第11話 家に帰って電気がついてると少しホッとする。一人暮らしなのに。
「今日もお願いできるかい?」
「わかった任せてよ」
D級冒険者になった僕はダンジョンに潜らず街近くの森で魔物と戦うことを選んだ。ダンジョンの魔物の大半は肉体が消えてしまい、魔石しか残らないからだ。これでは血が吸えないので、肉体が残るダンジョンの外で活動している。冒険者の大半はダンジョンに潜るため町の外に行くことをしないので依頼料が上がっているという事情もある。
「リードさんこれなんてどう?西の村付近でゴブリンの巣が出来たんだって。数は10体ぐらい」
「ありがとう、じゃあこれにしようかな」
僕は年下の男の子に銅貨1枚を渡す。冒険者は文字が読めないので依頼をするときは代わりに読んでくれる人を探す。この男の子は商人の息子で人を見る目を養うこととおこづかいを稼ぎに来ている。
もちろん冒険者も馬鹿ばかりじゃないから慣れていくうちに文字をある程度読めると必要がなくなる。だけど、文字を読める冒険者もよく頼む。大体はこの子たちの親に興味があるらしく、子供が自分の親にこんな冒険者がいたと報告することを願ってのことだと師匠は言っていた。
大した後ろ盾のない冒険者はひたすら顔を売り信用を稼いでいかないといつ釘を打たれるかわからないからだそうだ。
「これお願いします。」
「かしこまりました。ギルドカードをお渡し下さい。」
僕はギルドカードと依頼証を渡す。別に依頼を受ける必要もなく魔石など買い取ってくれるけどこうして行動を宣言したうえで完璧にこなせることを証明するために行われているらしい。
僕は受付を終わるとすぐに列から離れる。受付嬢は魔法使い達で魔物を倒す仕事以外の魔法を使う仕事がない時はこうして働いている。出来立てのパーティーなんかは即戦力のために受付嬢を誘うことがあるがよほどのことがある限り入ることはない。だけど、一縷の望みを賭けて勧誘する。それで列が解消できず、イライラした列の後ろにいる人からボコボコにされる。これが冒険者ギルドならでは朝の日課だ。あ、あいつボコボコにされてる、実地訓練でいたやつじゃね?
僕はゴブリンの巣の近くに隠れている。ゴブリンは単体ではF級の魔物だけど群れているとE級、巣を作るとD級下位に位置している。師匠がいうには一番D級が多くてなり立ては下位、ある程度成長すると上位になるっていっていた。下位かどうかは信頼度がD級になっているどうかで判断されるらしい。ちなみに僕はE級だ。
D級以上になるには階位を上げないといけない。トーム達がC級に上がったのを見ると僕も負けていられないなって思う。
周りに誰もいないことを確認する。ゴブリンが10体ちょうどにいることを確認してから、そのうち離れている一体を背後から襲う。
『火魔法 ファイアーボール』
四体固まっているところにファイアーボールを放ち、火だるまにさせた。残りの6体がこちらに気づいて襲ってくるので一体目の喉元を斬り、二体目の目を突き刺す。
『血相魔法 血の糸』
魔法で作った糸の罠に引っかけて三体のゴブリンの首を吊るす。剣を引き抜いた後最後の一体を斬りつけて討伐が完了した。
「ん、んん、うぇ、う…ぱぁ、まずい」
ゴブリンの血をすする。うーん、これまでもたくさん魔物の血を吸ってきたけどやっぱりまずいんだよなぁ。生臭いし泥の味がするし、なんか酸っぱい味がしたときは毒をすすったのかと勘違いした。
僕は赤いマントで口を拭く。赤いマントは師匠の案で血を隠すことが出来るし、血の糸ぐらいなら、糸に魔力を注いで操る暗殺者もいるそうなので師匠に教わったことにすれば言い訳が効くらしい。それはそれでどうかと思うが。
あと、マントはフード付きだ、なんでも師匠は人にフード付きの服を進めるのが趣味なそうでプレゼントされた。こっちが本音だと思うのは僕だけだろうか?
