂だから剣こそ抜いていないがいつでも戦える準備をしていた。もしや、僕のことを追いかけてきた研究者か?それともその国の騎士か?


「ここはみんなの目があるから出たところで話しましょ!?」

「…………わかった。」


 僕たちは食堂を出て裏路地を歩く。僕は彼女の一挙手一投足を見逃さない。どこからどう見ても騎士などの戦闘経験を積んだ人の動きに見えない、裏を返すと僕には想像もつかないほどの達人が素人の真似をしているようにも見える。そもそも、女の子が裏路地にきてなにも警戒していないこと自体おかしいのだ、普通の女性なら子供のころから裏路地や暗い場所には近づかないほうがいいと教えられているはずなのに。


「この辺でいっかって待ってって!!敵じゃないから~」


 目的地についたのだろうか、彼女は立ち止まる。僕は剣を抜き全方位に敵が隠れ潜んでいないか警戒する。僕が剣を抜くと再び泣きそうな顔で懇願してくるがそれすら演技だと思い警戒はとかない。


「あのね、わたしがなんで半分吸血鬼ってことを知っているかというのを話すとね。実は私勇者なの…」

「勇者?」

「そうそう、リードくんもさっき言ったと思うけど女神様、つまり転生神からリードくんのことを教えてもらったの。リードくんは導き手って呼ばれる勇者の補助役として私が用意したからーって」

「信じられないな」


 たとえ彼女の言っていることが本当だとしてもそれを証明できるものを何も持っていない。勇者ならば唯一魔王を傷つけられるという性質と魔王以外のものを傷つけられないという性質がある剣を持っているはずだ。マジックバックに入れているかもしれないが、マジックバックごと盗まれてしまったどうしようもないため、そんな貴重な剣をマジックバックにしまっているはずがない。


「勇者っていうのなら、勇者の剣っていうのを持っているはずだ」

「ああ、あれね!!なんだぁ、それで証明できるんだったら最初にいってよ~。女神様全然話違うじゃん」


『エクスカリバー!!』


 彼女が突然出した剣に驚く。形は普通の剣となんら変わりがないが白く光っている。光っているだけなら光魔法や師匠のような幻影魔法で作るのは簡単だが、魔力の反応がない。師匠の元で修行していたからわかる。あの人最後には20人になって襲ってきたし…


「行くよー!!そっれ!!」


 彼女が剣を薙ぐ。普通なら周囲にあった建物に阻まれるはずだが壁をすり抜けている。しまいには近くにいたネズミを切りつけたが剣はあっさり通り抜け、ネズミを傷つけることはなかった。


「どうよこの剣!証明できたでしょ?」

「あ、ああ。わかったよ、最後にその剣持たせてくれない?」

「いいわよ!どうぞ!」


 ミサトが剣を僕に渡すと剣は消滅してしまった。勇者以外は持てないようになっているのだろうか?信用してもいいと思った。


「わわ、消えちゃった…ごめんリードくんこれ私しか持てないみたい」

「じゃあ、僕を切り付けてくれる?」


 さっきのはたまたまで本当は魔法使っていたのかもしれないし、自分の肌で感じたら確信を持てる。偽物の師匠は魔法でできているし、偽物の師匠と僕を重ねた状態で攻撃してくることもあって、見るより触れるほうが魔法を感じやすくなっている。


「ええ!?ほんとにいいの…?」

「いいよ。さあ、早く」


 僕は左腕を差し出す。ミサトが剣を再召喚させ、恐る恐る僕の腕に剣を刺す。しかし、剣は僕の手に傷をつけることなく見事にすり抜けていった。


「おお、すげぇ!本当に傷つけられないんだ!!魔力も感じないしどうなってるんだ!?」

「ほんとにね~、私もやってみよ……痛い!!普通に切れるんですけど……ハッ!!私って勇者でありながら魔王って……コト!?」


 ミサトが自分の手に剣を刺すとそこから血が噴き出てくる。僕は持っていたバックに入っている包帯を巻き治療する。いや、でも勇者でありながら魔王ってあり得るのか?


