第2話 幼馴染令嬢は内政チートで修行する
それから3年の月日が過ぎた。転生した私はスザンヌとして11歳になった。
私より一つ年上のアルベール様は12歳。まだまだバリバリのショタ声なのだが、狂夜様のハスキーボイスで耳に心地いい。
そろそろ声変わりでこの声が聴けなくなると思うと寂しいのでたっぷり聞いておきたいと思う。誰か録音魔法プリーズ!(切実) スマホ、スマホがあれば……ここはゲーム世界、現実は非常である。
今はアルベール様と二人で魔法の授業を受けている最中だ。
「スーの魔力量って僕よりも多いんだね」
ちょっとへこんだ顔のアルベール様が可愛い。いま私たちはお父様たちの社交シーズンに付き合う形で王都のお屋敷に来ている。
私のココン家王都邸は男爵らしく小さなお屋敷。もちろん同じ男爵家のアルベール様のシモン家も王都にお屋敷があるのだがなんと隣り合っているのだ。
貧乏貴族同士で親も仲が良いために今は魔法の家庭教師を雇って2人で一緒に魔法を習っている。
「そうですけど、アルベール様は複数属性の才能を持っておられるからそっちの方が羨ましいです。私なんて1属性だけだし」
アルベール様と会話しながら私の心臓はドキドキしっぱなしだ。
もう、なんでこんなに声がいいの? その上、今のところ健やかに育っておられてあのやさぐれたNTR後のアルベール様の姿を想像できないくらい。
ああ、この人と結婚したい。エッチしたい。子作りしたい。
……ゴメンあそばせ。思わず内面の三十路女が出てしまいましたの。う~ん、考えてみたら私はもう前世と今世を足し合わせると四十過ぎなのよね。
と、別のことを考えている場合じゃない。今は目の前の魔法の授業に集中しないと。
「それではスザンヌ様、本日の授業の最後です。魔力をこめて全力で光魔法を発動してみてください」
家庭教師で来てくれている20代のアイリーン先生に魔法を使うように促される。
「光よ!」
私が叫ぶとパァァっと私の手を中心に光が溢れる。そう、私が持っているたった1つの属性は光属性!
今すごいって思ってくれたそこのアナタ、そう、アナタよ。本当に褒めてくれてありがとう。でもね……この世界の光魔法ははずれ属性の筆頭なの、グスン。
何と、光魔法単体では光るだけ! 本当に光らせたり色を変えたりそういうことしかできなのだ。
なんたる外れ属性。これが聖属性と合わさると聖女クラスの範囲回復や治療魔法になったりするし、炎魔法と合わさればレーザー光線のような熱線を撃つこともできる。
でも、魔法鑑定のオーブで測定して貰った私の魔法属性は本当に光のみ……神殿の神官様達もちょっと哀れんだ目で見ていたわよ。
ということで幼少(記憶が戻った3歳だ)のころから一生懸命魔力を鍛えるために体内で魔力を練ったり滝に打たれたり自宅にサウナを作って整えたりした私の膨大な魔力は宝の持ち腐れなのだ。
いや、バカにするかもしれないけどこの世界の魔力のアップ方法って分かっていないのだ。ゲーム内ではレベルアップ時に勝手に上げるけど自分のステータスなんて見れないし。
そう、「ステータス」と唱えてもステータスウィンドウは出ない。
まあ当たり前だよね。ゲームの世界だけどヒロイン達が自分でステータスを確認する場面なんてなかったから。
前も言ったけど「作品に出てこないことは存在しない」「作品で描かれなかった部分は適当に補完されている」そして「作品に書かれてることはどんなおかしくても実際にそうなっている」世界なのだ。
光魔法に魔力を注ぎ込む。私の魔力は膨大だ。
どんどん光が強くなって太陽の下でもまぶしいくらい。
う~ん、目つぶしくらいにはなるのかなぁ……
「すごい……光魔法だけの力でこれほどの輝きを!?」
「スー……凄すぎる! 僕ももっと魔力も剣の腕も磨かないと置いて行かれてしまう」
二人が褒めてくれるけど、チートというにはささやかすぎる能力。これが炎属性とか水属性とかだったら今ごろエクスプロージョン級の大爆発をかませたかもしれないのに。
言ってみたかったなぁ、あのセリフ……「今のはメラゾーマではない…メラだ…」
シュゥゥゥゥッ
光がおさまる。二人が拍手してくれる。
「すごいです、スザンヌ様」
「スーすごいよ。綺麗だった」
えっと……アルベール様。綺麗だったのは光ですよね? ドキドキするからそんな女殺しみたいなことを言わないでくださいまし。私の貴族として被ってるネコが脱げちゃいますから。