ゴブリンから魔石を取り出して死体は魔法で燃やす。使えるものもないし、血が抜かれているのが見つかったらおかしいって思う人が出るかもしれない。
「依頼完了しました。これ魔石10個分です。あとで場所も確認してください。」
「おお、お早いですね、ありがとうございました。」
吸血鬼の僕としては血抜きをしても怪しまれないし、血がまだましな動物系の方が依頼を受けるにはいいんだけど、ゴブリンはこうやって村の人から感謝されるからよく受けている。僕が吸血鬼でもこの世界にいていいんだという安心感があるからだ。
僕は師匠と暮らしていた宿に戻ってきた。もう師匠はいないが師匠が間違えて一ヶ月分多く代金を払っていたのでそのまま使わせてもらうことになった。ちなみにシャワーはなかったけど水で流れていくトイレはあった。すごかった。
この宿の代金は食事つきで一日銀貨1枚。銅貨一枚が一日分の小麦が買えるぐらいで銅貨が10枚集まると銀貨1枚になる。ちなみにゴブリンの魔石は大体二体で銅貨1枚として取引されている。今回は10体だったので銅貨は5枚、赤字である。
僕はベッドに入り考える。あの研究所を抜けて半年がたった。あの時は雪解けで少し寒かったけど今ではマントが邪魔になるほど暑くなってきた。僕はこの生活が辛くはあるが楽しい。これからも同じような日々が続いて行けばいいなと思う。
僕は久しぶりに夢を見ている。
ここはどこだろうか?テーブルの上には豪華な料理が並んでいる。
「今日は二人の誕生日祝いだからいつもよりママ頑張っちゃいましたー!!正確にはちょっと違うけどおんなじ季節だしまとめてやっちゃうわ。」
「やったー!」
どうやら僕と弟の誕生日祝いだったようだ。おとうさんも席についていて祝いの言葉を述べてくれる。
家族と一緒に食べるご飯は暖かい。ずっとここにいたいって思う。でも、ここにはもう戻れないって…。
楽しい時間はもう終わり、夢からさめて生きる準備をしよう。明日はきっといいことがあると信じて。
『今まで大変でしたね。あなたの頑張ったおかげで私も必要なくなってしまいました。私から最後の願いです。明日は東の平原に行ってみてください。今まで私の話をきいてくれてありがとうございました。』
目が覚める。女の人は最後だといっていたけど何があるのだろうか。今の僕の暮らしができているのはあの人のおかげなので今回もしたがってみようと思う。
行動する前に大事なことはまず情報収集だ。僕は情報が欲しいときはミーナに話を聞きにいく。ミーナは明るい性格で冒険者や町の人に良く顔が利く。今は冒険者の傍ら情報屋をしているみたいだ。
「ミーナ、聞きたいことがあるんだけど」
「ん?リードどうしたのにゃ?メイドスD級のにゃーに知らないものなどにゃいのにゃ!!」
ギルドカードに町の名前があるのは情報屋の証だ。初めて来た商人などは相場や名物、町にいる商人への顔つなぎのために利用する。中にはマフィアなんかの暗い組織につなぎを持っている人がいるらしく同じ階級でも当たりはずれがあるらしい。
「東にある平原の状況についてかな」
「なんだそんなことかー、銅貨1枚でいいにゃ。まいどー。じゃあ説明するにゃ。東の平原は時期によって強い魔物が出現する場所にゃ。今の東の平原はフロックロックっていう魔物の大量発生期だにゃ。ランクとしてはC級。リードが三人いればなんとかなるにゃ。」
「フロックロックのことを詳しく聞きたいんだけど」
「でかいカエルってだけにゃ。全体を石で覆われているから倒すのに相当力がいるらしいにゃ。体当たりと長い舌を使って攻撃するらしいにゃ。味は鶏肉っぽい淡泊?な味らしいにゃ」
「ありがとう」
僕はミーナにお礼と銅貨を渡し東の平原に行く。討伐依頼が出ていそうなものだけど僕は確実に倒せそうな相手じゃないし控えておく。無理に格上を相手にする必要もないだろう。
僕は遠目からフロックロックを観察する。僕より三人分は大きいカエルで表面がごつごつしている。草原を見渡す限りではばらばらに10体ほどいてそのうち数体は冒険者と戦闘になっているようだ。
冒険者たちはC級の魔物が現れる場所を狩場としているだけあり、その誰もが人知を超えている強さを持っている。階位が上がっていない人はそれでこそ前線に出る必要がない魔法使いぐらいだろう。その魔法使いたちも強力な魔法を派手に放っているが。
しばらく冒険者たちの様子を見る。敵がどんなパターンで攻撃を行っているか、ベテランの冒険者たちはどのように戦っているかはとても参考になると教えてもらった。戦いにおいて大事なのは事前準備だと師匠が言っていたことがここでわかる。パーティーはあらかじめ行動を話し合い勝つための動作を決めておくそうだ。いざ戦闘になってとっさのひらめきで戦いに勝つなんてことは無理で一度体制が崩れてしまうとなかなか立て直しが利かなくなってしまうらしい。
