第8話 どうしても外せない用事があるって言葉ちょっとできる人っぽくない?
トームとアミラはあと二ヶ月で見習い期間が終わるからと言って宿探しに奔走している。ダンジョン都市メイドスでは人の行き来が多く、宿の数も多い。冒険者になって初めての仕事は自分にあった宿屋を見つけることだと解体のおっさんが言っていた。
「おう、リード!!シャワーって知ってっか?」
トームはこうして止まった宿屋であったことを話してくれる。前回は勝手に水が流れるトイレ、その前は街灯が部屋にあって部屋が夜でも明るかったとか。どうやら魔道具らしい。
「知らない。今回も魔道具?」
「おう!!赤と青の窪みに魔石を入れると頭の上からお湯が出てきていつでも体を洗えんだぜ!!それがめちゃめちゃスッキリするんだわ!!」
それは凄い。体を毎日洗えるなんて天国ではないだろうか。バッとアミラを見る。
アミラの親はこの街で鍛冶屋をしており、この街のことならだいたい知っている。
「あ、ああ。シャワーという魔道具があるのは知っていたがこれ程までとは思わなかったな。金持や貴族じゃ風呂の魔道具を作って毎日入っているらしいぞ」
「うおおおおおお!!すげぇ!!なぁアミラ、俺たちも使えんのかなぁ!!」
「この都市を治めている伯爵様はかなりのやり手だからな商業連のトップや各国の王族、貴族がくるらしくてな、彼らをおもてなしする為に高級宿がある。そういうところにあると聞いた」
想像より上の話でびっくりした。毎日風呂に入る?天国は金で買えるのか?
「商業連ってのは?」
「ああ!山育ちのリードは知らねぇか。商業連合国、金で国を買った商会の国だな!俺のおやじも今そこで働いているらしい」
く、国を金で買う。1日1食の僕にはなんとも遠い話だ。
話ながら冒険者ギルドに入る。見習い冒険者は昼前に訓練する人と昼後に訓練する人に分けられる。荷運びやお店の準備などの日雇い労働をしている人とギルドで雑用労働している人との違いだ。
「おお、リード!!お前明日外で訓練するから必要そうな物持ってこい!!」
教官が新人達に話しかけている。
「外で訓練ってなにするのかな?」
「実地訓練生といって3ヶ月に1回見習い冒険者はベテランに見てもらいながら魔物を倒す経験を積ませるんだ」
「あれかー、あんまり面白くなかったからなぁ」
「小さい頃から戦ってるお前にはつまんなかっただろうな。いいか、リード。人はなんの準備もなく生物をころせるような心を持っていない。中には殺せなくて体が動かず死んでいくってやつがいっぱいいる。この訓練は自分を見つめ直す訓練でもある。そこのバカはともかく大切な訓練だ、しっかり受けるんだぞ」
僕はあそこから逃げ出した時を思い出した。僕自身が殺したわけではなかったが人を殺めたその人は辛くて眠れなかった。
アミラのいうとおり、生き物を殺すというのは冒険者とって必用な儀式なのかもしれない。
「何か必要なものってあるかな?」
「あのバカは剣以外持っていなかったがなんとかなってたな。訓練は野宿をしながら2日間に渡る。だから、水や食料を自主的に持ってたほうがいいな」
「ありがとう、そうするよ」
「おーい!!昨日声かけられた冒険者はこっちへ集まってくれ!!」
僕たちを始めとする見習い冒険者たちは声をかけられて集まっていく。武器だけを持っている人、カバンに何か入れて用意してきた人、いやあのカバンでかすぎじゃね?あ、魔法訓練の時の猫人さんもいた。
「にゃ!!おみゃえ!!魔法訓練の時の生意気なやつ!!」
「あ、こんにちはあの時の猫人さん。僕の名前はリード。よろしくね」
「よろしくじゃにゃいにゃ!!あの時は見下した目で見やがって!!あと、ミャーはミーニャにゃ!!」
「ええ…ミーニャ、そんなつもりはなかったんだけど。」
「ミーニャじゃにゃくてミーニャにゃ!!」
「ミ、ミーニャ?」
「違う!!ミーニャにゃ!!」
うるさいぞミーナといって教官は後ろから猫人さんの首を掴む。ミーナなのか…わかんないわ。
「ぶにゃ!?ちょっと教官!!にゃーの身体には金貨100もの価値があるにゃ!!気安く触ると金とるにゃよ!!」
「なーにが金貨100枚だ。お前孤児院出身じゃねーか」
ミーナは教官の方へ意識が向いたようだ。飛び火しないように今のうちに少し離れておく。
「よーし、全員集まったな!!今日から二日間、町の外に出てもらって実践を行う。まあ、相手するのは君たちと同じF級の弱い魔物だし、俺たちD級のパーティーが面倒見るから死ぬことはないと思うが用心しとけ」
「なあ、おっさん!!」
今回の訓練の主導は教官じゃなくてD級のパーティーがやるみたいだ。剣しかもっていない冒険者見習いの人がD級パーティーの人に食い掛っている。おっさんといってくるけどあんまり歳変わんなさそうだけど?
