第18話 一緒に

 その後、天香はるかが散歩から帰ってきた。


 浦和うらわは泣きじゃくりながら天香はるかにお礼と謝罪の言葉を並べていた。お礼を言われた天香はるかのほうが困惑するほどの勢いだった。


 そのまま浦和うらわは謝罪の言葉を並べ、お礼の品を渡した。


 それから天香はるかにたしなめられて、泣きながら帰っていった。


「……嵐のような人でしたね……」

「まぁ……元気な子だから……」天香はるかはもらった品を見て、「ういろうだって。食べる?」

「いただきます」


 というわけなのでお茶を入れて、ういろうをいただく。


 贈り物の味や価値というのは、値段だけにとどまらない。その人の熱意や想いが、こもっているものなのだ。


 ういろうを食べながら、


天香はるかさん」

「なに?」

「やっぱりあなたは、僕のヒーローです」

「……?」いきなり何を言い出すんだ、とばかりに、「浦和うらわさんから、なにか聞いたの?」

「はい。飲み会での一件を聞きました」間髪入れずに、「すいません……勝手に聞いてしまいました……」

「いや……いいよ。別に隠してるわけじゃないし……」


 天香はるかは結局、暴力なんて振るっていなかった。後輩を助けようとして、上司の罠にハメられただけ。


「それに……」天香はるかはため息をついて、「あのときの私は酔ってたからね。ストレスも溜まってたし……いつか殴ってたよ」


 そうだろうか。天香はるかはきっと……暴力には頼らないと思う。というより、僕力ができないタイプだと思う。どんなときも、相手のことを気遣ってしまう。だから、手が出ないのだと思う。


「あーあ……」天香はるかは天を仰いで、「酒が飲みたい……別に好きなわけなじゃないんだけど……無性に飲みたくなる時がある」

「用意しましょうか?」

「止めないの? たぶん私、一歩手前だよ?」


 アルコール依存症、一歩手前。

 そうかもしれない。この部屋の掃除をしたときに、ビールの空き缶が多数出てきた。


 そんな状態の彼女が飲酒宣言をしている。たしかに止めるべきなのかもしれないが……


「じゃあ、僕なりの方法で止めます」そう宣言して、少年はワインを用意する。そしてワイングラスに注いで、「どうぞ」

「……?」天香はるかはワイングラスを受け取って、「……飲んでいいの?」

「いくらでもどうぞ」


 天香はるかはグイッとワインを飲んだ。


「……美味しいね……もっと、依存しちゃいそう」

「良いですよ」それから最重要の情報を付け加える。「1本が1億2000万です」

「……えぇ……」予想していた額よりも、大きかったようだ。「高いもんだろうとは思ってたけどさぁ……」

「はい」自分の用意できる、最高のものである。「飲みたければ、いくらでもどうぞ」

「……いや……さすがに気が引ける……」


 これが少年流の止め方。

 お酒1本が中途半端な値段だから悪い。1本1億なら、相当依存してない限り止められる。


 というより……天香はるかはお酒に依存なんかしてない。しっかりと節度を守って飲めているのだ。それだけの話。


「……キミも一緒に……」天香はるかは言葉の途中で、「ああ……まだ、未成年だっけ?」

「はい。ですので、お酒はご一緒できません」


 天香はるかがどうしても一緒に飲みたいというのなら、法律くらい破るけれど。それくらい屁でもないけれど。


「じゃあ……しばらくはひとり酒だね……」天香はるかはワインの匂いを嗅いで、「飲める年齢になったら、一緒に飲みに行こうね」

「はい」


 また生きる目的ができてしまった。


 20歳の誕生日……その日の予定ができた。


 天香はるかとお酒を飲む。

 

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