第2話 世間の狭さは四畳半

先日のほろ酔い気分とは一変し、

私は至極冷静に目を覚ました。

夢うつつと言うわけもなく、欠伸をひとつ漏らし、

天井をぼんやりと眺めた。

数年前、大人達には認められず、

唯一受かった水道会社の子会社。うだつが上がらぬ毎日に

うんざりだと言う権利すら、私には無いのだろう。

心が沈みきる前に、身支度を済まして家を出た。

いつもこんな感じだ。

今日は事前に仕事内容が伝えられていて、

寮から出てすぐ、ある団地へ向かうことになっていた。

まあ事務的な物だし、

1日も掛けることはないと高を括っていたが、

案外そんなことは無く、定時ギリギリまで掛かってしまった。

私は、最後の一件に指先を向けた。

 ピンポーン

「斉藤さんいらっしゃいますか?」

ドアの掠れる音が聞こえるのと同時に、

朧気な昨日の記憶をゆっくり辿っていた。

ああそうか、おでん屋の時の。

彼女は数秒眉間にシワを寄せ、ゆっくりと顔を上げた。

驚く程の澄まし顔。

私は彼女が昨日のことを今は無しにしたいのだと、

自分の都合の良いいように解釈し、面倒事を減らすため、

私もただの業者を演じた。

ひとしきり作業も終わり、私はそそくさと帰ろうとしたが、

裾の辺りを引っ張られているのに気付いた。

おそらく彼女は、なにも言えない息苦しかったのだろう。

私に向かって、

「仕事終わったら、一緒に飲みませんか?」

と真っ直ぐ言ってきた。

なんの因果があって…だとか言おうとも思ったが、

同世代の、それも美人な女性と酒を御一緒できるのだ、

棚からぼたもちだろう。そういって軽く返事をし、

会社へ戻って指を急かした。

今思えば、何故あんなに

気楽に返事をしてしまったんだろうか。

あんなことになるとも知らずに。

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