タイム・トラベル・プランナー

②

　おかえりなさいませ。いかがでしたか。はじめてのタイムトラベルは。有意義なものになりましたか。

　過去を改変したことによって、あなたの記憶が書き換わっているはずです。理想通りの形になっていればいいのですが。

　浮かない顔をしてらっしゃいますね。どうかされましたか。

　交通事故でなくなった奥様を助けるため、ということでしたが、もしかして上手くいかなかったのですか。

　事故があった日、奥様をずっと家の中にいさせたおかげで事故にあうことはなかったのですね。それならよかったじゃないですか。無事に歴史は改変されて、幸せな結婚生活に戻ることができたのではないですか。

　その一年後、奥様は病で亡くなられた……それはそれは、ご愁傷様です。

　そう気を落とさないでください。歴史はなかなか大きくは変わらないものです。基本的に歴史には大きな流れがあって、流れを崩さないようにする力学が働きます。そう簡単にはいきませんよ……って歴史改変士の方に申し上げるのは野暮でございましたね。失礼いたしました。

　今回はご期待にそえず申し訳ございませんでした。またのご利用をお待ちしております。

　……またすぐに過去に戻りたい、ですか。

　お言葉ですが、そう何度も時間遡行を行うのはおすすめできません。歴史の改変を繰り返すほど、歴史そのものの意味合いが薄まってしまいます。いくらお客様が歴史改変士であっても、ご自身の都合でそう何度も改変を行うのは褒められたことではありません。

　それに、奥様を救う交通事故ならまだしも、病気となればそう簡単にはいかないでしょう。日々の生活習慣や、体質なんかも関係してきます。長期的かつ複雑な改変が必要になってしまいますよ。せめて病気の原因くらいわかっていないと難しいのではないでしょうか。

　原因に目星はついている、ですか。働きすぎ？ ああ。なるほど。確かにそれなら会社を辞めさせるなり、もっと楽な会社に転職させるなりすれば可能性はありますね。

　まあ、お客様がお持ちのプレミアムチケットに回数制限はありませんから、制度上は何度でも過去に戻ることができますし、どれだけ過去を改変したところで、私に止める権限はありません。再度挑戦したいということでしたら、またタイムマシンまでご案内いたしますよ。

　即答ですか。そんなに奥様のことが大切だったのですね。

　……果報者、ですね。

　いえ、なんでもありません。それではご準備はいいですか。タイムマシンを起動します。よいタイムトラベルになりますように。いってらっしゃいませ。