第3話 幼馴染令嬢はアイテムボックスで金策する
アイテムボックス、その存在だけで無双しちゃう小説もあるくらいの有名チートアイテムだ。
この世界ではなんと一人一つのアイテムボックスが存在する。なんだろうね、亜空間? っていうのかそういう場所にものをしまい込めるのだ。
ゲーム中に荷物を運ぶ描写はない。登場人物はいつでも手ぶらだ。そのくせ、必要な場面ではフワッと手に剣を持っていたり杖を持っていたりするのだ。
戦闘中にいたっては一瞬で武器や防具の装備変更まで可能なのだ。つまりそういう機能が実装されちゃっているのだ。
これに気付いたのは今から二年前、スザンヌ9歳の時。
正直ドン引きしたよ。しかも、私の親戚の三歳の子供で実験したら私以外の人間にもアイテムボックスがあって収納可能っていうことが分かっちゃった。
「あいてぃむぼっくしゅ」くらいの発音でも開いちゃったのだ。あ、目視は出来ないからここに箱があると思ってとかいっておままごと風にして親戚の子のアイテムボックスを開かせて石を一個この世界から亜空間に消しただけだから、多分その子は何も覚えてないと思う。
追加で実験しないと絶対とは言えないけどこの世界にいる人間(あ、エルフとか獣人とかの亜人って呼ばれる人もいるけど彼らもだと思う)は全てアイテムボックスが使えるんだと思う。
誰も「アイテムボックス」と言ったうえで収納したり取り出すことを思い浮かべるということをしないだけで。
このことは流石にアルベール様にもナイショ。って言うかこんなの世界中に広まっちゃったら大変なことになるよ。
物資を無制限に大量に輸送したりできるから戦争に関する補給の概念が変わっちゃうよね。兵站って何って話になりそう。
私が今いる国である、ランドール王国に教えたらアイテムボックスの情報独占してる間に下手したら世界征服だって出来ちゃいそうだよ。
あ、これは魔法じゃないから。魔力も使わないし、魔法検知でも見つけられない。言わばこの世界に住んでいる人間の基本能力。
でも、ゲーム中で誰かがアイテムボックスについて言及することは一度もないので持ってるのに気付いていないのだ。
う~ん、この世界の人間は全員チートだよ。無自覚チーター。
「スザンヌ様、今月の収支報告が届いております」
「ええ、セバスチャン確認させて貰うわ」
そう言って報告書を受け取る。普通に紙があるし元の世界でいう所のA4サイズの報告書だ。
あ、ちなみにセバスチャンっていうのは私の執事であるロベルトの偽名。ロベルトってちょっとした元有名人だからその白髪をオールバックになでつけ口ひげをはやさせて眼鏡をかけさせている。
いやー、ロマンスグレーのおじさまが物憂げな表情でメガネのブリッジをクィって持ち上げる姿、正直垂涎ものですわ。眼福眼福。
ちなみに執事として仕えているときは私のことをお嬢様と呼ぶ! これもまた良き!
今は私は商会長なので「スザンヌ様」呼びだ。ちなみに11歳が商会長などこの世界でも通用しないのでセバスチャンが表の商会長となっている。
「当面仕入れの必要はないみたいね。倉庫内在庫の方もまだ十分にあるのか確認しておいてね。
う~ん、秘密が多すぎて人を雇いにくいのはこのやり方の問題点よね」
「そうですな、へたなものを雇って倉庫在庫を持ち逃げされるなどの問題も不安ですしスザンヌ様が魔法で輸送、保管したうえで必要な分だけを倉庫に置いているなどと知られたら大変なことになりますから」
そうなのだ。私の商会は特に知識チートも使うことなく収益を上げている。
方法は簡単、アイテムボックスを活用した品物の輸送と保管、地域や国による物の価値の差額を利用した利益の回収だ。
私のアイテムボックスはほぼ無限収納だ。例えばある地域で産出される金を購入してアイテムボックス内にため込む。これを移動した先で自分の商会を通じて販売する。
いうならばこれだけで利益は確実だ。輸送コストが反映する遠方の品薄地域で供給過多だけ注意すればいくらでも利益を上げられる。
実験した限りは何十トンもあるものでも平気で収納可能だった。
なにも現代知識を活用して新たな商品を開発する必要もない。リバーシ―、石鹸、マヨネーズ……うん、作るのはいいし販売も商会があればできると思うし利益が上がると思うよ。
でもそれってもしも自分以外の転生者がいた場合、私という転生者がいることを相手にお知らせすることになっちゃうよね? 先に見つけられて観察され攻撃されたらどうするの?
異世界転生してるのが私一人だって確証がない以上は安全に正体がバレないように生きるべきだって私は思うね。
「ただ、鉄鉱石の方がずいぶんと減ってきております。最近お嬢様が立ち上げられた製鉄所(というほど大げさなものではないけど)の方で作った鉄の需要が高まっていますので」
鉄の需要が増えてるって戦争の準備とかじゃないよね? ちょっと不安だから情報収集しておこうかしら。
「鉄鉱石ならココン領で採掘できるから今度帰省した際に持って帰って来ましょう。鉄鉱石は結局採掘に時間がかかるからそっちがボトルネックなのよね」
「分かりました、スザンヌ様。鉱山から持ち帰りできるようにきちんと準備させておきます」
セバスチャンには現代知識の一部(とくにビジネス用語)を教えてあるから話が早い。鉄鉱石が持ち帰れる状態で無限にあるなら私のマジックボックスに保管しておけばいいけど、この世界では人力露天掘りだ。
ダイナマイト? どう作ればいいか知らないし戦争にでも流用されたら困る。
たしかダイナマイトを発明したノーベル賞のノーベルさんって戦争で儲けたお金でノーベル賞を作ったんだよね。ググれないから自分の知識だけで出来ることでやらないといけなのはきついって言えばきついね。
黒色火薬くらいならつくれるかもしれないけど使いどころが分からないし、どっちにしろこの辺のことは寝取られ回避が済んでちゃんとアルベール様と幸せになってからよね。
鉄鉱石の採掘も有能な土魔法の使い手でも雇えればいいんだけど。魔法使いって貴族が多いから戦争にはよろこんで参加する癖に地道に土木作業するのは嫌うイメージなのよね。
大体が貴族しか魔法を使えないうえに、人口に占める貴族の割合が2~3%(私調べ)でその中に基本の属性が5つあって、まともに使いものになる魔力量を持っていてってなると本当に超エリート扱いだろうから土木作業しろって言われてもやらないだろうな~。
うう、自分が役立たずな光属性であることが悔やまれる。
ゲームのプレイヤーキャラであるヒロインが平民なのに魔法が使えるっていうのがあって特例で学園に入学できるって時点で平民の魔法使いを探すのは難しいってことか。
とにかくうちの商会は輸送コストにお金をかけずに済む分だけ従業員に還元できる。今のところ超ホワイトだし社員の忠誠心も高い。本当にありがたいわね。
11歳の私が真の商会主ってバレたら大変だろうけど、というわけでセバスチャン任せた!(丸投げ)
「来週一週間、領内のお屋敷に帰るということにして一度領内を視察、ここまでに採掘済みの鉄鉱石を輸送しましょう。
お母さまにはいつもの化粧品の仕入れと伝えて、お父様には「お屋敷の犬に子供が生まれそうだから領邸の方に帰る」とワガママを言いましょう」
実際犬のポチには子供が生まれそうだし。この世界の犬も色んな種類がいるけどラブラドールレトリーバーっぽい立派な犬を私が小さい頃から飼っている。
「それでは手配いたします。護衛は孫のリリーナでよろしいですか?」
セバスチャンを名乗っているロベルトの孫娘のリリーナも強い! 正直言って今の時点のアルベール様じゃ足元にも及ばないくらい強い。
というわけで、私とリリィの女の子二人を護衛の騎士に守ってもらう
行って帰るだけの簡単なお仕事。この時の私はそんな風に考えていた。(フラグ)
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おもいっきり事件が起こるフリやんけと思った読者様。事件が起こらないなら書かないです。お嬢様の何もない平凡な日常を描く新機軸異世界転生……ありか?
ということで第3話になります。6日連続更新で8/18まで1日1話ずつ、それ以降は火曜、木曜の週二回更新中です。
そこまででプロローグ的なお話が終わって本格的に物語が動き出すように出来ればって思いおります。
作者からのお願いです。カクヨムでは初速がとっても大事です。
面白い、もしくは面白くなりそうって思われたら☆☆☆を入れていただけるとすごく助かります。
よろしくお願いします。
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