25節 魔転幻人ホテル 前編
見破られる可能性なんてない—— 万に一つもそんなはずはない、なぜなら俺の存在価値はそれだけだからだ。完璧になりすまし騙す、そうそれだけのための道具。
魔族としての全てを捨て幻視となった今の俺の意義だ、革命、そう語る彼のために、戦う力も画策する知恵も持たない下級の自分に出来ること—— 役目を果たしてみせる、魂に変えても。
幸いにもこの二人は疑っているだけ、真実を感じ取れてはいないようだ。
「…… で聖女? カレン? どこに行きたいのでしょうか、僕で良ければ案内しますよ」
(なんだ、その話し方は…… まぁ良い、お前は普通に接していろ、バカなのだから、無理に疑うな。それは我に任せろ、ボロを出すかもしれない)
まだ、引きずってるのか…… でも、折角二人分体の中にいるなら、そういうやり方もありだね。あっ、桃華もいるから三人か。
(人扱いするな…… 自然に接するのだぞ、もっと)
「まったく、当然でしょう…… その前に先程の謝罪はまだですか?! このわたくしを神秘扱いした罪は深いですわよ! 」
………… なんか、大変な人に目をつけられてしまったよ。外国のお金持ちって本当にこんな感じなんだね。
(……全員がそうではないと思うが、とりあえず普通にだぞリョウ。お前の取り柄だろ)
「ほんとに、もうしわけございません。発言が無礼でした…… ほら、桃華も」
「えっ!? アタシも? ……何でよっ」
少しムッとしている桃華。確かに彼女には悪気はないが、ここは一応謝っておくべきだろう。この聖女カレンが本物か、わからないのだから。
「あぅぅ…… ごめんなさい」
「ふんっ、よくってよ! 礼節を弁えるのは大事なのですよ。ところでそちらの紫とピンクの不良少女は桃華、そしてわたくしを無視し、いきなり電話をした挙句、あろうことがこのわたくしを神秘扱いした、失礼な貴方はリョウでお間違えないですわね? 」
いや、まぁそうなんだけどね、確かにその通りなんだけどさ。
(なぜ、知っているのだ…… もしや、我らの素性を…… )
「わたくしにかかれば、そのくらいは分かりますわ。お二人でコソコソと聞こえていますわ」
調べたとかじゃなさそう。地獄耳なのかもね。
(まぁ、貴族の令嬢という感じだ、噂話がお好きなんだろう、所詮人間だからな。)
「アタシはそんなに不良じゃないしっ!それで…… この国に何の用なの?」
「観光です…… 観光ですわ! 」
観光ねぇ…… いかにも言い訳って感じだと思うけど、どうなんだろうか。
「えっ! アタシには言い訳って感じがするんだけど…… 本当かなぁ? だって場所とか何もわかんないんでしょ? 」
ちょっと桃華…… 直球すぎるんですけど。
「だって、どう考えても怪しいもん! 」
「わたくしだって空港からここまでは来れますわ。ただこんなアジアの島国ことなんて、わかりません、それにわたくし一人ではありませんわよ。執事のオリヴィアも居ますから、二人でここまで来たのですが…… 今は彼女が見当たりません」
「えっーと、それじゃあ今はその執事さんと離れ離れってこと? 」
「そういうことになりますわ」
なるほど、異国の地にて二人して迷子とは大変そうだ、本当ならば。
「だったら、その人を探した方がいいのではないでしょうか? 」
(お前は芝居が下手だな。だが、この女は道に迷っているのではないのか? 言ってることが食い違っているようだが)
確かに、そうかも。あと下手は余計。
「 何でしょうか?そのお顔は、道に迷ったのか、人を探すかどちらなんだろうとでも言いたげですわね。違いますわ、オリヴィアもわたくしも目的地は同じなのです。見失ったのなら目的地に行けば良くってよ」
つまり、現地集合と言いたいのかな。回りくどいな色々と。
「それで、目的地ってどこな訳? アタシとおにいちゃんで連れてってあげようか、仕方ないから」
「あら、やはり運命ですわね」
カレンは桃華と僕を交互に見つめる、心から微笑みながら。
「えぇ、わたくし達の目的地は…… えーっと、何でしたっけ、て、てい、あぁ思い出しましたわ。帝聖ホテルですわ、ご存知でしょうね? ほほっ、貴方達とは縁が無さそうですけど」
帝聖ホテル…… 確か、超高級ホテルだよね、縁は無いよ確かに。
(お前は庶民だからな、ふふっ高級とは縁が無いな。ところで…… ホテルとは何だ? 公国には無いぞ)
同時刻 成田空港
「…… 副長官、無事合流できて何よりです。で、どちらに行ってたんですか? 」
「まったくタカミ失礼ですわ、レディーの事情ですわよ。それより、貴方がルナですね? わたくしはカレン、よろしくだわ」
この人がカレン副長官…… お噂通りの方だ。
「私は殻のルナです。よろしくお願いします。お噂は高水さんより聞いています」
「よろしくね、ルナ。あなたはオリヴィアに似てますね、少し無口、仕事に真面目で、任務に忠実、そして頭が良くて丁寧、でも無口」
オリヴィアは暗紫の髪を撫でながら、静かに頷いた。以前はわからなかったが、確かにこう見ると私と似通っている部分も多い。でも、誰かの任務でしか動かない私と似ているのかな。私は人間としての尊厳を捨てさせられた、そんな私と。
「ところでお二人のために、空き部屋を一つ用意したのですが、お荷物運びましょうか? 」
「いえ、気を遣わないでいいわタカミ。オリヴィアが、ホテルを取ってくれてますわ」
「えぇ、お嬢様の令でとっておきの場所をご用意しました。日本でもトップクラスのホテルを予約済みです」
(to be continue)
ロード・オブ・ツヴァイ 悪魔に取り憑かれると自分の時間が少ない 湯ヶ崎 @yugasakiX
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