タイム・トラベル・プランナー

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　いらっしゃいませ。JTT、ジャパンタイムトラベルへようこそ。

　私がお客様のプランニングを担当いたします、よろしくお願いいたします。

　お客様、時間旅行は初めてでいらっしゃいますか。それでは簡単に時間旅行の来歴と、基本事項をご説明いたしますね。

　時間遡行、いわゆるタイムトラベルの技術が発明されてから数十年、誰もが時を遡れる時代がやってまいりました。今は亡きミュージシャンの伝説のライブに参加したり、かつての偉人たちの生きている姿を目の当たりにしたりと、時間旅行は新時代の娯楽として多くの方々にお楽しみいただいております。

　しかし、時間をさかのぼるのはリスクがつきもの。旅行者が過去の人物や出来事に干渉することで発生する、いわゆるタイムパラドックスや、歴史の大幅な改変。現代の犯罪者が時間遡行を利用して逃亡するなど、様々な問題が懸念されます。

　そこで設立されたのが、タイム・トラベル・プランナー制度です。時間旅行をする際は、時間遡行診断士の国家資格を持つ我々との綿密なプランニングを事前に行い、時間旅行中も我々の監視下で行動していただくことになっております。

　プランの逸脱は決して許されません。厳罰の対象となります。窮屈かとは思いますが、皆さまに安心安全な時間旅行を提供するためのルールですので、ご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。

　以上が大まかなご説明となりますが、何かご質問等ございますか。

　……お客様。大変申し訳ございません。今申し上げましたとおり、過去の出来事に干渉することは許されません。事故で亡くなった奥様を助けることは明確な歴史改変にあたります。お気持ちはお察しいたしますが、残念ながらそのようなプランニングは承れません。

　いえ、今のお話を聞いてしまった以上、別の理由で過去にお戻りいただくことはできません。今までの会話は全て録音されております。理由を詐称することも取り締まりの対象となります。どうか、お引き取りを。

　そこをなんとか、と申されましても、こればかりはルールですのでどうしようもありません。お客様一人を特別扱いしてしまいますと、他のお客様のご迷惑になります。それに、過去改変、それも亡くなった方を生かすという重大な改変はどうやっても看過できません。それこそ超特例の歴史改変オプション付プレミアムチケットでもお持ちでない限りは……。

　おや、お客様。お手にお持ちのカード、少し拝見してもよろしいでしょうか。

　これはこれは、大変失礼いたしました。こちら、プレミアムチケットでございますね。お客様は歴史改変士の資格をお持ちだったのですね。最初にお教えいただければスムーズに対応できましたのに。

　そんな資格、とった覚えがない、ですか。しかし、今お持ちのそのカードは間違いなく歴史改変資格をお持ちの方だけに発行されるプレミアムチケットです。こちらをお持ちであれば、お客様のご要望にお応えすることはなんら問題ありません。

　ええ。歴史改変士は我々の時間遡行診断士の上位資格にあたります。過去に起きてしまった世界的戦争や、人類滅亡につながるような大災害などを過去に戻って回避する目的で設立された、タイムトラベル関連の最高位の資格になります。そんな方にタイムトラベルの基礎など説明してしまうなんて、釈迦に説法もいいところでしたね。大変失礼いたしました。

　はい。おっしゃる通りです。お客様の資格をお持ちであれば、過去にもどって奥様を助けたとしても、何のお咎めもありませんし、刑罰をうけることもありません。どれだけ歴史を改変しても、それは国家、ひいては人類の意思であると判断される。それがお客様がお持ちの歴史改変士という資格です。

　……なぜそんな資格を自分が、と申されましても。お客様が取得された資格でしょう。お客様が一番よくご存じのはずではないですか。

　色々と混乱されているようですが、どうされますか。過去に戻りますか。それとも戻りませんか。あまり時間は残っていません。どうかお早目のご判断を。

　……承知いたしました。それでは奥の部屋にございます、タイムマシンにご案内します。すぐに出発となりますので、身支度を整えてください。

　ご準備はよろしいですか。それでは、よいタイムトラベルになりますように。いってらっしゃいませ。