「あ、ども。随分大きいから体してますねー。もしかしてあなたが導き手さんですか?きゃああああああ!!でっかいカエルじゃあああああん!!女神様のばああああか!!」
戦闘音しかなかった平原に突然女の人の悲鳴が聞こえてくる。少なくともそっち側には冒険者はいなかったはずだ。見ると黒くて高そうな服を着た女の人がフロックロックに追いかけられていた。助けに行く冒険者はいない。少しでもそちらに意識が持っていかれると不利になる可能性があるからだ。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…私が悪かったです~。かわいい男の子とあまあまラブラブ生活したいって望んだ私が悪かったから誰か助けて~!!」
あ、こけた。どうやら腰を抜かしてしまったみたい。いやこけたじゃなくて助けに行かないと。
「ぎゃ、チートはチートはどうなってるのよ!!アイスボール!ブリザード!ふぶき!ぜったいれいど!!アイスタイム!…くそぉ、氷〇丸!!って出ないじゃない!!」
僕は女の人とフロックロックの間に入る。フロックロックは舌を出して僕を捕食しようとしてくる。それをジャンプで躱し、剣を抜いて一撃を食らわせる。
体が岩でできているのは本当のようで剣が腕ごとはじき返された。すかさず体当たりをしてくる。僕は何回か転び地面に倒れ伏す。
『火魔法 ファイアーボール』
僕とフロックロックに間があいてしまうと女の人を守れなくなってしまう。注意を引くためにファイアーボールを放ちながら立ち上がる。
僕から出た火の玉はフロックロックに当たるがびくともしない。僕は足の関節なら固くないとふんでそこに剣を突き立てる。わずかに刺さった感覚があったが、舌の攻撃で体ごと払われる。
「ちょっと大丈夫!?バーカバーカ!!美人ショタっ子は国の宝なんだぞー!!」
女の人が心配して声をかけてくれる。自分も腰が引けて動けないのに注意を引いてくれる。情けない、さっきまでの動きを見る限り女の人は戦いをしたことがない素人ということは明らかなのに今は僕がかばわれている。
それがどうしても情けなく見えて、自分が小さくなるのを感じる。
(変わろうか?)
うるさい、黙れ、吸血鬼が。これは僕の戦いだ、これ以上逃げてしまったら僕は僕でなくなる。もう、未熟なされるがままの僕じゃない。一人前の人、リードとして僕は生きていくんだ。
師匠を思いだす。フードを深く被る。無理やり口を大きく開け笑う。
何が守るための力だ。今ここで信条さえ貫き通せない人間に一生成長なんてものはない。大きく深呼吸をし、相手を睨みつける。
想像しろ理想の自分を、超えろ今の自分を…魔法はイメージ次第で変わるつまり、理想の自分をイメージすればするほど魔法は答えてくれる。
右腕に魔力を込める。石を貫けるほどの火力、火力、火力…………
『火魔法 薪』
選択したのは薪。右腕いっぱいにためた魔力は僕を焼き尽くすほどの炎をまとう。それはやがて剣先まで延び、剣すらも燃やす。
大地を蹴って敵との距離を詰める。まだ奴の注意は向こうへ向いているので近づくまでは簡単だった。距離が縮まってくるとこちらに気づいてご自慢の舌で足元を薙ぎ払っていくがその場で跳ねて躱す。
狙うは足の関節、さっき剣が刺さったところがにもう一回剣を差し込む。
「燃やせ、燃やせ、燃やせ、燃やせ、燃え尽きろ!!」
剣を伝って炎がフロックロックの中に入っていく。僕はありったけの魔力を注ぎ火力を高めていく。奴の悲鳴が聞こえる。どうやら効いているようだ。
フロックロックの体がふらっと揺れる。僕はそのすきを見逃さず関節に差し込んだ剣を抜き、体をよじ登って目に剣を突き刺す。目はどんな生物でも弱点だ。目の奥には脳があるし骨で守られることもない。そこに剣を突き刺し、炎を注ぐ。相手を弱らせるか惑わせて急所を突く。それは僕の中で一撃必殺と呼べる、お決まりのパターンだった。
敵もバカではない。自分が死にそうになっていて抵抗しない奴なんていないのだ。フロックロックは必死に僕を振り払おうと体を揺らす。だけど、それは間違いだ。揺らせば揺らすだけ体力を使うし体も不安定になる。倒れてしまったらもう立てない。
地面に倒れ伏せたフロックロックはやがて抵抗をしなくなり、完全に沈黙した。僕は完全に息を引き取ったことを確認してから死体から飛び降り、まだ腰が引けてうまく立てない女の人に近寄る。
女の人は黒い髪に黒い目をしていて僕より少し年上で理知的な雰囲気を感じさせる美人だ。見たことのないような黒い服をきていて、草原を歩くことさえ向いていないような靴を半脱ぎにさせている。服には擦った跡や切った跡はあったものの命に別状はなさそうだ。
「大丈夫でしたか?立てますか?」
僕はフードを脱ぎ左手を差し出す。女の人は両手で僕の手をガシッ!と掴み…ん?
「結婚してください!!」
今日も空は青い。
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