12節 あくま同盟
目が覚めると、十一月になっていた。深夜だが。………… あれ、結局どうなったんだっけ? もしかして…… 全部夢なのかな…… 羽宮ルナとの戦闘も—— あいつとの出会いも…… 。
『夢ではないぞ…… バカもの。目が覚めたようだな。体は、我の再生能力で治ってるはずだが、怪我はないか? 』
「…… うん、大丈夫みたい。…… それより………… ごめん。…… 僕は何もできなかった…… 」
『何もしなかったの、間違いではないのか。まったく、どうなるかと思ったぞ。—— 我を焦らすな』
確かに—— 僕は何もしなかった。くだらないことのために。そのために…… ゼウルを危険な目に合わせてしまった。………… 本当にごめん。
『何だ、その言い方は!? まるで……. 我を…… 守るようなことを…… 。大体、お前なんかよりも、我の方が強いのだ。今回も、お前を守ったのだからな…… 』
…… そうだね。僕が助けられたね。ゼウルに。ごめんね。
『もうよい!? —— 何度謝るつもりだ。いい加減しつこいぞ。まったく…… 今度、何か美味いモノを食べさせてくれたら、それでいい。だが、その心構えは悪くない。今の我はお前でもある。我を守ることは、自分を守ることにもなるからな。………… あと、嬉しかったぞ…… 少しだけ』
ゼウルが珍しく、口籠る。やはり、プライドが高いからなのだろうか。で、羽宮ルナはどうなんだろう—— 気を失ってみたいだ。
『…… 結局な、同盟を提案したのだ。認めたくはないが、お前の行動は正しかった。おかげで、あいつの思考に、隙を作ることができた。もし、お前が戦うことを選んでいたら—— 我らは殺されていただろうな』
「じゃあ、結局あれで良かったんだね。彼女今頃な…… 」
その時……. 不意に、ドアチャイムの音が鳴った。一体誰だ?! こんな—— 真夜中に。
(この気配…… 間違いない。あの女だ。おい、早く出ろ! おそらく同盟の件に対する返答だろう)
玄関のドアを、ゆっくりと外側に開けると、暗闇の中に立っていた。街灯の一部を浴びた、傘を携えた女が、左手を瞬かせながら。
羽宮…… ルナ? えっと………… 何で、僕の家に? こんな時間に…… 。同盟の件? あぁ、ゼウルの言ってたやつかな。
「な、なに? どうして、ここに…… また、僕を殺しに…… 来たの? 次の日になったから? 」
「貴方には、用はありませんよ。貴方の悪魔に話があるだけです。…… あくまでも」
それって…… ボケたの? 言ってあげたほうが、いいやつ?
(余計な事は考えるな! それより、早く我に変われ。大事な話なのだ。お前にとっても)
……はいはい、どうぞ、頼んだよ。
『我だ。………… で協力関係の件で来たのだろう。さぁ、聞かせてくれ、我と敵対するのか、それとも同盟を結ぶのか…… どうだ?』
「…… その件については、私では判断できません。すいません、ただ私は与えられた任務を、遂行しているだけなので。ですが…… 」
『何っ?! つまり、拒否という事か? 我の申し出を跳ね除けるというのか。我は同盟を申し出たのだぞ! ——それを断るとは、どうい…… 』
ゼウル! —— ちょっと落ち着いて。多分まだ、話途中だから!! 最後まで聞いたほうが、良いよ。言いかけてたよね、なんか—— 。
『む、そうか。感謝するぞ、リョウよ。…… すまない、続けてくれ…………. 女よ。少し、我は焦っていたな、ふふふ』
「ですが…… 私の上司が、貴方達に会いたいと言ってるので、来てください。彼が、返答します」
『なるほど…… そういうことか。だが—— 罠ではない保証はあるのか? 我らを騙すつもりではないな?! 』
「保証することは…… できませんが………… 私の上司よりも私の方が、強いです。なので、もし罠であるならば、私は呼び子ではなく、待ち構え、仕掛ける側になると思います」
えっと………… つまり、羽宮ルナの上司が答えるってことかな?だったら、後で行けばいいんじゃない。別に、何もしないんじゃないの?仕掛ける機会ならいくらでも、あった気がするよ。…… 今だって何もされてないし。
『お前は、甘いのだ。いいか、講和を持ちかけて招待し、油断しているところを殺るのは、人間の常套手段と聞く。その可能性がないとは、言い切れないからな』
…… 待ちかけたのは、ゼウルからでしょ。だから、大丈夫だと思うけどね。………… 最強の魔族なんでしょ? そんなに恐れてどうするの?
