第14話 わかってたのにね

「じゃあハワイにでも行こうか」3時間後。「キミに冗談が通じないことはわかってたのにね」

「冗談だったんですか?」

「いや……行ってみたいとは思ってたけど……」


 というわけで、ハワイにやって来た。ビーチで遊ぶ観光客を眺めながら、天香はるかが言う。


「……ハワイって……3時間で来れる場所だっけ……」

天香はるかさん専用のコンコルドですから」

「いつの間にそんなものが……」


 海外に行きたいと言われても良いよう、先に用意しておいた。

 手続きも空港までの移動もすべてなくせば、ハワイなんて近所である。


 天香はるかは砂浜に座って、


「来てみたは良いけど……なにすればいいのか、わかんないね……」

「泳ぎますか?」

「んー……それは嫌だな……」なにか事情があるらしい。「ココナッツジュースでも、飲む?」

「わかりました」


 すぐに近くのお店でココナッツジュースを調達して、天香はるかに手渡した。


「……これ、どっかで見たことが……」

「昨日飲みましたね」


 世界中のジュースが飲みたいと言われたので、用意した。当然ハワイのジュースも含まれている。


「……現地で飲むと……違うのかな……」天香はるかはジュースに口をつけて、「……あんまり変わらない……」

「でしょうね」だって同じものなのだから。「しかも3時間で来てますからね……ハワイに来た実感が無いのでは?」

「そうだね……そこの道を曲がれば、私の家がある感覚だよ」

「……」

「……」


 どうしよう……ハワイに来たのは良いが、何もすることがない。


 本当に近所感覚で来れるから、名残惜しさがない。せっかくハワイに来たのだから、という感覚がまったくない。


「……旅行って……移動時間も大切なんですね……」

「そうだね……」


 その移動時間も、大切な思い出だった。その事に気づいたときには、もう遅い。


 結局、2人でハワイの夕日を眺めただけで、彼らのハワイ旅行は終わったのだった。


 滞在時間30分のハワイ旅行だった。

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