ピカーン


 薄暗い裏路地に突如、天から光が差してくる。


『勇者ミサトよ元気ですか?私です。』

「ハッ!!その声は女神様!?あの、私の剣欠陥品なんですけど!!」

『その剣はこの世界に存在しているものを切らず、この世界の理から離れたものを切る剣だといいましたよね?あなた聞いてなかったでしょ』

「いやぁ、だって…かわいい系の男の子を用意してくれるっていうから…」

『いいですか!私がせっかく手塩にかけて育ててきたリードくんをあげたんですからちゃんとしてくれないと困ります!!』

「……はい、すみませんでした」


 差した光が引っ込み路地裏に再び暗闇が広がる。え?今の女神様なの?しかも僕のこと手塩にかけてきたってどこまで知っている?


「…………とのことらしいです」

「とのことらしいですか」

「はい」


 いや、まぁ、あれだけよくわからない現象が起きたら信じるしかないか。


「と、とりあえず信じることにするよ…あんなの見せられちゃったし、警戒しちゃってごめん」

「まぁ、しょうがないわよ…リードくんの事情だと、おいそれと話せないから…」

「女神様?がなにか言ってたけど僕のことどれだけ知ってるの?」

「えーっと、ある村に生まれて、元冒険者の両親のもと狩りや農業をして過ごす。その後、戦争に巻き込まれて家族を失い、実験場へ。半分吸血鬼になって女神様の助言から南に向かって今はメイドスでD級冒険者として働いているって感じ」

「おお!!すごいや実験前のことはほとんど記憶にないから覚えてないけどあってるや」


 僕たちはとりあえずメイドスに向かうことになった。お互い吸血鬼のこと、勇者のことを伏せて将来はパーティーを組んで冒険者として暮らしていくことになった。お互い秘密を抱えていて、それがなんなのかわかっているという関係性は心地がいい。秘密を隠して無理にパーティーに入る必要がないことはいいことだと思う。


「ミサトは平原で魔物を全部入れてたけどマジックバックとか持ってるの?」

「ふふーん!これはアイテムボックスっていうチートスキルの一つなのだ!!」

「チートスキル?なにそれ?」

「まぁ、要するに勇者に与えられた特権の一つってこと。アイテムボックスは出し入れ自由な大きい倉庫を持っているとおもってもらってもいいわ。しかも、その倉庫時間経過がないから熱々のお茶が次の日も熱々のまま飲めるのよ!!」


 それはすごい、マジックバックの中は時間が経過する。これは空間魔法じゃなくて時間魔法の領域だからだ。それに、時間魔法なんて昔の勇者物語や魔王の幹部、四天王が持っていたと残っているだけだ。空間魔法は人間こそ持っていないがダンジョンは空間魔法を使っているらしいし、師匠のように似たような空間を利用する魔法も存在する。それを参考に作られたらしい。


「おお!!それはすげぇ!!ねぇ、お金とか女神様からいっぱい貰った?」

「一円…じゃなかった、銅貨1枚もくれなかったわ!!そこはリードくんや自分でなんとかしろ、ってな感じで。あ、宿止めてください、なんでもしますから。私一銅貨無しなんです…」

「ええ…まあ、いいけど」

「ほんと!?やった」


 お金はくれないのか…なんでもあげすぎちゃうと成長しなくなるからかな?宿に関しては問題ない師匠が一か月多く払ってくれた二人部屋があるから。


「あとは何があるの?そのチートスキルってやつ」

「えーとぉ、一つは鑑定ね、これはその人の名前と種族と階位がわかるわ。それと、氷魔法ね、本当は氷を使った魔法を出せるはずなんだけど…なんでか使えないわ。あとは、言語理解ね、私のいた世界の言葉とこっちの世界の言葉は全然違うからすぐに会話できるようになってるわ」

「便利なものばかりだね」

「そうね、身体能力が上がっているはずなんだけどねぇ。いまいち実感がわかないねわぇ」


 流石は勇者だけあって神様からいろいろもらっているみたいだ。氷魔法なんて固有魔法だけど師匠の幻影魔法より使いやすそうだし。鑑定で階位がわかるということは見ただけで相手の強さがわかるという優れものだ。それだけ優遇しなければ魔王を倒すことが難しいのだろう。