『お、恐れてなどいない! ただ、慎重になっているだけだ!! リョウお前はというやつは、』
ちょっ…… 、ごめん。そんな気じゃなかったんだよ。今後は気をつけるよ。……で、どうする? 僕は行ったほうが、いいと思うけど。
『はぁ………… そうだな。おい、お前……名前は羽宮とか言ったな。いいだろう。お前の上司とやらに会ってやろう。…… でいつ、どこに行けばいい?』
「それでは、ついてきてください。今、会ってもらいます」
「夜中だけど…… 今? 」
「えぇ、彼も今この街にいますから」
最近、夜に出歩くことが増えた。ゼウルと出会ってからだよな。それまで、もうこの時間は寝てたけど。
『おい、もう行くぞ。そのために、わざわざ主導権をお前に返したのだからな』
足早に歩く、ルナに連れられてきたのは、駅前のカラオケボックス。待ち合わせの旨を店員に伝えると、角の部屋に案内された。中に入ると、男がいた。彼の見た目だけだとこの場所に似つかわしい。会社帰りのビジネスマンのようだが、彼のどこか寂的な雰囲気のためか、その一部屋だけ静かな印象を醸し出していた。
「羽宮、ありがとう。わざわざ呼びだして、すまないな。こんな時間に。俺が、上司の高水だ」
高水は、スーツの襟を正しながら。こちらを一瞥すると、タブレットを取り出した。
「君が、双川リョウだな。羽宮から報告は受けた。そして君に憑依してるのが、統括局ゼウルであってるか? 」
『あぁ、その通り。我のことだな』
(通常の生活を送っている人間は、我の声は認識することができない。我だけではなく、魔族そのものが認識できない。それは魔族が人間よりも、高次元な存在だからだ。例外として、認識できるものは、過去にどこかで魔族や魔界に由来する力を持っているもの、そして関わったものだ。おそらくこの男は、そのどちらかだろう)
『我を認識できるとは、やはり我らに関わる生活を送っているかわけだな。悪魔狩りか?』
「確かにその通り。だが悪魔狩りではない。神秘に対応する組織もあるが、悪魔狩りなんて時代遅れだよ」
『では、お主—— 何ものだ。何故我らの存在を認知している』
「俺は、組織の人間じゃない。組織の仕事はするけどな。元は神秘や悪魔に対応する、民間の団体だったんだけど…… ご覧の通り、今は二人だがね。団体名は”殻”っていうんだが、まぁそれはいいや」
高水のタブレットには、殻のことが書かれている。呪具や呪物の回収。悪魔や呪いなどへの対応記録など。…… なかなか、興味深い。妖刀、デュラハン、両面宿儺、秘密結社、黒魔法陣、所々黒塗りされているが、どれも本物の記録にみえる。
「日本にそんな組織があったなんて、知らなかったです」
「まぁ、今は大した活動はしてないからな。それこそ…… 組織の下請けだよ」
高水は苦笑いしながら、ネクタイを触り呟いた。
「さて、本題に入ろう。統括局ゼウルの提案を、俺としては………… 受けたいと思う。悪魔たちの目的を探っているのは、こちらも同じだ。それに羽宮だけでは、どうにもならないかもしれない」
『そうか、それならば良い。我もお前たちの協力が欲しいと考えていたからな』
「俺たちも早期解決を望んでる。だから、必要な情報の提供を約束する。双川、君はどうするんだ。そういえば、君はなぜ魔族と戦ってるんだ? 」
「それは…… ゼウルに頼まれたからです。ゼウルは世界と魔界のために、行動している。でも、一人でやるのは大変なことだから、僕も協力しようかと。…… 体を取り戻すためもありますけど」
「ふむ…… なるほど、そうか」
内ポケットから高水は、スマホを一つ取り出した。
「双川君、これを連絡ようにあげよう。無くしたんだろ、ちょうど。俺の番号とアドレスが登録されてるから、情報はそれで渡そう。そして、何かあったらいつでも連絡してくれ。」
「どうも、ありがとうございます」
『では、これより我らとお前たちは同盟関係ということで良いのだな』
「あぁ、そうだ。だがもう一つだけ俺から条件がある」
『む…… なんだ?そういうのは先に言え。で、条件とは』
「その条件は…… これからは常に、この羽宮と一緒に行動することだ。家でもな」
…… え? 同居ってこと?
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