第一章 なんで取ったかわからない写真、削除した後に必要なことになる

第4話 老後は町を掃除する人になりたいが、今はやりたくない

 家の扉が開く。そこには、燃えるような赤い髪に赤い目。筋骨隆々とまではいかないががっしりと鍛え上げられた身体。高い鼻は顔の堀を深くさせ、ワイルドな顔立ちをより印象付けさせる。


 彼は僕の父だ。もう記憶にはないけれど、夢の中でなら会える。


 父は僕に軽くハグをすると幼い弟を抱えキスをする。そうすると、父の後ろから父と同い年の女性と二回り年を取った女性が現れる。


 僕の母と祖母だ。母は光が反射するほどきれいな金の髪を持ち、太陽のように煌めく金色の目。二人の子供を産んだとは思えないほどのプロポーションを持ち、顔は優しげでどこか儚さを覚える。村一番の美人であり、結婚しているにも関わらず狙っている人が多いそうだ。

祖母も母と同じ、金色の髪、金色の目を持ち、昔は美人で通っていたような面影がある。


「○○が弟の世話をしてくれているから、助かっているわ」


 母はそう言い父と同じように、ハグとキスをする。


 父と母は冒険者としてタッグを組んでおり、そこから恋に発展して結婚したという。僕が生まれる前には母の父、つまり、祖父が亡くなった知らせを受けて子育てと祖母の面倒を見るために母の実家に帰ってきた。


 母の実家がある村。僕の故郷では町から遠いが決して貧しくはなく、むしろ豊であり、周りの治安もよい。いつ命を落とすかもわからない、給金も安定しない冒険者という職業よりも村で農家として働いていたほうが子供にはよく、父も農家の家であっため、移り住むことに快諾。両親は母の祖父母から農地を受け継ぎ農業をしながら村近くに出現する弱い魔物を狩り、僕と弟を育ててくれた。


 僕が10歳になったころ祖母の足腰が弱くなり、僕が農業と狩りの手伝いをするというと、両親はしばらく考えた後、それを承諾し僕にすべてを教えてくれた。


 父は両手剣を振るう剣士で母は魔法を使って戦う魔法使いと呼ばれる役割だったらしく、父が前衛で母と僕が後衛で狩りのやり方を教えてくれた。狩りは圧倒的で道や村付近に出てくる弱い魔物なんかは相手にもならずその圧倒的な力にあこがれた。聞けば二人は一つ

階位レベルが上がっているらしい。


 僕が12歳になり、弟が10歳になると弟も農業や狩りの手伝いをはじめ、空いている時間は父に教わった剣と母に教わった魔法を弟と一緒に訓練した。


 長男である僕は実家の畑を継がないといけないし、畑を継げない弟はそれを知ってか知らずか15歳になったら冒険者として独り立ちすることを宣言していた。両親はそれを応援しており体の成長に合わせた訓練をつけてくれた。


 父は剣を教える前に僕たち二人に力の在り方を説いた。


「剣という力は人を助長させる。強くなっていくうえで他人に対して傲慢…まあ、威張った態度をとったり見下したりする。強い者がその力を振るい弱い者を虐げる場面を冒険者になると嫌でも目に入る。だが、一方で力は守るためにも使うことができる。お父さんは前に出て剣を振るうことで後ろにいる家族を守れることができるし、魔物を倒すと村の平和に貢献できる。だから、力に飲まれないようにしなさい。俺みたいに誰かを守るため力を振るってくれるとお父さんは嬉しい」


 母は魔法を教える前に父と同じように魔法との付き合い方を説いた。


「魔法ってのはね、簡単に人を殺すことができるの。力のない女の子でも魔法を十分に使いこなせれば、多少鍛えただけの男なんて瞬きする間もなく殺すことができる。でもね、例えば光魔法なんかは他人の傷を治すことができるし、水魔法は水がないところでも飲み水を出せる。土魔法は畑を耕したり、道や堀だって作れちゃう。私は魔法を使って魔物を殺すことを仕事にしたけれど、町に行ったら魔法使いは戦わない人のほうが多いわ。

