第20話 少々お待ちください

 テニスウェア選び……それも自分のじゃない。天香はるかのテニスウェアである。


 サイズに関しては取り寄せれば良いので、考えるべきはデザインのみ。


 彼女にはどんな服が似合うだろう。素材が良いから、どんな服でも似合うだろうけど……


 明るい色が良いと思う。ピンクとか黄色とか……いや、青系の寒色も似合うか? 落ち着いた大人の雰囲気が増幅されて……


 迷う……迷ってしまう。ここまで判断を迷うことがあっただろうか。絶対に失敗できないという緊張感が……


「そ、そんなに思いつめなくても……」天香はるかが少年の変化を察して、「もっと軽い気持ちで良いんだけど……」

「そんなこと言われても……」あのヒーローに着てもらう服なのだ。「10時間くらい時間をいただければ……」

「……それでも良いけど……どうせ暇だし」受け入れられるとは思っていなかった。「悩んでも、そんなに変わらないと思うけどなぁ……」


 それは少年も思う。

 なにかを好きになる理由なんて、基本的には後付なのだ。最初に一目惚れして、あれこれ理由をつけていくだけなのだ。


 最初に良いと思ったものが、結局良いもの。それが選択というものだと思う。


「とりあえず私の選んだ服なんだけど……」天香はるかが少年のために選んだ服。「これなんかどう?」

「それにします」

「食い気味」


 天香はるかが選んだ服なのだから文句なんて言わない。家宝にする。国宝に指定する。


 天香はるかが選んでくれた服は、シンプルなジャージだった。明るすぎず暗すぎず、落ち着いた雰囲気のウェアだった。


「キミは何を着ても似合うだろうけどね」そんなことはないけれど。「カッコいいし……筋肉質だし。鍛えてるのが伝わるから……もっと、ワイルドな服でも似合いそう」


 ワイルドなテニスウェアってどんなものだろう……袖が引きちぎられているのだろうか……


 ともあれ、


「ありがとうございます」しっかりと服を受け取って、「大切にします」

「そんな重く受け止めなくても……軽く受け取ってくれたらいいよ。というか、キミのお金で用意した服なのに……」


 天香はるかが選んでくれたというだけで、特別になるのである。数億円する服よりも、こっちのほうが嬉しい。


 こんなに良いものをもらってしまったら、少年としても火がついてしまう。


 必ず天香はるかに見合うような服を選んで見せる。





 12時間後。


「私が悪かったからさぁ……」天香はるかが眠たそうに、「もう服を選んでなんて言わないから……自分で選ぶから……もう帰ろう……」

「も、もう少し……500着まで絞りましたから……」

「そんなに候補作らなくていいから……」

「いえ……きっと完璧な一着を選んでみせますから……少々お待ちください……」

「……」天香はるかはため息をついてから、「わかったよ……じゃあ、好きなだけ選んで」


 お許しを得たので、心ゆくまで選ぶことにする。


 といっても早く選ばないといけないことは自覚しているので……


 最終的に32時間が経過して、ようやく究極の一着を選ぶことに成功したのだった。

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