出会いと再会
第1話 競馬はどうした?
それは彼の少年時代の、淡い思い出。
「なぁ、いいだろ? ちょっと貸してくれるだけでいいんだよ」
川沿いの道で、小学1年生くらいの少年は酔っ払い3人に絡まれていた。
「すぐ返すって言ってるじゃないか」酒の匂いを撒き散らして、酔っぱらいは少年に近づいていく。「お小遣いくらいもらってるだろ? ちょっと金を貸してほしいんだよ」
少年は怯えたように後ずさる。恐怖で声も出ないようだった。
「ほれ」酔っ払いは少年の肩を押して、そのまま転ばせる。「ポケットと、ランドセルの中を見せろ」
「や、やめて……」
「お……」少年の抗議を無視して、酔っぱらいはランドセルを開けた。「給食費か……おお……結構あるな」
「ダメ……それは、大事だからって……」
母親が持たせてくれた給食費。
絶対になくすなと言われていたお金だった。
「そうかそうか」酔っ払いは給食費の入った封筒の中身を確認しながら、「お前、競馬って知ってるか?」
「……?」
「知らないか。その遊びをするとな、なんとお金が何倍にもなるんだよ。だから……そうだ、この金を倍にして返してやろう」
「で、でも……」
「いいから……大人に任せとけ」
「だ、ダメ――」
そして、少年の頬に鋭い痛みが走る。
「ガキは黙って言うこと聞いてな」酔っ払いの1人が、少年の頬を殴ったのだった。「返すって言ってるだろ? 約束してんじゃん。ケチだなぁ……」
少年は競馬というものがなにか知らないが、とにかくそのお金は大切なお金。とられるわけにはいかない。
その道に人通りはいくらかあったが、誰も少年を助けようとしない。ただ遠巻きに眺めて、気の毒そうに去っていくだけだった。
「さて……」酔っ払いは立ち上がって、取り巻きと談笑する。「これで酒でも買って飲むか」
「おいおい……競馬はどうした?」
「当たるわけねぇだろ、あんなの。それに、金なんてこうやって簡単に手に入るからな」
酔っ払いたちは大笑いで、その場をさろうと向きを変えた。
そして……少年にとってのヒーローが現れたのは、その瞬間だった。
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