第10話 雨にも負ける、風にも負ける、冬にも夏の暑さにも負ける。日本、異常気象。
僕はS級冒険者のゼノンの弟子になったみたい。ゼノンは始めに僕がやっていた解体業や荷運び、居酒屋での仕事を辞めるようにギルドと交渉した。交渉に当たっていたギルドの人はあまりの圧でビビりまくっていたが。
「なんでこんなことしたの?」
「ん?ああ、見習いの下働きをすべて辞めさせたことですか?それは単純ですねぇ。だってあなた、やりたくなかったんでしょう?変わりたかったんでしょう?なら、その情熱を持っているうちにやった方がいいですからねぇ。あの腐り続けたままあと3ヶ月やりたいですか?過ぎたころには熱も冷めていますよ」
そういってゼノンは笑う。僕はゼノンについて行き、森の中に入った。途中でレッサースライムを見たからこの辺は弱い魔物が住んでいるみたいだ。
「この辺でいいですかねぇ、ちょっと魔力を開放するので身構えてくださいよ」
ブワッと、ゼノンから膨大な魔力が周囲に放出される。レッサースライムを始めとする魔物たちは一斉にゼノンから離れていった。膨大な魔力は魔物にとって、いや全生物にとって脅威だ、僕も尻もちをついてしばらく震えていた。
「ああ、スミマセンねぇ。魔物にちょっかいを出されると教えるのに手間ですからねぇ。かと言ってギルドで修行を付けているとよく有象無象共に絡まれるから邪魔なんですよねぇ。どうですか?第8
「本当にこんなところまでなれるんですか?」
「なれますよ、あなたの輝きはこの程度では終わりはしませんけどねぇ」
ゼノンはあった時から僕のことを素晴らしい輝きという。それがどんな意味か分からないけど第8階位に到達した人間ならば僕とゼノンの見ている景色が違うのだろうか。
「ではまず、あなたにとって力とは魔法とは何ですか?なんでもいいですよ、かっこいいとか憧れるとか」
僕にとって力とは何だろうか?夢の中であった両親は守るための力といっていた。だけど今の僕は人を守ることに力を振るっているのか。じゃあ、魔法とは何なんだろうか?彼が使っていたから僕も使えると思っていただけで別に何も思うことがなかったのかもしれない。
「んん、大体の人は自分の力の意味を、魔法を便利な物としか認識していないのです。はぁ、だから上に上がれないんですよ。いいですか、自分の芯を持ってないと成長なんてできないですよ。どうですか、何か思いつきましたか?」
「僕の両親が力は誰かを守るために使えって言ってた。でも、今の僕は守るために力を使っているのかわからなくて」
「それはいい両親でしたね。いいんですよ、君はまだ未熟だ。そういうのは自分を守れるようになってからで」
僕は半分吸血鬼だしまだ自分のことでいっぱいでほかのことに目を向けられていると思ってない。そんな状態の僕が誰かを守ることができるだろうか。きっと、焦って、失敗して、そのまま野垂死ぬことになるかもしれない。
「僕は火魔法が使えるだけど魔法とは何かとかよくわかんない…」
「うーん、そうですか。私が見てきた子たちは特殊な魔法を使っていましたからねぇ。私の魔法を見せましょうか」
『幻影魔法 夢想』
ゼノンから魔力が溢れです。僕の目の前に唐突に現れたドラゴン。僕の数10倍は大きく赤い、数千本にも及ぶ無数の歯は恐怖を掻き立てこちらを見る目は捕食する対象としとして品定めしているようだ。
僕は背中から体制を崩し、尻餅をつく。さっきまでいたドラゴンがパッと霧散していった。
「とまぁ、こんな感じで私の魔法は固有魔法と呼ばれるものの一つで幻影魔法です。自分のイメージしたものを幻として出現させることのできる魔法です」
