24節 偶然なのだわ、あくまでも
「お待ちなさい! 何故わたくしを無視するのです?! 無礼ですわよ」
先程まで、ラーメン店でお昼を満喫していただけなのだが、変なブロンド髪の外国人女性に絡まれている。しかも、運命なんて言いながら。どう考えてもマトモじゃない。
『リョウ………… なんなのだコイツは、我らのことに気づいているのか? それともただのアホなのか、厄介だな』
まったく同感だよ。それに聖紋とか言ってなかった? ルナのやつだよね、ということは高水さんが言ってた探し人かもしれない。
「違うっぽいよ、おにいちゃん。変な感じはするけど…… 魔族とかそんな感じじゃない」
桃華が耳元で囁く。だったら、何この人? ゼウルの声が聞こえてるってことは…… あれ?なんで言葉わかるのかな、僕は英語喋れないけど。
『それは、我のおかげだ。魔族は周りから力を吸収すると言っただろう、それと一緒だ。意思や伝えたいことを吸収できるのだ、テレパシーなんていうのか人間は。だが本来は完全に体を乗っ取らなければできないが、何故だろうな』
……. それは分かりません、つまり自動翻訳できるわけね。
「えーっと……. 何かあったんでしょうか? 僕等はそんな大層な者じゃないけども…… 」
「いえ、この出会いはきっと啓示だわ、わたくしに与えられた試練なのですわ!」
「真面でどうしたのかな? …… あっ!わかった。なんか困っているじゃないの、慣れない国で」
ふむふむ…… なるほど。なんか、そんな感じがする。…… 言葉は通じるんだよね
「なんか、困ってることでもあるんですか。お手伝いしますけど…… 大丈夫でしょうか? 」
「いえ…… わたくしが困るなんて、そんなわけ……………… ははっ、な、ないでしょう…… 」
長く美しいピアノ線のようなブロンド髪を、大袈裟にかき上げながら、視線を逸らす。
「で、でもこの出会いは運命です。そうだわ、このわたくしを案内しなさい! いくつか行きたい場所があるのです」
「…… つまり、迷ったという……」
「迷う? わたくしが路頭に迷う貴方をお救いしましょうか」
(ダメだ…… 話が通じないな。おそらくだが神秘に対応する組織の人間だろう、だが高水からは一言も聞いてないな。…… どうするのだリョウ)
なんで絡まれてるのかわからないけど、とりあえず高水さんに連絡してみようか。多分知り合いでしょこの人。
「今時の日本の女学生は随分と派手な格好なのね、紫にピンクとはわたくしたちとは大違いですわ」
『あ、もしもし高水さん? 僕です、双川です。なんか多分高水さんとかの知り合いっぽい人に、今会ってるんですけど…… いや、探してる人達じゃないです。………… えーっと、なんかいかにもお嬢様って感じで、ちょっと話が通じなさそうな人です。…… そうそう、ブロンド髪の…… そうです貴族っぽい格好の…… えっ? さっき見つけた? そっちに居るんですか? 同じような人が…… 』
こんなに狼狽する高水を見るのは初めてかもしれない、それは共に色々な任務を経験してきたルナから見ても。高水は仕事柄、説明のつかない現象や神秘に幾度となく触れている。そんな彼が頭を抱えているのだ。よほど、リョウからの連絡が衝撃的なものに違いない。
『双川君…… もう一度だけ尋ねるが、本当に聖紋と言っていたんだね…… どういうことだ…… そうだ、名前は、名前を尋ねたか? 是非聞いてみてくれ………… なんだって…… カレン? こっちは成田だぞ…… まいったなこれは、ちょっと待っててくれ』
「あら、なんですかタカミ? わたくしに何か御用ですか? 」
なんともないと答えると、高水は手招きでルナを呼んだ。そして、ルナの耳元で小声で呟く。
「羽宮、このカレンは本物か? 」
「それはどういうことですか、意図が分かりません」
まぁ、確かによくわからないだろうなと高水はため息をつく。目の前にいる人物を、偽物だと疑っている、当たり前だ。
「実は…… カレン副長官が二人いるんだ、それも東京にや、双川君に伝えたか? 副長官のこと」
「いえ、その任務は受けていないので。リョウには伝えていません。つまり、どういうことでしょう? 」
少し離れた場所にいる、カレンに軽く会釈をすると深刻そうな顔をする高水。
「つまりだね…… カレン副長官が二人いるんだよ、しかも片方は双川君のところに」
「あのー、もしもし高水さん? ちょっと聞こえてますか、切られたかな。それで、名前はカレンさんなんだよね」
「えぇ、カレンで結構です。そうだわ、貴方の御名前を尋ねていませんでしたわね、さぁ名乗りなさい! 」
双川リョウですと名乗る………… なんでこんなに高圧的なんだろう、この人は。高水さんは何であんなに慌ててたんだろう。
『おそらくだが、高水の方にもこいつと同じような人間がいるらしいな、訳がわからない。どちらかが偽物ということか…… わからない。だが目の前にいるのは魔族ではない、我が保証しよう』
えっ—— 偽物? しかも魔族とかじゃないの?
「えっ!? なにそれ怖いんだけど、でもアタシからみても魔族とかそんな感じはしないかな…… あっ! わかった」
なに、なんか心当たりでもあるの? ゼウルにもお手上げだったらもう、桃華しか頼れないよ、本当に。
『お手上げではない! 現状の判断ができないだけだ、妖刀などに遅れをとる我ではないぞ!無礼だぞリョウ』
はいはいごめんね、じゃあ、なんかわかったのかな。
『むぅ…… それは………… だな……この …… 』
まぁ、ゆっくり考えて、判断は後でいいから。
「で、桃華は何がわかったの? 頼れるのは桃華だよやっぱり」
「えへへへ…… ありがと。あーっとね、あれじゃないかな、自己像幻視とかかなぁと」
ジコ象原始…… 何を言ってるんだ桃華は、原始人的なことかね?
『…… お前はやはりバカだな。自己像幻視とはな、自分の姿をした幻影のことだ、ほらアレだ、ドッペルゲンガーとかいうやつだな。しかし、実際に存在するのかそんなものが。公国でさえ、再現不可能な能力だぞ………… ところで、何か言うことはないかリョウよ』
大変失礼しました、僕がお手上げでした。
「いや、ドッペルゲンガーなんて義務教育じゃないから別に。知らない人がほとんどだよね、そんなの」
「アタシは知ってたよー、片仮名は初めて聞いたけど」
「当然…… わたくしもですわ。常識ですの」
僕が間違ってますか…… ここには普通の人間は一人もいないから、しょうがないよね。ん?…… なんか、おかしくなかった?
「ということは…… カレンさんはドッペルゲンガーということで良いんでしょうか? 自分で認めてたけど…… 」
「はっ!? こっのわたくしがドッペルゲンガー?! 冗談も休み休み言うことね、わたくしをそんな下等な物と一緒にしないでくださる?! 」
でも、違う場所に、同じような格好で、同じ特徴をした、同じ名前の人間が同時に存在しているなんて—— 説明がつかない。そんなことはどう考えてもおかしい。
「だったら貴方は何者なんだ? 」
「それならばわたくしは、わたくしは—— 聖女ですわよ」
………… やっぱりおかしいな、この人。
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