3節 悪魔でも悪るい夢をみるか パート1
10/24 九十九里浜
この体は良く馴染む。やはり、これを選んで正解だったな。
汚れた小屋が一軒あるだけの、荒涼とした海辺で青年が一人佇む。いや、青年ではない。中に在るのは、ホモ・サピエンスにんげんならざるもの。日が昇る前の薄暗い浜辺にて、海風を浴びて、立ち尽くしている。
しかし、ここはどこだろう。我らの地に、少し似ている。薄暗いからであろうか。だから、あやつらはここに、居るのであろう。なぁ、どうだ?
『さすが、統括局ゼウル。見事な推理眼をお持ちで…… 』
『ふふ、戯れを言うな。事前に情報を、得ていたに過ぎないぞ』
『情報ですか……なるほど、私はそれを甘くみていたようですね』
小屋の天井を突き破って、出てきたのは異形。もはや、人を超えた姿形をしたそれは、背丈が二メートルを超えるほど。
かつての人の形を顔、手、足に残しながら、全身がグレーの肌に覆われている。手足には水膜付きの鉤爪がある。また、頭部と顎の部分にトサカが現れ、背中にはコウモリを思わせる三本の黒い翼が生えた。
『どうです? これが私の真の姿です。如何でしょう』
『いかにも、下級という感じだなメイゼルよ。我に挑むのか? ふふっそんな姿で』
『えぇ、そうでしょう。貴方様から観れば、私など凡百のうちの一体。それは否定しません』
『であろう。ならば、すぐに向こうへ戻れ。我のもとで、考えを入れ替えるというならば、この件は不問にする。誰にでもチャンスはある……脱走、反乱の罪は見逃そう。どうだ』
『いいえ、貴方の元に降ることはしませんよ』
『ならば……仕方ない………… 。消滅させるしかないぞ』
『それは、私の言葉ですよ。確かに普段の貴方になら、到底敵わない。だが、だが、今日は違う。貴方は、いや——お前は——今日ここで終わるんだよ。その弱い人間の中にいる、お前と違って——俺は全力を出せるんだよ—— 』
メイゼルが、襲いかかってきた。この我に。まったく……困ったやつだ。攻撃は、ほとんど避けた。所詮は下級。
しかし、今の体は人間のもの。スペックに大きな違いがある。元が高ければ高いほど、その差は広がる。攻撃を捕捉はできても、中身に体が追いつかず動作に重大なズレが生じる。
避けきれず顔に、一撃を受けた。下級とはいえ、一撃でコンクリートに穴を開けられるもの。人間が受けたら、一溜まりもない。
衝撃により、首から上が吹き飛んだ。
『ははっ、見たか—— 。これでもう、下級じゃない。上級?いや、仮にも三公を倒したんだ。今日からは、俺—— 』
『調子に乗るでない。三下風情が…… 』
黄色い光の帯が、低級を左右に切り裂いた。文字通りに。右手を拭いながら、今の自分の脆弱さを痛感した。
『上級以上は、高速再生を持っていることすら知らぬとは…… 』
破壊された、頭部は完全に再生された。頭には多少の痛みが残るかも知れぬが、まぁ大したことはないであろう。しかし、思った以上に人体とは、弱いものだな。
次からは戦い方を変えるとしよう。いつものように、わざとくらった後に技を返していては、こやつの体が壊れてしまいそうだ。
さて、次の場所に行くとするかな。
……そこまで歩いて行ったのかな。僕の体で。
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