 なんでだと思う?それはね人を殺すことが怖いからよ。もし、自分がむかついて魔法を相手に放ってしまったら、相手は死んでしまうかもしれない。魔法を放つのは一瞬で人を殺すのも一瞬なの。だから、たいていの魔法使いは冒険者にならない。

もし、冒険者になって魔法を使うのなら常に冷静を心掛けなさい。本当に魔法を放っていい相手なのか、周りの状況は?平原なのか森なのかダンジョンの中なのか?どの魔法を放つのが最善か?どんな威力が良いか?常に考えて動きなさい」


両親はさらに付け加えた。


「本当にどうしようもなくなって自分じゃ何とかできなくなったら私たちを頼りなさい。自分でいうのもなんだが俺たちは冒険者でそこそこ名が通ってるし大体のことは解決できるから。お前たちはやりたいことをやりなさい」

 

 そうして僕と弟を抱きしめてくれた。本当に暖かい両親だったしやりたいことをやらせてくれた。弟との模擬線戦で森を燃やしてしまったときは水魔法で消化してくれたし、勝手に狩りに出かけたときは叱りながらも怪我を手当してくれた。父には自分の身長に併せた剣を買うためにテンポスの町へ連れて行ってくれたし、罠のかけ方や薬草の見つけ方など狩りに関する知識を教えてもらった。


 だけど、ここはどう頑張っても夢でしかなく、夢から覚めてしまうえばほとんど記憶に残らない。たとえ夢の中だけの温もりを感じることが出来るだけ僕は幸せ者だと思う。あの地獄ではもう二度とその温もりを感じることが出来ず死んでいった子がたくさんいる。


 だから僕は前を進んでいく、僕は前を向けて進む二度と進むことのできない人達のために。




『そのいきですよ、私の導き手リード。さあ、目的地はもうすぐです。じきに町の高い壁が見えるでしょう。その町で生活しなさい』





 僕は起き上がって、周囲の確認をする。日が昇り始めて暗かった空が徐々に薄い青に変わっていく。僕はあの夢のことを考える。


 南を目指す以外の言葉を初めて聞いた。町は魔物が出ない地域に建てられる場合が多く、町のための壁は人より少し高いぐらいのところが多いらしい。高い壁がたっているということは王都のような重要なとろかダンジョンがある町だけになっている。


夢の中で話しかけてくる女性は城壁が見えてくるといっていた。あたりを見渡しても整備されており平らになっている道、小さな川、森など村らしきもの建物などは見当たらない。まだ当分先だと感じられる。まあ、ずっと南へ行った挙句、世界の淵に落とされるよりはましだろう。


ふと、懐の中にある重みを感じる。彼が兵士から頂戴した金だ。僕は当然ほとんど記憶が残っていないため金の使い方なんてわからないし、使えるかどうかもわからない。


 赤褐色の丸いやつがいっぱい入っている。これは思い出せる銅貨という奴だろう。ほかにも白色のような丸いもの(多分銀貨)が5個…あ!!金貨ってやつが一つある!!すげえ!!金貨っていうのは何でもできるって父親が仕切りに言っていたので覚えている。


 まあ、価値は詳しくはわからないけど、これでしばらく町暮らしはできそうだ。なんせ金貨がある。金貨はすべてを解決するっていってたし。


 改めて持ち物を確認する。金貨、ナイフ、兵士が持っていた中で一番軽い剣、携帯食料は3日分ありそうだ。少ないは少ないが今までで一番物が豊富だ。


 金があるからわざわざ盗む必要がなくなったことが大きい。他人の家に入っていろいろ探すのは危険なことだし、その場で調理できないから小麦とか盗んでも食べられない。唯一食べられるものは堅パンや干し肉、干した野菜などでそれはもう固い。普段ならお湯に溶かして食べるようなものを悲しいかな、こちらは水の確保さえ不十分な僕は仕方なくそのまま食べるしかない。


 頑張って食べようにも歯が通らない。歯が通らないとふやかすしかないので口に含んでみるがふやける前に顎が疲れ始めてくる。それを何回も繰り返しているとやっとふやけてくるのでそれを食べる。もちろん味なんてないし、ふやけたといっても表面だけで第一陣、第二陣と戦いは続くのだ。つらい。





 こんな状況から解放させると思うと嬉しさで涙が出るね。自然と歩くスピードも上がっている。というか、吸血鬼の特徴なのか兵士の血を吸ってから体の調子がいい。それどころかいつもより速い速度で歩けている気がする。先ほどから道の周りが田畑になっているため、村が近いだろう


 しばらくすると村が見えてきた。その村は村にしては大きいと思う。村の周りには広大な田畑があたり一面に広がっており、その村の豊かさを表している。自分が育った村の記憶さえ曖昧な僕には何とも評価が分かれるところだ。


「これと食料を交換して欲しい」


 僕は近く村の近くにいた人に銅貨二枚を見せながら話しかけた。


「うん?ああ、嬢ちゃん帝国から来た冒険者さんかい?いいよ。これからパンを焼くところだったしこの村案内してやる。服作ってるやつもいるからそこで服も買うといい」

 

 銅貨を見せると帝国から来た冒険者と勘違いしたらしい。あの国は帝国と呼ばれていたようだ。


僕は自分の服を改めて見る。自分の血でところどころ赤く染みている。冒険者という職業がなかったら僕は見た目が犯罪者だったな。


「帝国からの冒険者ってよく来る?」

「ああ、これまでもちょくちょく来てたんだが、二年前帝国が戦争に勝ったことで一気に増えたな」

「なんで?勝ったのに?」


 「え?嬢ちゃん帝国から来たのに知らねえのか?勝ったはいいがその国、ダーリア王国だっけかが元々そんな金持ってなかったのよ。そのおかげで、金分捕れなくてなあ。帝国さんのお貴族様も戦ってことで結構無理したみたいだがあんまり金が貰えなかったんだとよ」


「へー」


「それで、お貴族様はあれに荒れてな、治安が悪化しちまって人さらいは増えるわ、盗賊は増えるわってこの辺は嬢ちゃんも知ってっか」


 なるほど、向こうの兵士が人さらいに手をかけていたのもそのことが原因だったわけか。でも一つ気になることがある。僕そんなに女の子に見えるかな?


「へえ、ありがと。でも、僕男なんだけど」

「えっ!!あ、すまん。体が細かったからついな、もっと食べろよ!!ほら、出来立てのパンだ」


 そういって男はバケットにふんだんに入れたパンを渡してきた。僕はそのバケットと銅貨二枚を交換するように差し出した。


「こんなに貰っていいの?」

「ああ、この辺の村は冒険者にはサービスしてるんだ。知ってると思うが、近くにダンジョン都市メイドスってでっけえ町があってな、その町の冒険者が俺たちのお得意さまってわけよ。んで、メイドスを目指す冒険者ってのはみんなお得意様候補ってなわけ」


 ダンジョン都市メイドス。多分この町が僕の目指すべき町なのだろうとわかる。大きい町でダンジョンがあるということは当然壁がある。それも大きな。


「メイドスには壁はある?」


「おお、でっけえ壁があるぞ。ここは国境も近いし戦(いくさ)になったら避難するためと、ダンジョンの漏れを抑えるためにな」


「おお、どれぐらい高い?」

「ん~~、まあ、俺が五人いればやっとって感じだな。ついたぜ、服屋。俺はこれからやらないといけないことがあるからな。頑張れよ少年」

「うん、ありがとー!」


 こうして、服屋さんで新しい服を買い一番安い宿屋に泊まった。少し財布は軽くなったけど久しぶりに温かい食事にありつけた。正直、あまりにも嬉しすぎて泣いてしまった。泣いてるとき店主がほかのお客さんに何か言っていたようで、みんなから生暖かい目で見られてしまった。恥ずかしい。


 宿屋の店主に聞くとメイドスはここから半日ぐらいで着くらしい。 だから、明日にはメイドスに付ける予想だ。


 僕は雨風をしのげ、魔物と人間の襲撃がない安心感からベッドに入った途端寝てしまった。

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