「あ、あ、あ、あ、あ、ありがとうございます。それでは私は次は勉学の時間ですのでこれで失礼します」
スカートのを裾をちょこんと持ち上げてペコリと頭を下げて逃げるように背を向けて立ち去る。どうしよう。私の顔が真っ赤になってるのアルベール様に見られちゃったかも。
うう……あの声で「綺麗だ」とか絶対ダメ。私以外の女の子もあんな声で「綺麗だ」って言われたら絶対真っ赤になっちゃうから。
ああ~、これだけそばにいるのに耐性がつないなんて絶対スザンヌの脳にバグがあるに違いない。(原作で描かれてないからそんな事実はないんだけどね)
ふぅ、今は勉学の時間ということでこの時間はお母様が家にある本で貴族の作法の基本や世界についてのお話を聞かせて下さるの。
あ、たまにちょっとお嬢様っぽい思考になっちゃうのは勘弁してね。流石にこの世界で元の世界の私の記憶を取り戻してからでも8年間もお嬢様として扱われてきたのだ。油断すると思考がお優雅になってしまうのは仕方ないことですってことよ。
「それにしてもスザンヌちゃんは本当にお勉強が得意なのね。お兄ちゃんの時はこんなにすぐに覚えてくれないから家庭教師の先生に来ていただいていたのに」
お母様が褒めて下さる。まあ、流石に今習っているような世界のことはゲーム「ペンタグラムの乙女」の公式設定を読み漁り、トッププレイヤーとして設定が甘いところには問い合わせメールを送りまくって新設定をいくつもつくらせたという伝説の
トッププレイヤーの私にとっては常識レベルの話ね。
「それに、スザンヌちゃんが作ってくれたお化粧品、本当に貴族の奥方達の間でも大人気でうちの家計も凄く助かっているわ」
「それは良かったです。お母さま」
って、やっちゃったよ内政チート! 現代知識無双だよ!
って本当は言いたいところだけど今のところは必要最小限。なぜなら本気の内政チートや現代知識無双をしちゃったらココン家が成り上がっちゃってアルベール様のシモン家と釣り合いが取れなくなっちゃうからだ。
寝取られる前に婚約解消されてアルベール様とお別れなんてごめんだ。
なので母親を通じてまずはこっそりお小遣い稼ぎ。このお小遣いで私とアルベール様のための家庭教師をつけいていただいてアルベール様との時間を作ったりといろいろとやっているのだ。
ついでに言うとこのお小遣いを使って私の専属執事(ロマンスグレーのおじさま)を雇い、彼を使って私の資金を元手に小さな商会とやりとり、コツコツとお金を貯めてついに自分の商会を立ち上げるまでにいたったわ。
ここまでに3年、そう、あのアルベール様とお城を眺めながら誓ったあの日から私は全力で血のにじむような努力してきたのだ。
寝取られてたまるかってもんである。
あ、ロマンスグレーの素敵な執事であるロベルトのことは後で紹介するわね。彼との出会いもとっても素敵な出会いだから。
そして、読んでるみんなだけには教えちゃうけど、この世界で一番のチート。それはモブも含めた全ての人物が「アイテムボックス」という無限に収納できるストレージを一人一つ持っているって事実なんだけどね。
転生した私以外気付いてなくて宝の持ち腐れなんだけどね。
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二か月ぶりの更新になります。皆様覚えておられるでしょうか?
50人近くがフォローして下さっていたので期待してるものが提供できるといいのですが。
学園に入って男に囲まれてドタバタするまでにちょっと幼い頃の話が入るのでそこもお付き合いいただけると嬉しいです。
まずは今日から6日連続更新で8/18まで1日1話ずつ、それ以降は火曜、木曜の週二回更新です。
そこまででプロローグ的なお話が終わって本格的に物語が動き出すように出来ればって思います。
作者からのお願いです。カクヨムでは初速がとっても大事です。
面白い、もしくは面白くなりそうって思われたら☆☆☆を入れていただけるとすごく助かります。
初速もなにもすでに公開2か月経過した作品なんですけど応援して貰えたら少しでも多くの人に読んで貰えると思うので。
よろしくお願いします。
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