第22話 カッコいいお姉さんに
10年間、少年は
しかし……先を越されていた。すでに
いや……落ち着け。過去形で語っているということは、今はいないということだ。別れたということだ。
……傷つけたとは限らないな。円満に分かれている可能性だってある。まずは落ち着け……
「仕事で悩んでた時期なんだけど……」テニスをした会場のベンチで、
通っていたバー……その頃から、お酒は飲んでいたらしい。
「はじめは優しかったんだけどねぇ……落ち着いた感じで、穏やかで……」見る目なかったなぁ、と
暴れ始める……
……
「きっかけは些細なことでね……中学時代に部活やってたってことを話したの」……その程度で、どうして暴力につながるのだろうか。「彼は言ったよ。俺への当てつけかって」
「……当てつけ?」
「そう。部活が長続きしないで、すぐに辞める俺をバカにしてるのかって」とんでもない被害妄想だ。だが……「彼を傷つけたのは事実。悪気はなかったとはいえ、地雷踏んじゃった」
……そうかもしれない。事実として彼とやらは怒ってしまった。
正当性のない逆ギレだ。だが……本人にとっては許せないことだったのだろう。
「最初は一時的なもんだと思ったよ。ちょっと機嫌が悪いだけだって。ちょっと私が軽率だっただけだって。そう思って……殴られても我慢してた」
彼女ができたんだって、と
「お前はただのサンドバッグだったから、もういらないって。殴っても文句言わないから一緒にいただけだってさ」……なんとも胸糞悪い話だ。「なにがサンドバッグだよ……こっちは片目見えなくなってるのにさ……」
それも当然だろう。片目が見えなくなるというのは、重大なことだ。人生に影響を及ぼすことだ。
さらに……そこまで酷い男と付き合っていたという傷も、なかなか消えないだろう。
それにしても……どうして
今すぐにでも殴りに行きたい。極刑宣告をしてやりたい。それくらい怒りが湧いてくる。
しかし、そんなことは
だが……それでも、腹が立つので聞いてみる。
「ご要望とあらば、今すぐ消してきますが」
「それも面白そうだけど……まぁいいや。右目が返ってくるわけでもないし……」とにかく、と
ヤケになって……どうなっていたのだろうな。自ら命を断っていた可能性も、あるのだろう。
そう考えると……なかなか良いタイミングで
もしも彼氏がいる期間に出会っていたら……どうなっていただろう。
それとも……その彼氏が帰らぬ人になっていただろうか。
「まぁ、そんなことがあって……私は男性に対して臆病になってたの」
「……でも……」
「キミは別」特別だったらしい。「最初に見られたのが、最大級に情けない姿ってのもあるけどね……やっぱり、10年前のことがあるから」
それから
「キミの前では、カッコいいお姉さんでいたかったの」
「カッコいいと思いますけど」そんな過去があって笑顔を見せることができる優しさは、カッコいい。「僕の中の10年前の
「ありがとう。でもね……私自身が納得できてないのさ」
「納得、ですか……」
なんとなく理解できる。心が納得できないという状態は、少年にも覚えがある。
「私さ……キミに告白されてたよね」
「はい」
「悪いけど……ちょっとだけ待ってておくれ」
少しばかり、反応が遅れた。
……カッコいいお姉さんになって帰ってくる……
今でも十分にカッコいいのだけれど……
「私……キミのこと好きだよ」覚悟の決まった目をしていた。「カッコよくて優しくて……今の私にはもったいないくらい」
「そんなこと……」
「納得の話さ。今の私じゃ……キミの彼女になれないの。私自身が納得できないの。だから……少しだけ待っててほしい。その間に……キミに見合う女になって帰ってくるから」
なら今のままで良いのだけれど……
このままの
だけれど……その言葉は
だから……
「わかりました」そう答えるしかない。「でももう……10年も待ってますから。あんまり長くは待てませんよ」
「そうだね……私も若いうちに……若くてキレイなうちにキミの彼女になりたいから……まぁ、そんな長期間じゃないよ。能力的にキミに追いつけないのはわかってるから……」
そうだねぇ……と
「今の堕落した生活からは脱出するよ。しっかり自律した……そんな人間になってからだね。キミに甘えなくても生きていけるようになってから、キミに甘えさせてもらうよ」
今すぐ甘えてもらって結構なのだけれど……まぁそれだと納得できないのだろう。
それはおそらく
そんな一面を見せられて、反論できるはずもない。
「待ってますよ」
「うん。ごめんね、何年も待たせて」
「いえいえ……」
待っている時間というのは、悪くない。理想に恋をする期間というのも、悪くないのだ。
☆
それきり……
10年も待ったのだ。
きっと
甘やかされるだけの立場じゃない。お互いに支え会える存在になりたかったのだと思う。
ならば……これ以降
……むしろ甘やかされるかもしれないな……
……
それはそれで、構わないか。
……それにしても……
待ってる時間というのは……本当に長いなぁ……
まぁ帰ってきた
僕がただ年上のお姉さんを甘やかすだけの話~子供の頃、年上のお姉さんに告白したら「キミがカッコいい男に成長したら恋人になってあげる」と言われたので、めっちゃ努力した~ 嬉野K @orange-peel
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