「なんだい?」
「2日間なんて聞いてないから剣しかもって来てねえんだけど。飯はどうするんだ?」
「それは現地調達になるよね。水ぐらいなら面倒みてあげるけど食料ぐらい何とかしてね」
「はぁ!?んなこと知らねえんだけど!!」
「知らない?君がもし悪魔たちがいる場所に勝手に入って、知らなかったって言って許されると思うのかい?」
「そ、それは」
「そういうところだよ。いいかい?冒険者っていうのは知らなければ騙される。知っていたら生き残る。厳しい世界だ」
それを聞いてハッとする。前にも騙され続けて家を買えなかった人の話を聞いた。冒険者の大体は一人だ。だから足元をすくわれないように慎重に行動しなければいけないだろう。
「他質問がある人はいるか?いないみたいだから出発するぞ!!」
僕たちは馬車に乗って町を出て草原につく。周りを見ると緑色の丸い魔物が大量にいて、草を懸命に食べている。ただ、問題なのは小麦畑の近くにこいつらがいるってところだ。今は草原の方に生えている草を食べているがこのままだと雑草を食べつくしたこいつらが小麦を食べ始めるかもしれない。
「こいつらはレッサースライムだ。見ての通り草花を食べて成長する魔物の中では珍しい種類であるがこいつらは増えすぎると小麦を狙い始める。こいつらはそんなに強くなくて攻撃しようとするまで呑気に草を食っている連中だ。見習い冒険者を卒業したらしばらくはこいつらを狩って生活するやつも多いだろう。今回はこいつらと戦ってもらう」
今回のD級パーティーのリーダーさんがここまで言うとほとんどの見習い冒険者の人達は一斉に散っていった。まだ説明終わってないんじゃ…。
「はぁ、まだ説明終わってないんだが。じゃあ俺たちも解散で、俺は残った人らに説明を終わらせるからそっちで対応しといて」
リーダーさんの号令でパーティー達は散っていく。どうやら予想していたようで各々に散っていく。
「残った人に追加で説明するが基本的に逃げるが反撃しないこともないし、頭に当たれば死ぬから気を付けろよ。倒したやつは魔石だけ抜いてここにあつめるように。んじゃ解散!!」
残っていた見習い達も解散していく。僕も少し離れたところで一匹だけ離れてているやつに目をつけて剣を抜く。
緑の丸い体はわかりやすい弱点がない。僕は真ん中を突き刺す。中から緑の液体が漏れて少ししぼんだ。僕は吸血鬼だけど緑の血を見て美味しそうに感じない。実地訓練中に血を補給できるかなと思ったけど難しそうだ。
初めて魔物を倒した安心感と達成感でしばらくその場に座って周りを見る。
一番多く魔物が集まっているところに剣だけ持っている子が突撃していった。あ、ぼこぼこにされてる。どうやら個としては弱いけど集団になったら反撃してくるみたい。
倒した魔物を切って魔石を回収した後、次の獲物に目を向ける。さっき見た感じだと1匹ずつ相手にしていけば余裕で狩れるはずだ。はぐれているやつを狙い狩っていく、
「にゃああああああああ!!」
10匹倒したところで叫んでいるミーナを見つけた。さっきぼこぼこにされていた群れに突撃したのだろうか8匹のレッサースライムに囲まれて攻撃を受けている。そこはさすが猫人族、レッサースライムの攻撃を身体能力だけで躱していく。
「あ!!リード!!ちょっと見てないで早く助けるにゃ!!」
見つかってしまったのでそばに駆け寄って剣を握る。ミーナは短剣装備なのでリーチの長い僕がスライムたちを引き付け横からミーナが持ち前の身体能力を生かしてどんどん倒していく。
最初は8匹だったが回りから集まってもう倍の数は倒しているだろう。
「グルゥ!」
血の匂いに引き寄せられてきたのか狼が3匹襲ってきた。僕はミーナに目配せて合図するとミーナも目を合わせてきた。どうやら二人ならやれると判断したらしい。
