酒飲み女と冴えない男

桜丸

第1話 出逢いチックな何か

「じゃあ割り勘で。」

いつものように幹事役になっていることに、

憤りすら感じなくなってしまった。

周りの奴らは神でも仏でも無いのに、

暗に触らぬことを強要されている。

いっそこのまま、会社など辞めてしまおうとは思ったが、

根暗な私には、愚痴やらタラレバやらを聞いてくれるような、

優良な友人はいないため捌け口すらないのだった。

そんなことを考えていると、

少しずつ上司が寄ってくるのが見えた。

私は次の店が決まっている様な上司共の目線を華麗に逸らし、

どこからともなくやって来たおでん屋の方へ足先を向けた。

中に入ると、アラサーくらいの気の強そうな女性が、

私の方へは目もくれず牛すじを頬張っていた。

私はそれとなく会釈をしながら、暖簾に右頬を掠めた。

酒は回りきっていた為、

味の薄そうなのをいくつか頼み、足を置いた。

彼女は食べ終わってようやく気付いたのか、

軽い会釈を見せた。

私は酒が回っていたのもってか、

らしくもなく彼女に話しかけた。

「お名前聞いてもよろしいですか」

「…由美ゆみです、斉藤由美さいとうゆみ

あまりに淡白なので驚いたが、

逆に闘志みたいなものが燃え上がったんだろうか、

私はもう少し踏み込んで聞くことにした。

「何されてるんですか?」

「…ナンパでもしてんですか」

ぬかった。おそらく淡白というよりは、

話しかけられたく無いんだろう。

私は話しかけるのを躊躇い結局5分程、

大根を少しずつ口に運んだ。

しかし私とて、それで終わるような男ではない。

息を飲み込み、彼女に目を向けた。

しかし彼女は、串を四方にばら撒き、

豪快に寝姿を晒していた。

傍若無人というかなんと言うか、

少々マイペースな女性だななんて思っていた。

そんな彼女に対して、店主は面倒そうに彼女へ目線を向けた。

店主は何も言わなかったが、

私は癖でつい、彼女を帰らせると口に出してしまった。

私はこれまでの人生を恨んだが、

可憐な女性と無条件で付き添えるのだ。

対価としては安すぎると、自分に言い聞かせ足を運んだ。

とりあえず起きる気配もないため、

ネットカフェまで行き、フロントで目が覚めるのを待った。

彼女は目を覚まし、私の顔を見た。

酔って覚えてないらしく、少し怖がっていたが、

すぐに態度を変え、堂々と振る舞うようになった。

私は元気そうな彼女を見て、事情を事細かに話した。

彼女は小さく、

「ありがとうございます」

と言い、お礼をしたいのでとLINEも交換することが出来た。

私は最後に軽い会釈をし、帰路に着いた。

帰ってからは、今日のことを振り返りながら、

これから恋が始まるのだろうかと、

自意識過剰なため息をついて、今日を終えた。

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