「これからどうするの?」

「どうするってリードくんとパーティーを組んで冒険者をするわ!!なんか魔王は現れる兆候があるだけですぐに現れるわけではないらしいし。それに、お互い秘密を知っていたほうが組みやすくない?リードくん一生ソロでいる気だったらしいけどやっぱりしんどくない?」

「た、確かにそうだけど……」


 僕の秘密を考えると一人で冒険者をする必要があったけど、一人だと索敵から荷物運びまで一人でやらないといけないため苦労することが多い。秘密を共有している仲間がいると戦闘中に神経質にならなくて済むし、色々やりやすくなると思う。


「だけど?」

「冒険者になるまでに半年かかるんだけど……」

「わかったわ!半年ね、何とか力をつけるから……捨てないでください…」

「う、うん……わかったよ」




 僕たちはメイドスに戻り、少し町を見回ってから冒険者ギルドの中に入った。


「ほ~ここが冒険者ギルドか!!ねぇねぇリードくんあれなに?」


 ミサトはこちらのものが珍しいのかこうやって色々な事を聞いてくる。中にはミサトの故郷にも似たようなものがあったりして、なんでこうなっているのかとかを説明してくれるので僕も楽しい。


「待ちたまえそこの少年少女よ、私の名前はヒンメル。見たところ冒険者になりたそうだな?平民、それも子供が遊び半分で来てはいけない世界だ。さあ、回れ右して帰り給え。」


 男の人が話しかけてくる。その人は僕よりも身長が頭2つ分抜けていて長身痩躯という言葉が似あうような優男だった。金色の長い髪を後ろで縛り、金色の目をしておりどことなく高貴さが感じられる。


「よくあるのだよ、自分の力を過信しすぎて亡くなってしまうルーキーたちを見ると私もいたたまれなくてね。ああ、私はどうだったのか?もちろん持ち前の剣術で敵をバッサバッサ切り倒してきていたよ。フフッ」


 少なくともこの辺にいた冒険者じゃなさそうだ。近くにいた知り合いの冒険者に聞いてみる。


「あの人は?」

「ああん?あいつはこの冒険者ギルドの中でも有名なやつさ、リードは知らなかったらしいがな。あいつの本名はヒンメル・M・ロージスタ、メイドスとその周辺を納めてらっしゃる伯爵様の三男坊さ。なんでも英雄に憧れて家飛び出して冒険者になったんだと。あいつ普通にC級、下手したらB級クラスの実力があるのになぜか下手くそな剣で戦ってるし魔法も初級魔法しか使えねぇってんでD級から上がらねぇんだ。」

「なるほど、抵抗しても不敬罪とかで捕まったりしない?」

「ならねぇよ、伯爵様はそんな懐のちいせぇお方じゃねぇしあいつもその血を引いてやがる。」

「そっかありがと」


 わざわざ伯爵の血筋を捨ててまで冒険者に夢があるのだろうか?僕たちはヒンメルを無視してミサトの冒険者登録をするため受付に行く。


「リードくんここでいいんだよね?」

「うんそうだよ」

「じゃ、ほいドーン!!」


 そういってミサトはフロックロック丸ごとアイテムボックスから取り出して受付カウンターの机を埋めた。


「ちょちょ、ちょっと、そっちじゃないから!?一回しまって!」

「え?なに?違うの?」


 どうやらミサトは買い取りと一緒にやってもらうと勘違いしていたらしい。恥ずかしくなって二人で周囲を見渡すと何やらざわついているようだ。それはそうだろう、さっきまで冒険者ギルドのどれも知らなかった女性が何もないところからいきなりC級の魔物の死体をよこしてきたのだから。


「え、えっと……魔物の素材買い取りはあっちですが…」

「あ、ご丁寧にどうも~」


 この場から去ろうとしているミサトの腕をつかみ、強引に冒険者ギルド登録をしたいと話す。ここは百戦錬磨の受付嬢、どれだけ大物が来ても態度を変えず淡々とこなしていった。なお、師匠は例外の模様。


「ほー、これがギルドカードか~。あ、私G級って書いてあるわ!」

「見習い期間はみんなG級なんだよ、そこから実績事にF級、E級、D級に振り分けられるみたい。」

「リードは何級?」

「僕はD級になったばかりだよ」

「に3階級特進…す、すごいじゃない!?私も頑張らないと!!」


 ミサトは早く追いつけるように僕と同じD級を狙っているようだ。自分のために頑張ってくれてる人がいるのは初めてだったので嬉しい。


 フロックロックは銀貨5枚で売れた。昔は銀貨5枚はもはや無限じゃないかって思うほど遠かったがここメイドスの町では銀貨5枚で宿一日分なんてところもあるし、ここに家を持つには金貨10枚でやっと現実的な数字と呼ばれるぐらい物の価値は高い。


 僕たちは宿に戻り一息をつく。ミサトは水が流れるトイレがあると知るとかれこれ1時間は見続けていたが飽きたのか僕の隣のベッドに腰を下ろした。


「あのさ、ずっと思ってたんだけど右手けがしているよね?」

「……!?」


 ずっとさりげなく隠していたつもりだったが、気づかれていたみたいだ。


「剣を持ってたのは右手だったけど手を差し出すときはいっつも左手だったし…それ戦闘でのけがだよね」

「そうだね」

「ごめんね、私のせいで」

「ミサトのせいじゃないさ、僕が未熟だったかついた傷だ。それにほら、治ってきてるし」


 僕は右手の状況を改めて確認する。右手のけがを隠すということは自分自身が右手のけがを意識してしまってはその意識が行動に出るため封じていたのだ。右手は一部焼けただれていて、それが腕にまで登っていた。所々綺麗な場所があり、その辺は吸血鬼の能力で治り始めているところで、自分で思うほど治っているみたいだ。


「うわわ、痛そう。ねぇ、その傷ポーションとかで治らないの?」

「僕は体質上ポーションとか回復魔法とかでは治りずらくて、いっぱいご飯を食べたほうが回復しやすいんだ」


 試したことはないけど魔物の場合、ポーションや回復魔法では傷を回復しない、大半は圧倒的自然回復能力によって傷を治す。これは師匠が言っていたから本当のことだと思う。僕がポーションや回復魔法で治るということは人間の血が残っている証拠なのだろう。


「………じゃあさ、私の血吸う?」


 そういってミサトは服をはだけさせ、うなじから肩まで露出させる。その姿は昼間の溌剌さが消え、どこか艶やかな印象を受ける。僕が吸血鬼だからだろうか?どうしても無防備なその姿に魅了され吸血衝動を抑えきれなくなっている。


「ほんとにいいの?」

「いいのもなにも私はリードくんに助けられてから何も返せてないわ。これぐらいどうってことないわ」


 傷が深いせいもあるのだろうか、見ているだけで無性に引き付けられるその態勢に僕は抗うことができない。


カプッ


「ん……あっ……んん」


 時々切なそうに声を上げるミサトに興奮を覚えつつ血を吸い上げる。血と同時に魔力も吸っているようで勇者特有の魔力は美味しく感じる。人間の血が美味しいなんて感じる僕はやっぱり人間をやめてしまっていると実感する。




 一方のミサトはすごいことになっていた。リードの容姿はどちらかというと中世よりで女の子に近い。そんな子の見せる男らしさと獣性は情緒を破壊するのに十分な要素だった。

 

 また、吸血鬼というものが悪かった。彼らの吸血は人間に快楽を与える。これは魔力が豊富でも肉体が弱いがゆえに人間を襲って吸血することが簡単にはできない、だから快楽を与えることで自主的に逃げられない工夫をするのだ。当然半分吸血鬼のリードはその機能を備えているわけで……


 血と同時に何かが吸われていく感覚がわかる。血を吸っているリードの顔を見ると母親が自分の子に母乳を与えているよな母性と男として女を独占したいという独占欲を感じられて頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。


 リードの口が離れ吸血が終わる。リードの右腕を見ると完全に治っているようでこれ以上する必要がないからやめたのだと察することができた。


 ミサトはその態勢のままベッドに倒れこんだ。服は乱れ、うなじには吸血した跡が残っている。あまりの恥ずかしさから両腕で目を隠し。


「病みつきになりそう……もっと好きになっちゃう……」





夜はまだ続く






あとがき

「私がよくダンジョンにもぐっているときはな、持ち前のパワーで.....」


「なぁ、ヒンメル」


「なにかね?」


「話長すぎて新人たちギルドから出てったけど」


「........」

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