最初に襲ってきた狼に剣を横払いしてひるませる。するとミーナが短剣で胴体を切りつけて倒す。
2匹目は大きく口を開け噛みついてきた。剣を噛ませている間にミーナがその喉元に剣を突き刺ししとめる。
3匹目も噛みついてくるが後ろに下がった後、左足で蹴りを入れてひるませ、無防備になった体に剣を刺す。
「リード!!大成功だにゃ!!」
ミーナと僕はその場でハイタッチを交わす。
「大丈夫でしたか?」
杖を持ったD級パーティーの女の子が話しかけてくる。杖には素人が見てわかるほど魔力が貯められており、助けようとしてくれていたのがわかる。
「これぐらい余裕だったにゃ!こんなに狩ったらお金ににゃるよにゃ?」
「この狼は解体所に持っていけばお金になるけどスライムの方は来てないからあんまりお金にならないんじゃないかな?」
「ええー!!そんにゃぁ...」
そういいながら狼の血抜きを始める。ミーナはそういう知識が無いようなのでスライムの方を頼んだ。
「このスライムはねー、バカほど草を食べるくせに体に変換しないから美味しくないんだよねぇ。生の草食べてたほうが美味しいっておかしいよねぇ」
「くそスライムにゃこいつ」
ニコニコ笑いながら魔法使いの人が手伝ってくれる気付けばもうお昼時をだいぶん過ぎているようでおなかが空いてきた。
「にゃあ、この狼くえるかにゃ?お腹減ってきたにゃ」
「そうだねぇ、美味しくはないけど不味くもないかな?」
確かに解体所に来る魔物は皮や体毛以外にも食用として売られていくところを見ている。
「リード、こいつ一匹調理してもいいかにゃ?」
「いいけど、料理できるの?」
「任せるにゃ!!リードは燃えるものを持ってきてほしいにゃ」
僕は言われた通りに準備をし始める。時間が余ったので狼を解体し、焼きやすいようにセットしていく。ミーナはフライパンと調味料を出し、肉に味付けを始める。
『初級魔法 火種』
僕が火をともすとフライパンに油をひき、狼の肉を焼き始める。料理をしない僕でもわかるほど火の力が足りないことがわかる。
「火の勢いが足りないのにゃ、リードは火魔法で火力を上げられないかにゃ?」
僕はしばらく考えてから自分の中にある薪をイメージする。魔力を手に集め発動しようとする。
『火魔法 薪』
「にゃ!!リードそれファイアーボールにゃ。火を飛ばしたら焼けないにゃ」
言われてハッとする。これまで模擬戦では火魔法は飛ばすものだったからその位置に固定するというものが難しい。魔力を放つイメージが悪いのだろう。だから僕は火を手にまとわせるようにすればいいと考えた。
『火魔法 薪』
僕の手の周りから炎が燃え盛る。どうやら成功したようだ。だけど、ちょっと手が焼けているようで熱い。
「にゃ!これでいいにゃ。しっかし、その手は大丈夫かにゃ?」
ミーナが心配してくれたように手が少し火傷しているがここは吸血鬼の出番だ。ばれないように治していく。吸血鬼の力を使いたくはないが久しぶりの肉、まとまった食事を食べらる機会、逃すわけにはいかない。
いい感じの焦げ目が出てきたのでいざ実食!!噛むと溢れ出る肉汁に確かにある弾力、大味で美味しくは感じないけど久しぶりに食べた肉は特別感がある。まともな食事なんて兵士の血が最後だったもんなぁ。む?この話はやめよう、思考が吸血鬼によって来てしまう。
「久しぶりに肉食べたけどやっぱ美味いにゃ~。幸せだにゃ~」
それからも、息のあった僕たちは次々と魔物を狩っていき、大量の肉と魔石を手に入れた。ミーナと半分こにしたけど解体作業をやるよりかは稼げたし経験も積めたいい訓練になったと思う。ふふ…お金、お金はすべてを解決する。
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