「す、すごい」
「幻影魔法は膨大な魔力量と緻密な魔力操作で完成できるものです。私も最初は苦労しましたよ。そこらへんにある石でさえマネできませんでしたからね。自分の見たことのないものとか想像するだけで難しかったですねぇ」
「私の魔法は他の魔法よりイメージを重要な魔法です。ですからいつも想像するのです。今の自分より次の自分は理想の自分に近づいているように。まあ、一言でいえばまだ見ぬ自分へ一歩踏み出す勇気の魔法…ですかね」
「僕もそれにするよ、いいかな?」
「もちろんいいですよ。ただ最後に自分にとっての魔法を確立してくださいね。じゃあ、今から戦闘訓練始めますか、剣を抜いてください」
ゼノンはそう言って、ん?なんか三人になってないか。三人になったゼノンが同時に切り付けてくる。
「まずは回避と防御の練習です。できれば回避してください。当たらなければどんな攻撃もどうということはなくなりますからね」
右左、正面後ろ。あらゆる方向から刃が向かってくる。実際に剣を持っている本体は一人なので傷は一つしかつかない。
「それと並行して相手の魔力を読み取る訓練もしましょう。二つの攻撃は囮ですので私の魔力を読み取ってください。魔力を読めるようになればどれだけの威力がある魔法というのがわかりますからね」
そうはいってもそんなすぐにできるわけでもなく、切り傷を増やしていく。しまいには吸血鬼特有の自然治癒能力が働いてしまった。
「ん?傷が回復してませんか?光魔法も使えます?いや、これはそういうものじゃないですね、体が元に戻ってきているような。どっちかいうと吸血鬼?」
図星をつかれて肩が上がる。ばれたら殺されるかもしれない。そう思うと、だんだん足の感覚がなくなっていく。
自分より圧倒的な経験値を持つ人相手にとってつけたような嘘はすぐ見破られると思い意を決する。
「あの、実は…」
僕はこれまでのことを全部話す。流石にS級冒険者から無事で逃げることなんてできない。頑張って説得したほうが生存率は上がると思う。
「うーん、なるほど。人体実験で半分吸血鬼になった、ですか。北から来たということは帝国ですかね?怪しいと思っていましたがここまで落ちぶれているのですか。後で伯爵に伝えておきましょう」
情報の整理をしているのか、何やらぶつぶつと独り言を呟いているゼノン。僕を襲っていないということは許されたのだろうか。不安そうにゼノンを見ていると視線に気付いていたのかこちらに笑いかけた。
「半吸血鬼?面白いじゃないですか。それも含めて君の個性だ。将来、仲間と一緒に冒険するときがあるでしょう、半吸血鬼を許容できるような良い仲間を見つけなさい」
そういって笑いかけるゼノンに何か救われた気がする。
「半分吸血鬼で切り傷ぐらいならすぐに治るのであればもっとつらくしてよいですかね?では、もっと難しくしていきましょうかねぇ!!」
「いきなり五人!?ちょ、ちょっと待って!!」
あれから死ぬほどしごかれました。まあ、僕頭刎ねられただけでは死ねないんですけどね…。ゼノ…んん!!師匠に優遇してもらっていい宿に泊めてもらえたと思えば、吸血鬼の能力は夜のほうが使えるのか、とかで真夜中に起こされて戦闘訓練させられるし。血を操る魔法が使えるはずだと教えたとたんじゃあその魔法を使ってここまで帰ってください、といって崖から落とされるし…
『血相魔法 血糸』
僕は自分の血を周囲に散らし石を集め一つずつ積んでいく。師匠曰く、自分の手足それ以上に動かせないといざというときに咄嗟に動かせなくなるかだそうだ。でも、師匠、僕の積んだ石蹴るのやめてくれません?
「ん?蹴るのを止めて欲しいですか?しょうがないですねぇ、それじゃあ私と戦いながら積むことにしますか」
「そういうことをいってるわけじゃないんだけど…」
「敬語、崩れていますよ。いくら粗野で野蛮な集まりである冒険者でも丁寧かどうかは結構見られますからね。リード君も居酒屋で体験したはずですが。」
正直あそこのことを思い出したくもない。本当に酷かったからなぁ。自分より強い給仕には何も言わないどころかへりくだっている連中だったし。
「わかっ…わかりました…」
うちの師匠は厳しいがしっかりと訓練を始める前になぜこうするのかをしっかり言ってくれる。だからどんなに辛くても意識して訓練すると成長したと感じられることが多い。
「あの、師匠質問なんですけど…」
「んん?なんですか?今に疑問を持つことはいいことですなんでも言ってください」
「師匠は剣をもっているのに教えてはくれないんですか?」
「ああ、実際に見たほうがいいですね。ちょっとついてきてください」
僕は師匠について森の中に入る。師匠はゴブリンの群れを見つけ指をさした後、魔力をゴブリンに自分の魔力をまとわせる。
『幻影魔法 停止』
しばらくしてから師匠がゴブリンたちに近寄っていく。魔物ならこの場合襲ってくるはずだが一切その様子が見られない。師匠はそのままゴブリンの首に剣をさして殺していく。ゴブリンたちはさも当然のように剣に刺され絶命を許容していく。
「このように幻を見せて動けなくなったところを刺していくだけで殺せてしまうので剣を重視することがなかったですからねぇ。多少使えるには使えますが、どこかの流派の免許皆伝ほど教えられる技量があるかといえばそうではないので教えられないんですよねぇ。変な教え方をして変な癖がついてしまってはよくないですからねぇ」
剣術を鍛える必要がないという規格外の答えだった。そりゃぁ、相手が何もしない状態に持っていける人が必死に剣術を学ぶ必要はないのか。
「まぁ、人間には理性があるので掛かりづらいですがねぇ、冒険者の相手はほとんど魔物で人間は人間でドラゴンを出せば逃げていきますからねぇ」
これが世界最高峰の魔法使いなのか、半吸血鬼の僕が言えることでもないが師匠を正真正銘の化け物だと思った。
「おや、ぼっとしないで訓練の続きをしますよ。あと2か月で独り立ちですからね一瞬たりとも気が抜けない。次の訓練はほらあそこにいるゴブリンにしましょう。奴らは子供程度の悪知恵が働くので倒すのは厄介ですよぉ」
「はい、師匠頑張ります!!」
こうして気が付いたら見習い冒険者の期間は過ぎていき、僕は正式な冒険者となったのであった。
「あの、見習い冒険者のリードです。半年の見習い期間を過ぎたのでギルドカードの更新に来ました」
「ああ、はいお話は聞いていますよ。どうぞこちらがあなたの新しいギルドカードです。見習いの時に使っていたカードをこちらに回収させてください」
こうして僕はF級と書かれた見習い用のギルドカードを渡し、正式なギルドカードを受け取った。これまで雑用や師匠との訓練などで、常に誰かに見守られていたので、なんだか一人前になったような気がして嬉しく感じる。
僕は改めてギルドカードを眺めてみていると
リード 魔法剣士 D級 信頼度E級
となっていた。
「あの、これおかしくありませんか?」
「いいえ、それであっていますよ。さすがゼノンさんの弟子ですね。見習いからD級なんて私も初めて見ました」
僕は急いで師匠の元へ駆け出した。絶対、あの人が原因だろう。
「師匠!!どうなってるんですか!!」
「んん?ああ。実は2か月前に倒させたゴブリンあれD級昇格試験だったのですよ、私言ってなかったですか?」
「言ってね…言ってませんよ!!」
「まぁ、何より、おめでとうございます。君は立派になりましたね。これからは私の補助なしで頑張りなさい。私はこの町から離れますが時々様子を見に来ますから楽しみにしていますよ」
「は、はい!!今までありがとうございました!!」
あれだけ厳しく接していた師匠が僕を認めてくれたことが何より嬉しかった。まだ、積んだ石を蹴る訓練だけは許せていないけど…
S級冒険者ゼノンとの出会いは僕のこれからの人生においてかけがえのないものになるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます